2014年1月8日水曜日

早くもベストワンにしたい映画に出会う

年明け最初の映画はロン・ハワード監督の「ラッシュ/プライドと友情」。
1970年代後半、F1グランプリでライバル同士だったジェームズ・ハントとニキ・ラウダの戦いと友情を描くスポ根もの、ですが、これが実によかった。
ロン・ハワードの映画はもともと好きだけれど、ベストワン!と思ったのは今までなかったね。まあ、まだ年明け7日なので、たぶん、最終的にはベストワンにはならないと思いますが、でも、これ、かなり好き。
ハントはイギリス人で、人生楽しまなきゃ、とばかりに女と酒にうつつを抜かすプレイボーイ。
ラウダはオーストリア人で、親は資産家のビジネスマンだが、F1ドライバーになることに反対され、自力で銀行から資金を勝ち取って(親が資産家だからだろうと思ったら、自分の生命保険を担保にしたんだと)、その金でF1チームに入る(F1は金がかかるので、金持ちの息子じゃないとだめとか、金でチームに入るとかは珍しくない)。
ラウダはまた、メカの天才で、彼の手にかかるとスピードの出るマシンができるというので、実績もないのにフェラーリへの移籍に成功(最初のチームのドライバーの推薦だった)。一方、ハントはイギリスの富豪のチームに所属するも富豪は資金が尽きてF1を断念。チームを失ったハントは、その後、マクラーレンへの移籍に成功する。
んなわけで、フェラーリ対マクラーレンという、のちのプロスト対セナを思わせるというか、私がF1知ったのはその頃なのでそうなるのだが、やはりF1はフェラーリ対マクラーレンなのですね。
F1の中継とか、もう長い間見てないので、マシンに描かれたマルボロやグッドイヤーのロゴなどが無性になつかしかった。
1975年、ラウダが初の年間チャンピオンに輝き、その翌年、1976年が映画の中心になる。まず、ハントがマシンの大きさが規定を超えているとラウダ側から言われて窮地に陥り、その後、今度は悪天候のレースでラウダが大けがをし、そして、という波乱に満ちた展開に。
その間、2人の私生活でも大きな変化があり、プレイボーイのハントは恋人と結婚するがうまくいかず、妻はリチャード・バートンに走り、バートンはエリザベス・テイラーと離婚、ハント夫妻も離婚。実直で堅実なラウダは1人の女性との愛を育み、結婚するが、守りたいものができたことが彼の生き方に影響していく。そんな中、ラウダの大事故が起こる。
実話をもとにしているとはいえ、いろいろと脚色されているのだと思うが、「フロスト×ニクソン」でハワードと組んだピーター・モーガンの脚本がよくできていて、話の展開が実にいい。ラウダが未来の妻と知り合うエピソードが特にいい。彼女はたまたま車に乗せた彼が有名なレーサーとは知らず、途中、車がエンコして、乗せてくれたイタリア人2人が「ニキ・ラウダだ」と騒ぐので初めて彼が有名人だと知る。いつも女性をたくさん従えている派手なハントとは対照的な彼の個性が生きるシーンだ。
映画はどちらかというとハントの方に重点が置かれているように感じるが、それは、ハントの方がアメリカ人に受ける個性だからだろう。あまりイギリス人的でないというか、人生楽しまなきゃと、無茶をしながら生きている豪放磊落なところ、そのくせ、レース前に嘔吐してしまう隠れた繊細さ、1回チャンピオンになったら、あとはもういいとばかりに引退してしまうところ。そうしたパッと生きてパッと散るみたいなところが映画の主役にはぴったりだし、特にアメリカ人には受けそうだ。
しかし、映画はラウダの語りで始まり、ラウダの語りで終わる。優勝してすぐに引退し、45歳で心筋梗塞で亡くなったハントに対し、ラウダはその後もレーサーを続け、優勝もし、現在もまだ健在。そして映画の中で、何度か、ラウダがハントを押しのけて主役になるシーンがある。「フロスト×ニクソン」といい、「クイーン」といい、ピーター・モーガンは2人の主役を描くのがうまいが、これも2人を交互に主役にしていくような手法だ。
ラウダが大けがをするドイツ・グランプリから最終戦の日本グランプリまではもう目が離せない。レースシーンの迫力もすごいが、ラウダとハントそれぞれの思いがレースでの行動に結実していく描写が実にみごと。見ていてひたすら大満足、大納得。ハントは一瞬の勝利、ラウダは長い勝利、それを暗示する静かなエピローグ。いやもう、ほんと、大満足の映画。
76年のグランプリが始まったあたりから、この映画はもう1度見たい、と思い続けていた。単に面白いだけでなく、とても居心地のいい映画、いつまでも見ていたい映画だった。「グッバイ、レーニン」以来注目していたダニエル・ブリュール(ラウダ役)がとてもいい。