2012年7月31日火曜日

最近見た映画から

先週からやっと試写に行けるようになりました。その前は週に1、2本しか見られなかった。
とはいっても、昔に比べて、うちに来る試写状の数がめっきり減っているのですが、それでも非常勤講師の授業に追われていると消化できない。

さて、月曜はジェームズ・アイヴォリーの久々の新作「最終目的地」。2009年の作品なので、公開がだいぶ遅れています。「上海の伯爵夫人」に続いて、真田広之が出演。主役のアンソニー・ホプキンスとゲイの関係にある役で、あのレクター博士と真田広之のキスシーンがありますよ!(って、別に衝撃的なシーンではありませんが)。
内容は、ウルグアイの山奥にある屋敷に住む、自殺した作家の妻、愛人、兄などのところへ、作家の伝記を書きたいアメリカの大学講師が許可をもらいに来るという話。で、この講師が蜂に刺されて病院へ運ばれたので、アメリカから恋人がやってきて、というところでいろいろと急展開するのですが、人里離れた屋敷に集まる人々と、そこから生まれる変化、という点では、フォースターの小説をアイヴォリーが映画化した「ハワーズ・エンド」と共通する面があります。主演もホプキンスだし、都会が似合う人物と田舎が似合う人物の対比とか、わりと昔のアイヴォリーに共通する世界でした。「上海の伯爵夫人」が私にはつまらなかったので、これは比較的よかったです。

これ以外では、「オフサイドガールズ」のジャファール・パナヒ監督がイランで、映画製作20年間禁止とか、とんでもない刑を宣告されてしまい、そんな中、自宅でひそかに撮って海外に流出させた「これは映画ではない」というのが面白かったです。ドキュメンタリーのように見えますが、最後に出てくる大学院生は、あれはほんとに大学院生なの? 役者じゃないの? って感じで、なんとも不思議な映画ですが、それにしても、イランは……むむむ。

残念だったのは、クローネンバーグの「危険なメソッド」。アメリカでは批評家の評価がものすごく高いのですが、私はこういう理詰めでクリアーなクローネンバーグは面白くない。確かに役者はすばらしいです。キーラ・ナイトレー、ヴィゴ・モーテンセン、マイケル・ファスベンダー、ヴァンサン・カッセルなどなど。しかし、フロイトとユングとユングの愛人だった女性をめぐる話って、別に面白くもなんともないが。クローネンバーグらしいおどろおどろしさとか、摩訶不思議さとか、全然ないんだもの。役者がすばらしくて、映像がきれいで、って、別にクローネンバーグじゃなくたって…。
もう1つ、残念だったのは、岩井俊二監督の「ヴァンパイア」。吸血鬼志願者と、自殺志願者がネットで知り合って、お互いの利益が一致して、という話ですが、今、日本ではいじめで自殺とか問題になってるのに、この映画では自殺志願者はほんとに自殺志願者なのかな、と思うくらいのほほんとしているのです。「リリイ・シュシュのすべて」の登場人物はそうじゃなかったのに、なんだ、これは、という感じです。おまけに、カナダで撮影して、外国人俳優を使っているので、ほんと、絵空事に見える。カナダはヴァンクーヴァーのあたりのようですが、別にどこでもいい、北米らしく見えればいいというくらいにしか見えない。サラ・ポーリーが「テイク・ディス・ワルツ」でノバスコシアとトロントにこだわったような、土地への思いが何もない感じなのです(これはやはりカナダで撮った荻上直子の「トイレット」もそうだったが)。
面白かったのは、主人公の母親がアルツハイマーで、外に出ないように、白い風船をたくさんつけた拘束衣を着せられているのですが、これがまるで白い天使のように表現されているのですね。ここはユニークだと思いましたが、その一方で、映像的には非常に既視感のあるもの、過去に映画で何度も見たような映像なのです。風船が羽根だったら、いくらでも思いつく。その辺が、ユニークだけど実はデジャヴで新しくないという、やはりキビシイのでした。