2010年10月21日木曜日

映画的近況

【最近見た映画から】

「白いリボン」
 カンヌ映画祭パルムドール受賞のミヒャエル・ハネケ監督最新作。20世紀初頭のドイツの小さな村で次々と起こる事故や事件。果たしてそれは誰かによって仕組まれたものなのか、というミステリー仕立ての寓話的なドラマ。実は、この映画についてはかなり長い草稿をすでに書いているのだが、ネタバレ大ありの内容なので、発表するにしても、それは映画が公開されてからになります。公開は12月とのことですが、ミステリー・ファンも、そうでない人も、見逃したら損をする、そのくらいすごい映画です。

「クリスマス・ストーリー」
 こちらも12月公開予定の映画。アルノー・デプレシャン監督、カトリーヌ・ドヌーヴ主演のフランス映画。幼い長男の骨髄移植の期待から夫婦は次男をもうけるが、骨髄が合わず、長男は死亡。役立たずの汚名を着せられ、ひねてしまい、まわりに迷惑をかけて姉から勘当された次男が、老いた母親の骨髄移植のためにクリスマスに家族と再会するという物語。欧米では大変評判のいい映画だが、親子きょうだいの確執がシリアスに描かれていて、かなり重い映画。それでも、母と息子、姉と弟の葛藤と和解は胸にせまるものがあるし、ときおり流れるメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」の音楽と、ラストのパックの台詞はきいている。

「義兄弟」
 「映画は映画だ」が面白かったチャン・フン監督の韓国映画。韓国の元情報部員と北朝鮮の工作員がお互いに身分を偽り、相手を探る目的で同居。その間、2人の間に兄弟のような絆が生まれる、という、「シュリ」や「JSA」のような感動の物語、なのだけれど、この映画がちょいと違うのは、南北対立のサスペンス映画の部分以外のところが非常に面白いこと。元情報部員は作戦の失敗からクビになり、今はしがない探偵をしていて、農村に嫁いで逃げ出したベトナム人花嫁探しなどをやっているのだけれど、その探偵稼業を北朝鮮の工作員とやることになり、そこに2人の考え方の違いが現れたり、ベトナム人労働者たちとの対立があったりと、サスペンスものとは違うコミカルな面白さが出ている。そしてもちろん、クライマックスとラストは感動。いろいろに楽しめて、奥も深い映画だ。主演のカン・ドンウォンはこれから兵役につくらしいけど、29歳で、タイムリミットなのだね。

「ウッドストックがやってくる!」
 アン・リー監督の最新作は、1969年のウッドストック・フェスティバルを実現させた男の物語。出だしがあまりにもユルくて、どうなるかと思ったが、ニューヨーク州北部の田舎町にウッドストックを呼ぶことに決めたあたりから面白くなる。日本だったら、たぶん、町興しの感動の実話にしてしまうところだが、この映画は素朴な町の人々がお金に開眼して、金儲けに走ったり、便乗商売をしたり、ショバ代を取りにヤクザが来たりと、とにかく金中心の話になっている。やがて田舎町はヒッピーであふれ、立役者の主人公はコンサート会場にも近づけず、あとはコンサートが終わったあとのゴミの山だけが残るといった皮肉な展開。全体に演出がユルいのがイマイチだし、画面分割もうるさいだけだが、町興しイベントを皮肉にとらえる意図は買える。

【最近書いた映画評】

「国家代表!?」キネマ旬報11月上旬号(発売中)
「クレイマー、クレイマー」、「レインマン」同10月下旬号
「シングルマン」同10月上旬号
 10月上旬号には、訳書「クリント・イーストウッド:レトロスペクティヴ」へのあたたかい書評をいただきました。
「ベン・ハー」同9月下旬号