2010年11月30日火曜日

紅葉@六義園

 日曜日、六義園の前を通ったら、観光バスが何台も並んで、すごい人。そうか、紅葉の季節で、夜はライトアップもあるのか、と思い、翌月曜日、天気もいいので行ってみたら、やはり観光バスが来ていて、すごい人でした。月曜は明るい昼間の写真を撮り、夜は別の日に、と思っていたけど、もう夜は行く気になれん。
 というわけで、六義園の紅葉と、ユリやススキの写真。











 その後、電車で日暮里へ。日暮里駅構内には人形でできたクリスマスツリーが。


 そして、今日のスカイツリー。陸橋の上から。

 陸橋を越えると猫がいました。

 
 土曜日に急遽、日光へ行くことにしたのですが、もう紅葉は終わっているでしょうね。久しぶりにクレインズのベンチ裏です。

2010年11月29日月曜日

注文した。

 またまた洋書を注文。例の「The Hanging Tree」がアマゾンのミスで送られず、注文がキャンセルになってギフト券で返金、このお!と怒り心頭だった話はもうだいぶ前の話ですが、怒った私は紀伊国屋に切り替え、紀伊国屋で「The Hanging Tree」と「A Single Man」を手に入れました。
 しかし、ギフト券が残ってしまったので、これで何を買おうかと思ったら、ちょうどいい値段の本がありました。
 オールダス・ハクスリーの「After Many a Summer」です。
 「シングルマン」の映画を見た人なら記憶にあるでしょうが、あの映画の中で主人公が大学の講義で話題にする作品です。原作にももちろん、登場する。しかも、映画がらみの内容らしい。
 実は、私、一応、イギリス小説研究者だったのですが、ハクスリーや「シングルマン」の原作者イシャウッドのことはあまりよく知りませんでした。彼らの前の時代までが専門だったんですが(言い訳)、ハクスリーの「すばらしい新世界」くらいは読んでいないといけなかったのに。
 ただ、2人とも、日本の英文学研究の世界では、わりと隙間に入ってしまった隙間作家みたいな感じもあります。翻訳もあまり出ていないし。
 というわけで、また洋書を注文してしまいましたが、前に注文したのをまだ全部は読んでいない…。

2010年11月28日日曜日

12月1日に反対集会

出版労連、東京都青少年健全育成条例の改悪に反対する集会
12月1日(水)18:30~20:30 文京シビックセンター5C会議室
河合幹雄氏(桐蔭横浜大学法学部法律学科教授)

だそうです。一般人は入れるのかどうか知らないけど、行くだけ行くか。
(追記 参加費500円、定員70名だそうです。)

民主党がかなり賛成に動いていて、今回は非常に悲観的な状況らしい。
以下、レポート。現在の動きについて逐一、報告してくれています。
http://angels-pathway.clanteam.com/What_to_do_101123.html

あるサイトにこの問題が取り上げられ、記事の中で、条例施行以前の作品は大丈夫と書いてありましたが、上のサイトを見ると、全然大丈夫じゃない。施行後に増刷になると、それはNGだそうです。となると、誰も増刷しませんよね。
また、ネットで買えばいいや、と思っていると、実は、アマゾンは有害図書指定は扱わないそうです。

上のリンクのサイトを読むと、いろいろ考えてしまうのだけど、都は今回の再提出をねらって、PTAなどに説明に出向き、そこで、反対した都議に関するマイナスイメージを広げたため、反対した都議は次の選挙で落選する恐れがあるため、今回は反対にまわりたくないというふうになっているらしい。

その一方で、日本ペンクラブと東京都弁護士会はかなり強い表現で反対。人権団体も反対とか、希望もあるのですが、結局は議員さんの数で決まってしまうわけで、都議会が始まる前の段階で各党が態度を決めればそれで決まってしまうわけです。

ちなみに、上の集会がある文京シビックセンターは、東京ドームシティのすぐそばの高いビルです。最寄り駅は地下鉄丸の内線、南北線の後楽園駅。

2010年11月26日金曜日

「アンチクライスト」、「エリックを探して」、「しあわせの雨傘」

 ラース・フォン・トリアーの新作「アンチクライスト」を見てきた。
 夫婦が性行為中に幼い息子が転落死してしまい、妻は精神を病み、セラピストの夫が妻を治療しようとする。妻は人里離れた山奥のエデンという山小屋で以前、女性の虐待に関する論文を書こうとしていたが、夫は妻をそこへ連れていって、治療をしようとする。が、妻は凶暴になり、夫に暴力を振るい始め、そして……という映画。
 最後にアンドレイ・タルコフスキーに捧ぐと書いてあるのだけど、冒頭のシーンが「鏡」のようだからだろうか。
 例によって、トリアーの映画は作者の底意地の悪さがありありと出ていて、特に今回はとにかく「痛い」映画だ。その暴力での傷つけ方が「痛い」。痛いのいやな人は見ない方がいいかも、って、実は、一番痛そうな場面はボカシが入っていて、見えません。
 この映画、やたらボカシが多くて、こんなにボカシが多いの、久しぶりに見たような気がするが、日本は東京国際映画祭とかだとボカシを入れないのに、一般向けだとボカシを入れるダブル・スタンダード。昔に比べたらボカシは減ったのだが、それでも、この映画はボカシを入れたためにかなり損なわれた感じがする。
 それはともかく、内容は、女性の虐待を研究していたはずの妻が、女は悪魔だと言い出したり、子供に対して妻が虐待と疑われそうなことをしていたことがわかったりと、なかなかに意味深。エデンといえばアダムとイブだが、この夫婦はアンチ・エデン、アンチ・アダムとイブという感じもして、逆向きの聖書というか、やはりアンチクライスト=反キリスト。しかも、アンチクライストの最後のTが女性を表す記号になっている。
 まあ、いろいろ考えてみると面白い映画なんだけど、客席から笑いが起こるシーンもあって、マジなんだかふざけてんだかわからないようなところもある。3人の乞食(鹿とキツネとカラス)が来たら死ぬとか、この3匹の星座を見て、こんな星座あったかよ、と夫が言うシーンとか、どっちかというと笑ってしまう。最後はどこかで見たような絵を思い出すが、あれは何の絵だったか。
 音楽は最初と最後にヘンデルの「リナルド」のアリアが流れる。これは90年代の映画「カストラート」で使われて一般にも有名になった曲だが、「カストラート」は、ボーイソプラノを維持するために去勢された男性歌手の話。トリアーは絶対、この映画を意識してこの曲を使っている。例のボカシで見えない一番痛いシーンは、女性の去勢だもの。
 つまり、この「アンチクライスト」は、ある種の男女逆転なのかもしれない。もう少し考えてみよう。

 ”すべては美しいパスから始まる”という言葉で始まるケン・ローチの新作「エリックを探して」。ローチというと、社会派のシビアな話が多いのですが、これは楽しい映画でした。娘をもうけた最初の妻からは逃げ出し、2人目の妻は連れ子2人を置いて出て行ってしまい、今はその義理の息子2人の世話をしながらわびしい人生を送る郵便配達員エリック。彼のアイドルはマンチェスター・ユナイテッドで活躍した元スター選手エリック・カントナ。そのカントナ(本人)が、エリックの想像の中に現れ、彼にいろいろと助言する、という話で、特に後半、義理の息子の1人がギャングに脅迫され、一家全員が危機になったとき、仲間の郵便配達員たちの助けでギャングと戦う「カントナ大作戦」が面白い。この映画、タイトルを「カントナ大作戦」にした方がよかったのに、って、ローチの映画でそれはないか?
 この作戦にはユーチューブが大きな役割を担っているのだが、主人公の同世代のおじさんたちはユーチューブを知らない、というのも笑えます。
 エリックがカントナに、人生最高の瞬間について聞くとき、カントナが、それはゴールではなくパスだ、と語るシーンがすばらしい。カントナがチームメイトにパスを出し、パスを受けた選手がゴールする実際の試合のシーンが流れ、そして、エリックは言う。
「彼がはずしたら?」
「仲間を信頼しなければ負けだ」とカントナ。
 サッカーに詳しくない私はエリック・カントナを知りませんでしたが、カッコイイです。

 フランソワ・オゾン監督の新作「しあわせの雨傘」も楽しいコメディでした。雨傘工場の社長夫妻をめぐるコメディで、舞台は70年代。独裁的な経営者の社長が組合のストで暴れて社長室に閉じ込められ、息子が説得に行くも、その息子にまで社長は暴力をふるい、やむなく、妻が昔の恋人で元従業員、今は共産党員の市長に頼んで夫を救い出してもらう。が、夫はショックで病気に。そこで、専業主婦だった妻が社長の代理をつとめることになるが、創業者の娘でもある彼女は従業員の心をつかみ、夫の愛人だった秘書も彼女に心酔して自立した女になり、工場の生産性も上がり、というところで、夫の反撃が始まる、という話。
 この映画では妻と息子が左翼的で、夫と娘が右寄りって感じで、そこに共産党員の市長がからむのですが、息子がある女性と結婚したいというと、父親が猛烈に反対、というのも、彼はその女性の母親と不倫していたので、近親相姦になるから、というのですが、それに対し、妻は、近親相姦にはならないわよ、だって……。この、だって、のあとは映画で見て確かめてください。
 ヒロインの社長夫人がカトリーヌ・ドヌーヴ、市長がジェラール・ドパルデューで、そして、夫の社長がエリック・ロメールの常連だったファブリス・ルキーニ。ロメールの映画に出ていた頃はけっこう好きな俳優だったのですが、年をとってしまって、昔のような雰囲気ではなくなっていたのが少し残念です。

2010年11月24日水曜日

「シングルマン」を読んでいます。

 今、クリストファー・イシャウッドの「シングルマン」を原書で読んでいます。コリン・ファース主演の映画とはかなり違う。原作の方がビターで、マイノリティである主人公の、マジョリティに対する怒りや憎しみが書き込まれていて、映画のソフトでもの悲しい感じとはかなり違います。設定などもだいぶ違う。
 例の東京都の条例について、どんな意見が出ているか、検索しているのですが、思ったほどまっとうな批判文がないこと、そして、今回は民主党が賛成にまわり、可決の可能性が大だというニュースに気分が重くなります。
 そんな中、反対する人のまともな意見をいくつか読み、中には、幼い頃に性的虐待を受けた女性が、こんな条例を作っても被害者は減らない、自分のような立場の人間を利用して条例を可決しないでほしい、と訴えているのには、涙が出そうになりました。
 また、この条例にマイノリティへの差別を見ている人の少々難解な論文数点も読みましたが、たまたま、「シングルマン」を読んでいたこともあり、この2人がどちらもマイノリティの問題に踏み込んでいるところにいたく共感しました(リンク、わからなくなって、貼れませんが)。
 今回の改正案は、性描写を取り締まるだけにとどまらず、マジョリティの考える普通の性愛以外をすべて悪だと断じてしまうようなところがあります。「シングルマン」の主人公、ジョージの、マジョリティに対する怒りの描写を読むにつれ、あの条例の背後にいる、時代遅れの偏屈な、差別主義者たちの姿が見えるような気がしてならない。ジョージはコリン・ファースのようなおだやかな人ではありませんでしたね、原作では。

追記 ツイッターで見つけたもの

dragoonyouie 「社会規範に反するものを規制」てのはものっすごく簡単にマイノリティ差別に転換する。というより社会規範上模範的てのはマジョリティの理屈でしかないから社会規範に反すると言った時点でマイノリティの拒絶そのものなのね。そこに差別感情が無いなんてことあるわけないと思うの。

けっこうみんな、問題点に気づいているみたいなので、少しほっとした。

2010年11月23日火曜日

とってもやばい東京都青少年健全育成条例

 今年3月に都議会に提出されて、全国から反対の声が上がり、否決された東京都青少年健全育成条例が、改正されて今月末にまた都議会に提出されるらしい。以下、そのニュースと、条例の全文や改正点がわかるリンクがあるページ。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1011/22/news081.html
 この条例は、映画や小説ではなく、アニメや漫画やネット上の映像などを取り締まるもので、前の条例は、18歳未満と思われるキャラの性行為があるとNG、成人指定、みたいだったのだが、今回はそれをはずして、刑法で罰せられる性行為とその類似行為(要するに強姦)と、婚姻が許されていない近親相姦とその類似行為(類似行為ってのがキモだね)を肯定的に描くと規制の対象になるそうだ。
 つまり、オイディプス王を漫画にするとNG(肯定的じゃないからよいかもしれないけど)。
 源氏物語をアニメにするとNG。
 ルイ・マル監督の「好奇心」を漫画にするとNG。
 そして、たぶん、「風と木の詩」はNG。
 「僕は妹に恋をする」は都職員にはっきりNGと言われたらしい。
 NGになっても、18歳以上は見られるのですが、あなた、「風と木の詩」が読みたいと思って、書店へ行って、18禁のコーナーへ行って買えますか? 神田の神保町にある成人向けの本屋さんみたいなところへ行かないと、「風と木の詩」が読めなくなるって、絶対反対だ!
 「風と木の詩」は父と息子の同性愛の近親相姦、というよりは、あれははっきり近親強姦です。息子は父に強姦され、しかし、父との愛に溺れていく、そういう漫画です。そういうのを、私の世代やその下の世代は、18歳未満で読んで、いろいろ考えて、成長していった。
 「風と木の詩」はすでに名作としての評価が高いからNGにしません、と、仮に都職員に言われたとしたって信用できん。第一、書かれたときはまだ名作の評価なかったんだから、そのときだったらNGにされてた。
 なんで映画と小説はいいんですかね。それも変。
 それと、一律18歳未満はだめ、というのも変。少なくとも、映画はもっと細かい年齢制限がある。
 また、婚姻が認められない近親相姦を、あたかも犯罪であるかのように書いてあるこの条例は、新たな差別を生む恐れがある。もともと、近親者の結婚が許されないのは、家族制度を乱さないためで、近親相姦で生まれる子供に遺伝的悪影響があるとか、そういうことはない。また、幼い頃に別れ別れになった親子きょうだいが、大人になって、近親者と知らずに恋に落ちることもある。それで、近親者とわかったけど、やっぱり愛し合うのをやめられない、というカップルを描いても、それは肯定的だからNGか。
 だいたい、強姦という言葉は条文に入れなくて、近親相姦という言葉は入れるって、どうよ。
 とにかく、この条例は、作った人たちがよく考えずに作ってる感じがものすごくする。それで、東京都がやれば、それはもう全国に影響し、国の法律変えるのと同じ結果になる。しかも、やりかたがずるい。こそこそやって、いつのまにか全国規模の規制が始まっちゃうみたいな感じ。
 改正案は規制の対象が明確になったみたいな報道が多いようだけど、実際は、むしろあいまいになっているというか、いったい、何を規制したいのかよくわからない。近親相姦にイチャモンがついて、じゃあ、近親相姦ははずします、とか、次にはなるのかね。ますます言葉があいまいになる。
 とにかく、これが通ったら、コミケはかなりの影響を受けるだろう。思えば、私がコミケで本を売っていた1990年代はじめ、晴海の国際展示場が手狭になって、千葉県の幕張メッセで開催するようになったとき、千葉県のどこかの親が、千葉県の施設でこんなわいせつな本を売っている、けしからん、と教育委員会に訴えて、コミケが幕張メッセで開催できなくなり、また晴海に戻り、その後、東京ビッグサイトができて、以後、そこで開催されているわけなんだが、そのビッグサイトは東京都のものらしい。

追記
 上で、強姦という言葉を使わないと書いたのは、近親相姦と並べては使っていないということですが、他の部分に、「強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為」を肯定的に描くとNGというのがあります。そして、実はこの社会規範に反する性交に、同性愛を含めようとしているという憶測があります。実際、都では、同性愛は法律的によくないという理由で、ボーイズラブの小説を有害指定したことがあるとのこと(同性愛を禁じる法律はありません、念のため)。
 同性愛を条文に入れると、人権団体から差別を指摘されるので、反発しにくい近親相姦でごまかしたのか? なんにしろ、この条例の向いている方向が明らかになったと思う。はっきりいって、女性への攻撃や抑圧を感じる。

条例に反対する山口弁護士のコメントがついた新条例全文
https://docs.google.com/document/d/1pprDalw9Cg6bkM7vlmX90AxzcpmNVKaJhy2eij6wrBg/edit?hl=ja&authkey=CMrojNwI#
この条例の背景には、婚姻を前提としない性行為をすべて禁止する純潔思想がある、という指摘は重要です。女性への攻撃と感じたのはまさにそのためです。

2010年11月21日日曜日

スカイツリーと秋景色

 久々に猫スポット周辺へ行って、写真を撮ってきました。
 まずは、途中のお寺の中にいた猫たち。


 そして、今日のスカイツリー。第2展望台が作られつつあるようです。


 猫スポットの秋景色。ここはまだイチョウがそれほど黄色くなっていません。





 最後に、上野公園の入口のイルミネーション。

2010年11月20日土曜日

午前十時の映画祭第2回開催決定

 好評の午前十時の映画祭、来年度の第2回のラインナップが発表されました。
 http://asa10.eiga.com/2011/
 ということで、詳しくは上のリンク先をご覧ください。

 第1回の目玉は「ライトスタッフ」完全版の日本での劇場初公開でしたが、第2回の目玉は初公開時、テロの脅迫で上映中止に追い込まれた「ブラック・サンデー」の劇場初公開です。いやあ、あれはほんと、ビデオで見ても、これは映画館で見たいなあ、と思わせるものでした。
 そして、ラインナップを見て、うれしかったのは、「ミツバチのささやき」(1973年製作)があることです(その後の追記 「ミツバチのささやき」は事情で上映されませんでした)。
 ご存知、ボリス・カーロフの「フランケンシュタイン」をモチーフに取り入れたこの映画、日本での公開はだいぶ遅れて1985年でしたが、実は、私が創元推理文庫「フランケンシュタイン」(1984年発行)の解説を書くために参考にした本(70年代末発行の洋書)に、「フランケンシュタイン」関連の映画の1つとして、「ミツバチのささやき」がすでに出ていたのです(もちろん、原題で)。しかし、当時はまだ日本未公開で、どういう映画かもわからず、解説に取り入れることはできませんでした。その後、公開された映画を見て、ああ、この映画も解説に入れられたらよかったのに、と心から思いました。
 「フランケンシュタイン」関連の映画は、その後、「ブライド」、「ゴシック」、「幻の城」、ケネス・ブラナーの「フランケンシュタイン」と、次々と新作が生まれていきましたが、これらは解説を書いたときには存在しなかったので、入れられなかったのはしかたなかった。でも、すでに存在していた「ミツバチのささやき」を入れられなかったのは今も残念です。
 余談ですが、「フランケンシュタイン」解説を書いたとき、私の中には、リドリー・スコットの「ブレードランナー」について書きたい、という密かな欲望がありました。「ブレードランナー」が日本で公開されたのは1982年。当時はまったく話題にならなかったものの、私はこの映画に魅せられ、この映画の人造人間テーマについて、どこかに書きたいと思っていたのです(当時はまだ評論家にはなっていませんでした)。そのチャンスが来たのが83年秋の「フランケンシュタイン」解説執筆。まさに、キター!という感じで書いたのがあの解説。本が出たとき、「ブレードランナー」を入れたのはすごい、と、SFファンから言っていただきました。その後、「ブレードランナー」はカルト的な人気を博し、この映画の「フランケンシュタイン」のテーマは誰もが指摘するようになりましたが、あの頃は、ほんと、私以外はたぶん、ほとんど誰も言っていなかったと思います。もっとも、その理由は、「フランケンシュタイン」が当時はほとんど読まれていなかったからでもあります。創元の本が出て、初めて読んだSFファンも少なくなかったのです。
 そんなわけで、「ミツバチのささやき」がまた映画館にかかるわけですが、スコットの「エイリアン」もラインナップに入っていますね。今回はホラーが入っているのが前回との違いに思えます。
 私自身は、朝が苦手ということもあって、午前十時には映画館に行けないでいるのですが、来年度は終日上映の劇場もできるとのこと。そして、第1回の作品も引き続き、別の劇場で上映が続くそうです。
 今度、ラインナップの100本について、一言コメントとかやろうかなあ。でも、実は、見てない作品もわずかですが、あるのです。それを見なければ。

関連記事
フランケンシュタイン
http://sabreclub4.blogspot.com/2010/11/blog-post_07.html

2010年11月17日水曜日

セイバーズ、ホームで2連続OT勝利

 今季は全然ネットラジオを聞いてないのですが、セイバーズ、現地時間土曜と月曜にホームで2連続OT勝利です。土曜はカンファレンス首位のキャピタルズ、月曜はカナックスが相手。セイバーズはミラーが土曜から復帰、相手ゴーリーはどちらも新人なのかな?
 土曜はヴァネクがOTでみごとなゴールを決めましたが、月曜のマイヤーズのOTゴールもすばらしい。その月曜のカナックス戦のOTのフルビデオがアップされています。
http://sabresfans70.proboards.com/index.cgi?board=sabres&action=display&thread=16836
 これ、画質がすごくいいので、フルスクリーンで見てもとってもきれいです。今季、ダメダメだったマイヤーズとヴァネクが最近、調子よくなってきたみたいで、ヴァネクの活躍ぶりもこのビデオでわかります。ロイ、エニス、ヴァネクのREVラインが最近、非常にいいらしい。リック・ジャネレットの実況も相変わらずファンにはうれしい名調子。ホームで負け続けだったのに、アリーナはソールドアウトっていうのもすごい。ゴールを決めて喜ぶマイヤーズとチームメイトの後ろで、なぜかカナックスのジャージを着た客が喜んでますが、カナックスも好きだけどセイバーズも好きなのか、マイヤーズのファンなのか?
 最近、やっと勝てるようになったので、順位も少しずつ上がってきたセイバーズ。ミラーも休んで調子を取り戻したようです。

追記
 セイバーズが創設40周年を記念するDVD付きパンフレットを発売して、NHL公式サイトでも通販をしているのですが、申し込むときの書き込み必須の項目に、よくわからないことがあるので申し込めないのです(とほほ)。まあ、うちのクレジットカードだとはねられる恐れがあるから、書き込めてもだめかもしらんが。アマゾンで売ってくれ!

2010年11月16日火曜日

試写2本立て@六本木

 六本木の試写室をハシゴして2本見る。1つはオリヴァー・ストーンの新作「ウォール・ストリート」、もう1つは園子温監督の新作「冷たい熱帯魚」。どちらも面白かったが、特に、「冷たい熱帯魚」はすごい傑作だった。

 「ウォール・ストリート」は1988年のストーンの映画「ウォール街」の続編。前作の最後に逮捕されたゲッコー(マイケル・ダグラス)が、5年の裁判と8年の服役を経てシャバに出てくるところから映画は始まる。他の受刑者はみな、家族が迎えに来ているのに、ゲッコーには誰も来ない、というわびしい冒頭。そして、7年後の2008年、経済評論家として作家活動をしているゲッコーのところに、彼の娘ウィニー(キャリー・マリガン)と婚約中の青年ジェイコブ(シャイア・ラブーフ)が現れる。青年の勤めていた投資銀行がライバル銀行のやり手ブレトン(ジョシュ・ブローリン)の陰謀で潰され、父親のような存在だった社長が自殺、その復讐のために、ゲッコーに近づいたのだった。ゲッコーの娘ウィニーは金のことしか頭にない父を忌み嫌っているが、ジェイコブはゲッコーに近づき、協力を得るかわりに娘との仲を取り持とうとする。
 前作「ウォール街」は、チャリー・シーン演じる青年がまじめな父(マーティン・シーン)よりも、カリスマ投資家で、欲は善と豪語するゲッコーにひかれていき、しかし、結局は、ゲッコーは「悪い父親」だったとわかるという話だったが、当時のストーンの映画は人物が善と悪にはっきり分かれていて、象徴的な寓話を思わせる内容が多かった。そして、何より、ストーン自身の父親との葛藤を反映した、父親のような存在の人物と若い主人公の葛藤を描いていた。
 しかし、さすがに22年たって、今では、ストーンはそういう父親のような人物と息子のような人物の葛藤を映画の中心にはしていない。この映画では、ジェイコブはゲッコーの娘と結婚する予定なので、ゲッコーは義理の父になるわけだが、重点は息子ではなく父親の側にある。ゲッコーはもう一度、娘の父になりたがっていて、また、娘と結婚するジェイコブの父にもなりがたっている。
 一方、ジェイコブは復讐のためにブレトンの部下になるが、ここではブレトンがジェイコブの兄貴的な人物になる。おいおい、復讐はどうしたのよ、と思っていると、結局、ブレトンはジェイコブが期待する研究への融資を妨害し、ジェイコブはブレトンと決別。結局、また復讐、ということになるのかと思っていると、例の金融危機が勃発。その後、いろいろありまして、途中からゲッコーが突然、本性をあらわしたりもするんですが、まあ、一応、最後は復讐ってことになるのですが、いろいろな意味で。
 「ウォール街」のように、ストーンは画面分割したり、スピード感あふれる映像つくりをしたり、自分が画面に登場したりと、楽しんで映画を作っていますが、やはり、前作のような映像の斬新さ、物語の求心力はありません。チャーリー・シーンが「ウォール街」のときの役でちょっと出てきますが、「ウォール街」の最後に目覚めたはずの主人公がこんなオヤジになってるのかと思うとかなりがっかり。でも、マイケル・ダグラスは「ウォール街」と変わらぬカリスマと演技力ですばらしいです。また、ストーンの「ブッシュ」に主演したジョシュ・ブローリンの存在感もダグラスに負けず劣らずで、この2人を見るだけでも見に行く価値はあるでしょう。一方、女優陣のキャリー・マリガン、スーザン・サランドン(ジェイコブの母)は、なんでこんなにブスに撮るの?っていうくらい、魅力がなくてびっくりです。ただ、ストーンがダメな母親を描くのはめずらしいかもしれない。

 園子温監督の「冷たい熱帯魚」は、埼玉愛犬家殺人事件と他の猟奇殺人事件をヒントにした映画で、英語題名はコールドフィッシュとなっているが、ゴールドフィッシュ(金魚)のもじりかもしれないなと思った。
 舞台は2009年1月の静岡県。雪をかぶった大きな富士山と、工場の煙突がドーンと出てくるシーンが印象的。主人公は小さな熱帯魚店を営むもの静かな中年男。先妻を亡くし、若い後妻と、先妻との娘の3人で暮らしているが、娘は学校を出ても家でぶらぶらしているようで、父親は完全にバカにされ、義母は嫌われている。ある日、スーパーで万引きをした娘を、許すようにと店長にかけあってくれた男がいて、その男が大きな熱帯魚センターを営んでいることがわかる。その名もアマゾンゴールド(やっぱりゴールドだ)。アマゾン川から珍しい魚をいろいろ仕入れているということもあって、何度も台詞でアマゾン、アマゾンと言うので、あっちのアマゾンかと思って冷や冷やした。
 そして、そのアマゾンの経営者は、親切にも、万引きした娘を住み込みで働かせたらどうかと提案。後妻と娘の不仲もあって、父親も母親も娘も賛成し、娘はアマゾンの店員になる。
 このアマゾンのオーナーはでんでんが演じているのだが、最初はものすごいいい人に見える。が、やがて裏の顔が表に出ると、これがものすごく怖い。まさに豹変。実は彼は熱帯魚の養殖の共同経営者になれと金持ちに働きかけてお金を取り、殺して死体を細かく裁断して捨てていたのだ。
 というわけで、娘を人質にとられた格好の主人公は、殺人に協力せざるを得なくなる。オーナーのまわりには奇妙な人物(共犯者)が集まっていて、オーナーと同じくらい狡猾で、表と裏の顔の豹変がすさまじい弁護士、血を見るのは全然平気で、夫と犯罪を楽しんでいるオーナーの妻も、でんでん演じるオーナーと同じくらい存在感バツグンで、個性爆発というか、とにかく、この3人はすごい。このオーナー側の3人の強烈な個性に比べると、主人公一家の3人はまあわりと普通という感じなのだが、実は、この主人公が途中で豹変します。そして、豹変したあとは、この主人公を演じる吹越満が映画を乗っ取ってしまう。それまではメガネをかけた小心者だったのが、いや、このあとは映画を見てもらいましょう。
 前半はとにかく、オーナー側の3人の個性と演技でぐいぐい引っ張られていきますが、後半は主人公の変貌によって明らかになる人間の真実、人生の真実、それがすごいです。血糊がいっぱいの凄惨な映画なのに、クスッと笑ってしまうシーンがあるのもまた不思議。弁護士役の渡辺哲が、この映画を「偉大な喜劇」と呼んでいますが、同感です。オーナーの妻役の黒沢あすかもすごい。主人公の妻と娘役の神楽坂恵と梶原ひかりはどこにでもいそうな普通感がよいのだと思った。
 まあ、とにかく、面白い映画です。ただ、死体の解体は、あんなに楽でも短時間でできるものでもないと思いますが。ラストはちょっと、キム・ギドクの映画を思い出した。

2010年11月14日日曜日

「The Hanging Tree」読了

 「The Hanging Tree」読み終わりました。
 やっぱり第1作「Starvation Lake」の二番煎じという感じでしたね。ただ、最後の30ページくらいは、死んだ女性の悲しい過去と、彼女と関係のあった女性たちの業のようなものが感じられて、ちょっとよかったかな。ただ、そこまでは、第1作の**を利用した組織が、@@を利用した組織に変わってるくらいでね(うーん、二番煎じ)。新しい登場人物も、第1作の登場人物と同じパターンで、名前が変わっただけみたいでした。
 デトロイト・レッドウィングスがやたら出てくるのは、やっぱり人気チームを出さないと、というのがあったのかな。でも、ホッケー的には前作の方が断然、面白かったです。
 そして、第1作の冒頭のプロローグ、第2作でもやっぱり無関係です。あれはいったい、なんだったんでしょうね。あそこだけ三人称なんですけど。
 で、結論としては、第1作の方がホッケー的によい分、上だったな、というところです。第2作はホッケーは、新しいアリーナ建設への期待とか、子供をNHLに入れたい親とか、そういうオフ・アイスの話ばかりでした。オン・アイスでは、著者の予告どおり、主人公はゴーリーをやめてフォワードになってましたが、後半、やむなくゴーリーに戻るシーンがあるんだけど、ここのホッケー・シーンは、「スラップ・ショット」のハンソン兄弟的な乱闘ギャグというか、足にパックをぶつけられた主人公が、仕返しに相手(恋仇でもある)の急所をゴーリー・スティックでぶん殴り……という、邪道な展開でしたね。もう、マジメにやれ! しかし、おじさんホッケーのレフェリーが高校生というのも笑えた(乱闘とめられない)。
 あと、第1作でも思ったのだけど、まわりは事情を知ってるのに、なぜか主人公だけが知らないという状況がここでもあるのですね。特に母親が何でも知ってるんだけど。こんなに鈍感な主人公がよく新聞記者なんかやってるなあと思ってしまいます(第2作ではあちこちで女に助けられている)。まあ、記者としての主人公も突っ込みどころ満載ではあるのですが、ホッケー以外は突っ込んでも面白くないのだ。

2010年11月12日金曜日

いやな予感

 「The Hanging Tree」、3分の2まで読み終わったのですが、なんか、これ、第1作の二番煎じじゃねえの? といういやな予感が……。もともと小説としての文章が下手な人だし、内容そのものもあまりオリジナリティはないし、ただ、ホッケーの部分が生き生きとしていて、しかも突っ込みどころ満載というのが楽しかったんだけど。
 第1作ではてんこもりにしたサブプロットの多くが放りっぱなしにされたままだったり、数行で都合よく解決してしまったりしていたのですが、第2作ではそれらが継続して描かれるのかな、と思ったら、なんと、全部リセット! 湖と湖の間にトンネルがあるんじゃないかという話は完全にリセット。マリーナ問題もあっさりリセットで、その問題のスーピーの相手は完全に消えている。なんだよ、主人公以外すべてリセットかよ。
 そして、第2作では唯一の魅力だったホッケーもあまり出てこなくなって、出てきても、あまり面白くなくなっていて、しかも、筋書きが二番煎じかもしれない、といういやな予感に満ち満ちている今なのですが、第1作の欠点をずばりと言い当てたブログを見つけてしまいました。
http://dokushobaka.seesaa.net/article/167577784.html
 ほんと、そのとおりなんですよ。特に、キャラについての記述はまったくそのとおりで、第2作を読むと、この人、ほんとに人物をふくらませるのが下手っていうのがわかる。人物をだいじにしていない。つか、だいじなのは自分の分身の主人公だけか?
 この第1作、かなり絶賛の書評が出回っているんですが、これは処女作ご祝儀、つまり、今後への期待をこめているところがありそうな気がしますね。第2作が二番煎じだったら、もう、この人の本は読まなくていいや、と本気で考えています(あと100ページだ、がんばれよ、著者)。

 話変わって、小学生の自殺に関する報道で、ある特定の新聞とテレビに対する批判がツイッターに出ていました。その新聞とテレビだけでなく、日本の自殺報道には非常に大きな問題があり、むしろ自殺を誘発するものになっているということが、以下のサイトで述べられています。
http://www.lifelink.or.jp/hp/jisatsuhoudou.html

2010年11月11日木曜日

リンディ・ラフ、1000試合達成

 セイバーズは日本時間今日午前中の対デビルズ戦で、リンディ・ラフがヘッドコーチとして1000試合達成。チームもルーキー、エンロスが2試合連続シュートアウト勝ちで、今季初の連勝です。
 ま、相手はリーグ最下位独走中のデビルズで、セイバーズは鼻の差でリーグ下から2番目なんですが。デビルズは超高額年俸選手コバルチャクがだめだめで、セイバーズの勝因の1つにあげられています。
 エンロスはシュートアウトで勝てるというのがすばらしいね。コバルチャクが最後にコケてくれたおかげかもしれないけど。

追記
 セイバーズが40周年のヒストリー・サイトを立ち上げていますが、その中のビデオ集に、デレク・プラントの97年プレーオフの劇的OTゴールが入っています。
 今のところ、アップされているビデオのほとんどは70年代で、80年代がモギルニーの亡命、90年代がこのデレクのOTゴールってことで、やはり記憶に残る選手だったのね、デレク。
http://forty.sabres.nhl.com/video.asp

続編を読んでいるんですが

 ホッケー・ミステリー「Starvation Lake」の続編、「The Hanging Tree」を読んでいるんですが、ホッケー激減です(がっくし)。
 前作は原書で370ページもあったけど、今回は300ページあまり、ということで、もう半分以上読んだんですけど、ホッケー・シーンが出てくるまでに130ページもかかってるよ。そのシーンもわずかで終わっちゃうし。前作は前半と後半に重要なホッケー・シーンがあって、そこがよかったというか、突っ込みどころも満載で楽しかったんだけど、今回はそういう楽しみはないわ。
 で、ストーリーは、前作から1年たった1999年2月。そうです、前の記事では書かなかったけど、前作は1998年2月が舞台なんです。1998年2月といえば、NHL選手が初めて五輪に参加した長野五輪が開かれていたわけなんですが、小説には長野のナの字もなかったですね。いくらアメリカ人がオリンピックに興味がないったって、初めてNHL選手が参加した長野五輪が一滴も出てこないってどうよ(とまた突っ込む)。
 だいたい、なんで1990年代末に設定してるのかもよくわかんないんですけどね、このシリーズ。ま、それはいいか。
 で、ストーリーは、というと、前作から1年たったスターヴェイション・レイクの町。主人公ガスは相変わらず地元の新聞で記者をしているのですが、新聞がインターネットやテレビまで手広くやっている会社に買収され、編集長も、その会社にコネのある若いのに代わっています。また、地元に住む金持ちの弁護士の息子が将来を期待されるスーパー・ゴーリーで、主人公が少年時代に所属していたチームにいるのですが、その弁護士が町に新しいアリーナを作ろうとしていて、最初は建設費を全額出すとか言っていたのに、金が足りないから町からも一部費用を出せと言い出していて、もめてる最中。真ん中あたりにちょろっと出てくるホッケー・シーンは、この弁護士の息子の試合です。
 前半がホッケーの話ばかりで、ミステリーの部分がなかなか動かなかった前作と違い、続編はのっけから事件勃発。ガスのまたいとこで、親友スーピーの恋人のグレイシーが木で首を吊った。自殺と思われたが、ハシゴも車もないし、生命保険に入ってるし、で、他殺の可能性が浮上。グレイシーはガスと同じく、しばらく町を離れてデトロイトで生活していたのですが、やはり最近、町に戻って、リンクの製氷をするザンボの運転手をしていたのでした。
 というわけで、ホッケー・シーンはほとんどなく、普通にミステリーとして話は進んでいきます。まあ、ミステリー・ファンにはこの方がいいに違いないというか、きっと、編集者から、第1作はホッケーの話が多すぎたから減らせと言われたのね。アメリカ人の大部分はホッケーなんて見たこともないからね。
 そんなわけで、ホッケー・シーンはないわ、突っ込みどころもないわ、で、私的には前作ほどわくわくできないのですが、殺されたグレイシーという女性が謎めいた過去の持ち主で、狂気じみた行動をとる女性だったようで、この女性の過去が明らかになる後半は期待が持てそうです。
 あと、やっぱり、アメリカでも私みたいに突っ込む人がいたんだろうね。前に、スーピーはディフェンスマンと書いてあるのにディフェンスの描写がない、と書いたけど、続編では数行だけど、ディフェンスについて書いてあるわ。ホッケーに関する記述も前作よりはまともになったというか、その分、突っ込めなくてほんと、つまんないよ。
 というわけで、以上、中間報告でした。

関連記事
「Starvation Lake」読了(少しネタバレ)
http://sabreclub4.blogspot.com/2010/10/starvation-lake.html
スーピー・キャンベル
http://sabreclub4.blogspot.com/2010/10/blog-post_6120.html

2010年11月9日火曜日

ヴァンサン・ランドンは超法規的男が似合う

 先週の月曜に試写を見せてもらったフランス映画「君を想って海をゆく」の話を書かなければ、と思っているうちに1週間がすぎてしまった。
 フィリップ・リオレ監督、ヴァンサン・ランドン主演のこの映画、フランスの難民問題を扱ったシリアスな社会派ドラマで、非常に見応えがあった。
 クルド人の難民の少年が徒歩でフランスにたどり着き、フェリーに密航してイギリスへ渡ろうとするが、二酸化炭素の検査に引っかかって見つかってしまう。祖国イラクは戦争中ということで、強制送還にはならなかったが、イギリスに恋人がいる彼はどうしてもイギリスへ行きたいと思い、ドーバー海峡を泳いで渡ろうと、市民プールで水泳を教えている元水泳選手のコーチにつく。かつては金メダルを取ったこともあるコーチは、今はしがない中年男で、妻とは離婚手続き中。難民問題になど関心がなかった彼は、難民支援のボランティアをしている妻の気を引きたくて、少年に水泳を教えることになる。
 舞台はイギリスに最も近いフランスの町、カレで、ここにはイギリスへ渡ろうとする難民が大勢いる。フランス政府は難民に冷たいらしく、難民を支援するボランティアを逮捕したり、ボランティアが難民に食事を配っているところに警官隊が来て、催涙ガスで難民とボランティアを追い払ったりするということが映画の中に描かれている。少年を自宅に招いたコーチも住民の通報で警察に呼ばれる。難民を助けると実刑5年になることもあるという。
 町の人々の中には難民に冷たかったり、あからさまに差別をあらわにする人もいる。特にコーチの隣人は、部屋の前のマットに「ウェルカム」(映画の原題)と書いてあるのに差別意識丸出しで、コーチと少年が同性愛だという嘘の噂をたてる。コーチも最初は難民にかかわりたくないという気持ちが強かったが、そうした人々や警察のやり方にしだいに怒りを感じ、なんとしても少年を助けたいと思うようになる。
 コーチを演じるヴァンサン・ランドンがすばらしい。彼は「すべて彼女のために」というアクション映画で、無実の罪で投獄された妻を法を犯してでも奪い返す男を演じたが、彼は法律の一線を超えてでも愛する者を救い出そうという男が実によく似合っている。「すべて彼女のために」では、妻の無実を証明するのが事実上、不可能だから、という背景があって、主人公は法を犯して妻を脱獄させるのだが、この「君を想って海をゆく」では、法律の一線を超えてでも少年をイギリスへ行かせてやりたいという思いに、しだいに駆り立てられていく過程がよく描かれている。難民をイギリスに密入国させるのは法律違反だが、ときに人はその一線を超えてでも、人を助けたいと思うのだという心情が、ランドンの演技から伝わってくる。
 一方、イギリスにいる恋人は、父親から無理やり結婚させられようとしている。恋人の家族はなぜか、イギリスでの市民権を得ているのだ。同じ難民でも、なぜ、一部の人は市民権が得られ、他の人は得られないのか、その辺は映画は触れていないが、そうした現実があることをイギリスのシーンでは描いている。おそらく、この一家はコネがあるからで、そうしたコネ社会の中で、娘は無理やり結婚させられるのだろう、という感じがする。
 少年は果たして、ドーバー海峡を泳ぎきれるのか、離婚手続き中のコーチと妻はどうなるのか、そして、結婚を強制されているイギリスの恋人は? このあたりはネタバレになるので、書かないけれど、クライマックスから結末へのシークエンスはすばらしい。ここでもランドンの表情がすべてを引き締めている。

2010年11月7日日曜日

Ennis & Enroth

 14試合終わって、3勝9敗2OT負けという、何が創立40周年だよ、なセイバーズ。いまだホームで勝ちなし。この前勝ったのはいつだったっけという状態で、もう今季は見放して、ネットラジオも聞かず、結果だけ見る日々。で、日本時間の今朝はリーフス戦。創立以来、リーフスをカモにしているセイバーズは、どん底にいてもリーフスにだけは勝てるのですが、さすがに今季はそのリーフスにも負けるだろうと、やはり、午前中は寝てました。
 が、結果を見てびっくり。2対0で負けてたのに、終了13秒前にヘヒトが同点ゴール。そして、シュートアウトでエニスが決めて、セイバーズ、久々の勝利でした(ハイライトも見た)。
 とりあえず、これで4勝目なんですが、なんでこんなひどい開幕スタートかというと、実はミラーがキャンプのときからケガをしていた。そして、ケガをおして出場していたのですが、それじゃ勝てるわけない。ほかの選手もよくないんですが、セイバーズはミラーがいるから持ってるチームなわけで。
 で、結局、ミラーはケガを治すためにロースターからはずれ、ラリームとエンロスがゴールを守るようになったのだけど、この2人でも勝てず。そこそこがんばってるのだが、なんせ、ほかの選手がだめなもんで。あと、ラリームは、なんかねえ、負け犬の星がついちゃってる感じだよね。人間的にはすごくいい人らしいけど、オタワ時代からなんか負け犬のイメージ。
 一方のエンロスはまだNHLでのプレー経験が非常に少ない、主に二軍の新人。スウェーデン出身で、ジュニアの世界選手権で銀メダルを取ったという期待の星で、今季あたりからバックアップはエンロスでいいのでは、という声もあったのですが、まだまだ未知数だったのでしょうね。
 そのエンロスが今日のリーフス戦に先発、なかなかよかったようです。セイバーズは相変わらずだめだめで、3ピリ終了間際の同点ゴールが出るまでは、ファンは、また負けだと思ったみたい。シュートアウトでもなかなかゴールが決まらず、エンロス孤軍奮闘で、1ポイントゲットできればいいかという感じだったようですが、やはりルーキーのエニスが最後に決めて、ようやく連敗脱出。なんか、ラジオ聞いてたらきっと胃潰瘍になってしまっただろうな。
 エニスは昨季、セイバーズに入団したものの、主に二軍でしたが、入団当初から非常に期待されているルーキーです。エニスとエンロスの若い2人でやっと勝ったのね。二軍に落とされていたエリスが上がってきたのも大きいかも。エリスは地味なベテランだけど、必死でプレーするので、ファンにはとても人気があります。

 ところで、今、新横浜ではアジアリーグの集結戦が行なわれているわけですが、今年は新横浜は完全スルーで、ネットで試合速報だけ見ています。さっき、第1試合が終わって、フリーブレイズが終盤にみごとな逆転劇をしたようです。2対0からの大逆転、それも最後の10分以内に、てんだから、王子はショックだろうね。セイバーズに負けたリーフスも、終了直前まで勝てると思っていて、シュートアウトで負けたから相当ショックだったようですが。
 昨日は本州勢がどちらも北海道勢に勝ったのだけど、ブレイズは昨日もクレインズに逆転勝ちだったなあ。ブレイズはもう優勝候補の一角と言っていいでしょう。

フランケンシュタイン

 大学の先生が訳してるのに誤訳ボロボロとかの指摘があって、一時、物議をかもした光文社古典文庫が先月「フランケンシュタイン」の新訳を出していた(まだ現物は見てない)。
 「フランケンシュタイン」は古くは角川文庫の翻訳(これは相当古いもの)、国書刊行会の翻訳が出ていたが、角川のは抄訳だし、国書のは値段が高くて訳が読みにくいということで、1984年、創元推理文庫から新訳(当時)が出た。翻訳をしたのは私の友人で、そのコネで、イギリス小説を研究していた私が解説を書き、それをキネ旬に送ったら、映画評論家として採用になったという、まさに私のスタート地点の仕事(あくまで翻訳の付録だけどね)。
 その後、子供向けのダイジェスト版が児童書の出版社からいくつか出たり、単行本で新訳が出たりしたのかな、確認はしてませんが、アマゾンでフランケンシュタインで検索すると、大量の翻訳が出てきます。が、それでも、創元の本は値段の安さもあって、たぶん、ダントツの売れ行きだと思います。今度出た光文社の古典文庫より200円安いのだ!
 この創元の「フランケンシュタイン」が出たときは、今よりさらに安い定価で、部数は18000部だったかなあ。翻訳者も私もページ割の印税でしたが、私は400字で50枚くらい書いて、初版でもらったのは5万円でしたわ。翻訳者がいくらもらったかは推して知るべし。
 しかも、本はあまり売れなくて、絶版の危機だったのですが、そのとき、救世主現る! ある学校で、この本を教科書にしたいという話があり、増刷決定。それから売れ始めたのです。
 おかげさまで、いまだに印税がもらえます(増刷といっても、刷り部数はわずかなので、たいした金額ではないが)。おまけに、電子書籍にもなっているんですね。毎年、ドトールのコーヒー代くらいは印税が入ります(電子書籍はそんなものよ)。
 ご存知のように、作者のメアリ・シェリーが「フランケンシュタイン」を初めて書いたとき、彼女はまだ18歳でした。18歳でああいうのを書いてしまうんだからすごいのですが、あの創元の翻訳が出たとき、翻訳者も解説者もまだ20代だったということを言っておこう。「フランケンシュタイン」の翻訳者はおじさんが多いんですけどね(児童向けは除く)。また、怪物の一人称を「おれ」ではなく、「自分」にしたのも創元だけで、今だったら編集者が許してくれなかっただろうと思うと(最近の翻訳は男はみんな「おれ」にしてしまう傾向がある)、あの頃はみんなで挑戦してたんだな、ということを感じます。私の解説も、今見ると、これ、自分が書いたのか、と思うようなものだもの(ったく、今は何やってんだか)。
 そういえば、私が解説を書いていたのはちょうど27年前の今頃でした(1983年秋)。84年2月に本が出て、同年4月にキネ旬から声がかかるのですが、そのとき依頼されたのが、ヒッチコック・リバイバル特集の中の「知りすぎていた男」。「裏窓」、「めまい」、「ロープ」、「ハリーの災難」とともに公開された作品で、この5作は権利の関係で、長らく見ることができない作品だったということで、特集が組まれたのでした。
 そんな私が、なんと、先日、キネ旬の午前十時の映画祭のコーナーで、「裏窓」と「北北西に進路を取れ」の紹介を依頼されましたよ。これも奇遇というか、運命なのかな?
東京創元社「フランケンシュタイン」紹介ページ
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488532017

2010年11月5日金曜日

洋書


 アマゾンと紀伊国屋でこれだけ洋書を買ってしまいました。
 左上の「The Virgin Kills」は、10年くらい前に小学館でラウル・ホイットフィールドの小説を2冊訳したときに一緒に借りて読んだもの。当時の編集者は古い海外ミステリーを海外の古書店から大量に取り寄せて選んで本を出していましたが、私のところに来たホイットフィールドの3冊も古い貴重本で、当然、すべて、編集者に返しました。翻訳した2冊はコピーがあるけど、この3冊目はコピーしてなかったので、長らく手元になかったのです。なつかしい。
 真ん中上の「Starvation Lake」はブログに書いた本です。この2冊が既読。
 昔から洋書は買うけど、なかなか読めず、結局、引越のときに読まずに捨ててしまったものがたくさんあるのですが、今回も全部は読まないかもだなあ。とりあえず、ホッケー・ミステリーの続編「The Hanging Tree」ですね。「シングルマン」の原作は薄いのですぐ読めそうだ。右下の分厚いのは映画「摩天楼」の原作です。

 ところで、アマゾンでちとトラブったので、途中から紀伊国屋の通販に替えたのですが、最後に届いた「シングルマン」は紀伊国屋。紀伊国屋は代引きはヤマトで届きます。が、不在だったので、目と鼻の先の営業所へ取りに行ってびっくり。
 アマゾンの荷物がいっぱいある!
 アマゾンは佐川急便だと思っていましたが、最近はヤマトも利用するのでしょうか。

2010年11月4日木曜日

今日のスカイツリー

 今日といっても11月3日ですが、夕暮れ時のスカイツリー。

  坂道の上に現れるツリー。前を行く東西めぐりんは台東区のコミュニティバス。

 猫スポットから見たツリー。夜になると、展望台のあたりに明かりがついて、光っていました。

 休日なので、猫写真家やボランティアの人が多かった。


 そして、以下は、夏から秋にかけて撮った写真です。


2010年11月2日火曜日

出来レース疑惑

 某有名俳優がポプラ社のポプラ小説大賞を受賞したことで、出来レース疑惑が起こっているわけですが、ここで問題なのは、出来レースかどうかとか、書いた作品が優れているかどうかではないと思うのです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%97%E3%83%A9%E7%A4%BE%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E5%A4%A7%E8%B3%9E
 上のリンク先を見てもらうとわかるように、ポプラ小説大賞は賞金2000万円という巨額の賞金を設定しているのですが、第1回と今回(第5回)以外は大賞受賞者が出ていない。優秀賞500万円といってますが、その優秀賞も年々出さなくなる。かわりに特別賞や奨励賞を出している。
 そして、応募者も、最初こそ2700人もあったが、第2回からは激減、1100から1200あたりに落ち着いている。
 大賞や優秀賞が出ないのは、優れた作品が来ないからなのかもしれませんが、どう見ても賞金2000万円で話題を呼んで、しかし、本音は2000万円も出したくない、500万円さえ出したくないのではないかと疑ってしまいます。
 実際、某有名俳優が応募しなかったら、今年も大賞は出なかったのではないでしょうか。しかも、有名俳優は賞金を辞退。しかも、第1回の受賞者も賞金をもらっていないという噂もある。そうなると、5回やって、ついに1度も2000万円出さずにすんだってこと?
 有名俳優だから大賞を出し、そして賞金は辞退してもらった、というのがミエミエだから、出来レースと言われてるわけです。作品がいいかどうかはこの際、関係ない。出来レースでなくて、いい作品で、でも有名人だとわからなかったら、たぶん、特別賞にしかならなかっただろうと思うのです。
 ポプラ社は今回で大賞をやめ、賞金200万円の新人賞にするそうですが、作家を志す人はこの賞に応募するのをためらうでしょう。ここでデビューしても、あとで困るという予感がするでしょうし、すでにここでデビューした人も悪い印象ができてしまう。某有名俳優だって、結局、出版社に利用されて、キャリアに傷がつくかもしれない。
 ポプラ社は最近、ほかにも疑惑があったようで、週刊誌に書かれたりしていましたが、大丈夫なのかね、この出版社。
 ポプラ社と同じく、児童書で有名だった理論社が倒産したのはつい最近のこと。理論社はよい本を出していたからと、同情する声もありましたが、いい本を出すのと、出版社がまともかどうかは区別しなければいけないと思います。理論社がどういう状況だったのかは知りませんが、腐った出版社だっていい本は出せます。いや、いい本を出している出版社が清廉潔白なんてありえない。 ポプラ社の場合も、何かきな臭い感じがしてなりません。

試写の帰りに本を買う

 難民問題を扱ったフランス映画の試写を見たあと、某所で「鷺と雪」を買い、そのままカフェ・ベローチェに直行、閉店までに読み終わった。
 「街の灯」、「玻璃の天」に続く北村薫のベッキーさんシリーズ3冊目にして最終章。うーん、やっぱりこれは「ベルばら」だわ(10月28日に書いた「近況」の一番下の部分を参照)。
 その「近況」で、ベッキーさんは「ベルばら」のオスカルとアンドレを合わせたもの、そして、ヒロインの英子にもオスカルの要素が入っている、と書きましたが、最終巻「鷺と雪」でそれはかなりはっきりします。「ベルばら」のオスカルがアンドレらによって、貧しい庶民の実態を知るように、英子とベッキーさんは「鷺と雪」の最初の短編「不在の父」で、いわゆるルンペン、最下層の人々を知る。そして、次の短編「獅子と地下鉄」では、英子が庶民の世界へ1人で出かけていって恐ろしい目にあいます。その一方で、革命家と結婚する「ベルばら」のロザリーのような女性も登場。しかし、時代はフランス革命ではなく、日本の暗い未来へと突入していく、というのが3冊全体を通したモチーフであるのですが、最後を飾る「鷺と雪」ではドッペルゲンガーがテーマ。とはいっても、これは幻想文学ではないので、リアルな説明がついているけれど、それとは別に、英子とベッキーさんの関係は、私がどちらもオスカルが入っていると書いたとおりの関係に思えます。英子に「あなたは何でもできる」と言われたベッキーさんが、「いや、自分は何もできないのだ」と答え、「なんでもできるのはあなただ」と英子に言うとき、オスカルが2人の人物に分かれていると感じたのは正しかったと思うのです。
 「鷺と雪」はそのあと、美しくも悲痛な結末を迎えます。能の鷺の舞を男と女が踊る夢の世界と、そのあとに来る結末は、悲痛であればあるほど美しく、美しくあればあるほど悲痛だと感じさせるものです。文学や映画の引用が衒学的でうるさいと感じる人もいるかもしれませんが、これらは小説の背景のさまざまな時代考証と切り離せないもので、こうした精緻な小説世界の構築の中に、人の心を動かすエピソードや人物の感情をちりばめ、そして、悲痛な結末へとたどりつく、その構成のみごとさは、一読に値するものです。
 なお、試写で見た映画の話はまたのちほど。

2010年11月1日月曜日

ミスリーディングな映画評

 ツイッターでちょっと話題になっていたんですが、河瀬直美監督の映画「玄牝」の映画評が朝日新聞の10月29日夕刊に載って、それを読んだ人が面白そうだから映画を見に行きたいと書いていて、それにリツイートする人がいて、ほかにもいろいろツイートされているんですが、それで興味を持って、朝日新聞のその映画評を読んでみました。
 書いている人は有名な映画評論家で、個性的な著作の多い人で、この人がこういうふうにほめているなら面白いのだろうと考える人が出てもおかしくないのですが、映画評を読んで、ちょっと、考えてしまいました。
 私はこの「玄牝」は試写で見せてもらったのですが、正直、面白くなかったです。
 愛知県にある吉村医院という、自然分娩で子供を産ませる医院のドキュメンタリーで、この医院はテレビで取り上げられたりして、かなり有名らしい。昔ながらの家を作って、そこに妊婦を住まわせ、適度な労働や運動をさせて自然分娩に臨ませているらしい。地上の楽園のような別世界が、ファンタジーの世界のような牧歌的雰囲気で描かれています。
 私はもともと、河瀬監督の映画は理解不能、どこがいいんだかわからない人間で、だから、これが面白くないのもまあ、感性が合わないんだろうと思っていました。私には、吉村医院の賛美にしか見えなかったし。
 しかし、朝日新聞の映画評は、この映画を、賛美に終わらせなかった優れた映画として評価しています。その理由は、監督が吉村医師に鋭いツッコミを入れたり、吉村医師の考え方の問題点を浮かび上がらせているからだというのです。
 でもって、その問題点というのは、吉村医師が、「死は神の摂理」という考え方の持ち主で、そういう考え方の人間に子供を託すのはホラーだ、ということ。
 でもね、この映画を見た感じでは、薬を使って子供を産ませたり、死産だとすぐに死んだ胎児をかきだす一般の産科医院の方がホラーだというように描いているんですけど。
 確かに、あとで調べたら、この吉村医師というのは非常に極端な考え方の持ち主で、自然分娩で死ぬ子供は死んでもしかたない、救う必要はない、みたいな考えの持ち主らしいです。でも、そういう人だということは、映画を見ても全然わかりません。朝日新聞の映画評を読んでも全然わかりません。
 その評論家のサイトを見ると、この人は吉村医院問題に非常に関心があることがよくわかります。おそらく、本当は言いたいことがたくさんあった。でも、短い映画評ではあの程度が限界だった。あるいは、新聞は勝手に原稿を書き直してしまうらしいので、書き直されてしまったのかもしれない。
 いずれにしても、この映画が吉村医院の賛美だけに終わらないというのは、私は当たっていないと思います。確かに追及はしている、でも、全体としては、牧歌的な理想郷として描いている。そして、こんなところで出産するには費用がバカ高いだろう、とか、自然分娩がだめになったときに受け入れる近所の病院は大変だろう、という、普通に予想される問題点については、全然描かれてないのです。
 吉村医院というのは、戸塚ヨットスクールみたいな感じがして、大部分の人はそこで救われて信者になっているけど、一部にうまく行かなくて死んだりする人が出るところ、という感じです。始めた人は善意で始めてるわけですが、すべてがうまくいくわけがないのです。そして、この2つに共通するのは、非常に保守的で古い考え方に則ってやっているということ。