2012年11月30日金曜日

「故郷よ」

チェルノブイリ原発事故とその10年後を描く「故郷よ」を見た。
立ち入り制限区域でロケした初の劇映画で、撮影が終わって編集の最中に福島原発事故が起きるという、なんとも運命的なものを感じる映画だが、雪の積もったウクライナの風景が日本映画「希望の国」を連想させ、他人事とは思えない映画だった。
チェルノブイリ原発事故の当日、プリピャチで結婚式を挙げたヒロイン。しかし、事故の消火に向かった新婚の夫は放射能を大量に浴びて帰らぬ人となり、そして10年後、ヒロインは立ち入り制限区域のプリピャチでツアーガイドをしている。
事故の当日は荒れ模様で、黒い雨が降り、何も知らない人々はその雨を浴びてしまう。原発の技師は事故を知りながら、守秘義務のため、周囲の人には事故を知らすことができず、妻子を避難させ、その後は傘を大量に買って、雨にぬれる人に配っていく。彼はその後、姿を消し、幽霊のようにさまよって、プリピャチを訪ねようとしたり、人々の名前を聞いてまわったりする。
事故のとき、6歳だった技師の息子は、10年後、そのとき植えたりんごの木を探しに、立ち入り制限区域に帰る。彼は母親から、父親は死んだと聞かされているが、それを信じてはいない。
ツアーガイドをしているヒロインには2人の恋人がいる。彼女をここから連れ出そうとするフランス人の男と、地元で暮らす男。2人の男は、彼女の、ここから逃げ出したい気持ちと、ここにとどまりたい気持ちを象徴している。
立ち入り制限地域には老人たちが戻ってしまっているが、それだけでなく、一般人を対象としたツアーが行われ、ツアー客のために働く人たちがいる。その上、移民が勝手に住み着いていて、ヒロインが出て行くように言うと、男が銃を持ち出して彼女を追い返す。原発事故から10年もたつと、こんなことが起こるのか、と驚く。
スタッフと俳優が命がけで撮影したに違いないプリピャチの風景は美しい。「希望の国」の映像も美しかったが、この映画の立ち入り制限区域の映像を見ると、やはり本物のすごさが際立つ。でも、こんなところで撮影して、スタッフや俳優の健康に影響がないのだろうかと心配にもなる。
映画は事故で夫を失ったツアーガイドのヒロインと母親の物語と、事故後に失踪した技師とその息子の物語を並行して描く。母と娘の物語と、父と息子の物語だ。技師の父親が幼い息子にピアノを教えているシーンがある。10年後、息子がシューマンの「子供の情景」を弾くシーンがある。父親が教えていた曲である。息子がかつて通っていた学校、彼が住んでいた家、そして、彼が植えたりんごの木。一方、彼の父親は、幽霊のような姿であちこちを放浪している(彼は本当に幽霊なのではないかと思った)。
ツアーガイドのヒロインと、技師の息子、この2人の物語から浮かび上がってくるのは、帰ることのできない土地となったプリピャチに、帰りたい、帰れない、人々の心境である。そこには、禁止区域にとどまる人々を描いた「希望の国」とはまた違う方向性がある。私たちは福島を経験したばかりだが、チェルノブイリに対してはもう少し距離が置けるようになっている、そう感じさせる。でも、その距離は、福島を経験したからわかる部分が多い。
プレスシートの監督の言葉によれば、この映画は地元ウクライナでは複雑な受け取り方をされたらしい。四半世紀たっても、地元の人たちにとっては、受け入れるのがむずかしいのだろう。日本の私たちにとっては、2年足らず前の福島の物語よりも、この映画の方が冷静に受け止められるかもしれない。

試写室に行ったとき、宣伝の方から声をかけられた。年末公開の映画「最初の人間」について、私が書いた原作と映画の紹介を読んでくださったのだそうだ。おそらくBookJapanの書評だと思うが、このサイトは実はアクセス数があまり多くないのだけれど、少しでも役に立てたのならうれしい。文庫本も売れ行きがよいとのことで、映画もヒットしてほしいものだ。

2012年11月23日金曜日

雨の祝日

あいにくの雨の祝日。
2ヶ月くらいの間に携帯で撮った写真の整理をしました。

まず、上野公園で行われていた緑化フェア。昼間、デジカメで撮った写真はすでにアップしましたが、これは夜に通りかかったときに撮影したもの。こんな感じでライトアップがあったのです。

緑化フェアが終わった翌日、昼間に通りかかった上野公園。不忍池のところでもオブジェの展示があったようなのですが、ついに見に行かず。そして、終了翌日にはもう展示は撤去されて、このように、ハスが切り取られたあとが。バックは不忍通り沿いの高層マンション。

こちらは神社が見えます。ハスは根っこがあるのでまた生えてくるのだろう。

携帯ではおもに、夜に猫スポットに出かけたときに、撮影していますが、今の携帯はピント合わせの光が強いので、猫は正面から撮れません。これは、切り株に載って、街灯の光のシャワーを浴びる猫。

2012年11月22日木曜日

またまた書評です。

「日本人はなぜ「黒ブチ丸メガネ」なのか」(友利昴著、空想科学文庫)の書評を、BookJapanに掲載していただきました。
http://bookjapan.jp/search/review/201211/20121122
(リンク切れのため、次のサイトでお読みください。http://sabrearchives.blogspot.jp/2015/02/bookjapan.html

文章もイラストもとっても楽しい本でした。
しかし、この本に取り上げられているB級っぽい映画の数々は、私が見ようとさえ思わなかったものが多いのですが、へえ、そうだったのかあ、と感心することしきりでした。

2012年11月16日金曜日

31年ぶりの「秋のソナタ」

ソナタといえば、「冬のソナタ」ではなく「秋のソナタ」。イングマール・ベルイマン監督、イングリッド・バーグマン主演の1978年のスウェーデン映画。日本公開は31年前の1981年。場所は岩波ホール。もちろん、私は31年前にここで見ました。
その「秋のソナタ」がデジタルリマスターされてリバイバルされることになり、たまたま試写状が来たので、なつかしさから再見。31年前も見ごたえのある傑作だと思いましたが、年を経て、今だからわかることも多かったです。
31年前はまだ本当に若くて、バーグマン扮する母親はもちろん、リヴ・ウルマン演じる娘も年上でした。しかし、今見ると、ウルマン演じる娘エヴァは非常に子供っぽく、幼く見えます。
世界的なピアニストの母、シャルロッテはエゴが強く、自分勝手で、娘を愛さず、家も出てしまったという人物。娘エヴァは母に愛されたかった、でも、愛されなかった、という思いをずっと抱いている。エヴァは牧師と結婚し、息子をもうけたが、息子は4歳で死んでしまう。また、エヴァには脳性麻痺の妹がいて、エヴァ夫婦と同居している。あるとき、エヴァは恋人に死なれた母に手紙を書き、自分たちの住む牧師館に来るようにと誘う。やってきた母は、昔と変わらぬ自分勝手で思いやりのない人間だった。そんな母に、エヴァの怒りがついに爆発する。
最近、日本では、母が重すぎる、と悩む女性が問題になっているが、この映画の母娘はそういう、母が重い、というのとは違う気がした。シャルロッテは自分が一番大事で、家族はまったくどうでもいい人だ。脳性麻痺の次女については、会いたくないとさえ思っている。
一方、エヴァは、現在の私から見ると、親離れしていない女性に思えた。ウルマン演じるエヴァが幼く見えたのはそのせいだ。年の離れた夫はまるで父親のようで、エヴァは大人になりきれていないのだと感じた。
映画が進行する中で、エヴァは18歳のときに中絶手術を受けていたことがわかる。エヴァは生みたかったのだが、母親が中絶させたのである。そして、結婚した牧師との間にようやく息子ができると、今度は息子が死んでしまう。エヴァは2度も子供を失った。しかも、彼女と牧師の間にはなかなか子供ができず、養子も考えたというので、次の子供を授かる見込みはおそらくないのだろう。エヴァは最初は母によって、次は運命によって、自分が母になることを拒否されたのだ。
母に愛されない自分は母になれないと、エヴァは思ったのではないだろうか。
ラスト近く、牧師館そばの墓地で、エヴァが救いはあるのかと考えるシーンがある。ベルイマンといえば神の沈黙。神は救いを与えてくれるのか、という問いかけが、彼の作品の特徴としてよく言われていた。このシーンはまさに、ベルイマン的な神への問いかけだ。母親に強制されたからとはいえ、中絶という、神の意思に反することをしたエヴァに、はたして救いはあるのか。そして、息子が死んだのは中絶したことへの神の罰だと、エヴァは心のどこかで考えているのではないか。
そして、理解できない言葉を叫び続ける脳性麻痺の妹は、何を言おうとしているのか。
そんな娘たちを残して、母はまた演奏の旅に出る。離れていると家を思うが、家に帰ると、というようなことを彼女は言うが、そのときの彼女の表情は娘たちと一緒のときよりもずっと溌剌としている。
映画の最初と最後は夫である牧師の語りである。彼は妻を愛している。その愛は、夫の愛というよりは、神の慈愛に近いのかもしれない。

2012年11月15日木曜日

「格差と序列の心理学」書評

BookJapanに、池上知子著「格差と序列の心理学」の書評を掲載していただきました。
社会心理学の専門書で、まったくの専門外ですが、現状を肯定したがる人間心理について、非常に興味深い内容でした。

http://bookjapan.jp/search/review/201211/20121115
(リンク切れのため、次のサイトでお読みください。http://sabrearchives.blogspot.jp/2015/02/bookjapan_27.html

BookJapanには9月に、アルベール・カミュ著「最初の人間」の書評を掲載していただきましたが、先月末に文庫が発売されました。映画は来月公開です。原作も映画もイチオシ。

2012年11月14日水曜日

ホッケーの話題

実は、ホッケーの話題が全然ありません。
NHLは労使交渉がうまくいかず、ロックアウトに入っております。
ロックアウトといえば、2004年にもありまして、またかよ、な感じ。2004年のときはサラリーキャップが最大の問題で、結局、1シーズンすべてキャンセルになり、その後、選手会がサラリーキャップを受け入れ、NHLが大きく変わったわけですが、今回はどういうところが問題なのかイマイチわからず、なんとなく、またもや1シーズン、キャンセルかなあ、という感じになってきています。
まあ、2004年のときは、サラリーキャップ導入がセイバーズのような弱小チームにとって死活問題だったので、私もこのブロガーで、この問題を扱ったブログを作ったりしましたが、とりあえず、この問題は解決したってことで、そのブログも消去しました。が、そのとき、ブロガーにアカウントを作ったので、現在、このブログもできているってことでは、ロックアウトのおかげでできたブログってことでもあるんですが。
そんなわけで、セイバーズについては、NHLロックアウトで試合なし。アジアリーグは通常通り、試合が行われています(中国の混乱で、試合が延期になったりしてますが)。
が、先日、日光で行われた五輪一次予選で、なんと、日本が、地元開催にもかかわらず、最終戦でイギリスに敗れて最終予選への切符を手にできなかったという、なにやってんじゃ、おまいら、な状況になっているのであります。
なんでも、地元開催なのでプレッシャーかかったって、あんたら、プロか?
NHKが放送までしたのにねえ。
で、こうなると、あとは、わがデレク・プラントがアシスタント・コーチをつとめるミネソタ大学ダルース校のブルドッグスに期待するしかないのでありますが、そのブルドッグス、なんと、開幕戦勝利したあと、勝ち星なし。なにやってんのじゃ?
ヘッドコーチとか、変わってないし、デレクもいるんですが。まあ、まだ始まって1ヶ月なんですけど、どうしちゃったんでしょう。

んなわけで、ホッケーの話題はむむむな状況ですが、セイバーズの本拠地で、セイバーズに所属した選手たちのプレートがレンガに飾られたそうです。その写真をアップしてくれた方がいて、デレクのプレートの写真も手に入れました。細かくて見づらいかもしれませんが、とりあえず、アップします。

2012年11月12日月曜日

文京区立鴎外記念館

というものがしばらく前から建設中だったのですが、11月1日、ついに開館。
たまたま通りかかったらカフェが見えたんで、のぞいてみました。
以前はここは鴎外図書館という建物でした。森鴎外の住居だった場所に立てられた図書館で、鴎外記念室もあって、そこで鴎外ゆかりの展示がいつも見られました。
鴎外が住んでいた家屋は焼失してしまったらしく、下のような普通のコンクリートの建物ですが、イチョウの大木のあるあたりがちょっと日本庭園風で、好きだったのですが、

記念館に建て替えられたら、こうなってしまった。これは裏路地から入る門ですが、大通り沿いの正面の姿ははっきりいって、みにくい。なにか怪しげな建物にしか見えない。

中は今はやりのコンクリート打ちっぱなしというやつで、風情も何もありません。
裏路地から入るとすぐにカフェが見えます。下はカフェの中からの写真。
カフェはコーヒー、紅茶、ハーブティーがそれぞれ400円。お茶はポットで来ます。それにお菓子が少し売ってます。400円は高いのか、すいていました。私が鴎外に関する本など読んでいるうちに(カフェに本が何冊もある)、お客は私一人になっていました。そのうち、ここ、自動販売機を置いて、ただの休憩所になったりして。

ここは大通りから入ったところ。中は展示室、図書室(資料は少ない)などがあります。

以上、写真はすべて、鴎外記念館HPから拝借しました。
http://moriogai-kinenkan.jp/

まあ、正直、場所のむだだなあ、と感じましたね。図書館はすぐ近くに、前より大きな図書館ができていて、そっちの方が客が入ってます。記念館は1回来たらもういいって感じだし。展示室は入場料取っていたので、入りませんでした。

2012年11月2日金曜日

秋のバラ

今年も秋バラを見に、旧古河庭園へ行ってきました。
去年は11月末に行ったのですが、今年は1ヶ月近く早かったので、バラはあまり咲いてない。紅葉もない、で、かなりがっかりでした(そのかわり、すいていた)。

今年はこんな水のオブジェが洋館の前の花壇の前にありました。





「市民ケーン」ではありませんが、実は私はバラのつぼみが好き。特に開きかけたつぼみが好きです。洋館をバックに。



奥の日本庭園へも降りていきましたが、紅葉がないので見どころもなく、人もほとんどいません。鯉が口をバクバクあけて、えさをほしがっていました。

こちらはカラス。そのそばにわずかに紅葉が。

さきほどの水のオブジェの前のバラ。ここのバラは手入れが悪いのか、アップで撮ると悲惨なのが多い。

実は、入園したときは快晴でしたが、入って30分くらいで雲が出てきて、あっという間に曇ってしまった。



風が冷たく、アイスを食べる気分ではなかったが、このショットを撮りたくて買ったバラのアイス(250円)。このあと、寒さにふるえながらアイスを食べました。冬用にバラの羊羹(洋館のダジャレか)を売っていましたが、私は羊羹は苦手。

去年の11月末の旧古河庭園のバラその他はこちら。4つの記事に分けて写真を掲載しています。
http://sabreclub4.blogspot.jp/2011_11_01_archive.html