とりあえず、最近見た映画の感想を簡単に。
オリヴァー・ストーンの新作「野蛮なやつら」。ドン・ウィンズロウの原作をウィンズロウ自身が脚色し、ヴァイオレンスが得意なストーンが監督、ということで、Rotten Tomatoesの評判はどうなのかな、と思って見てみたら、みごとに賛否が半々でした。
Rotten Tomatoesは100点満点で60点未満だと青いトマト(うまくない)の方になってしまうので、青いトマトの葉と倒れたポップコーンの容器が描かれていました(ポップコーンの方は一般人の評価)。批評家にも一般人にもイマイチ、というところですが、でも、賛の方の人は絶賛。この辺がむずかしい。
で、試写を見てきたのですが、うーん、やはりこれは60点かも…。
いや、面白いことは面白いんですよ。映像もかつての「ウォール街」を思わせるところがあって、でも、やはり、ストーンも年をとって、新しいとか斬新とかいう感じはないです。ヴァイオレンスもそこそこって感じ。
原作は読んでませんが、主役が2人の男と1人の女ということで、「明日に向って撃て!」が言及されていますが、私はむしろ、ロベール・アンリコのフランス映画「冒険者たち」じゃないかと思いました。「明日に向って撃て!」自体が初公開時、先行する「冒険者たち」と比べられていましたが、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードとキャサリン・ロスよりは、アラン・ドロンとリノ・ヴァンチュラとジョアンナ・シムカスに近い気がします。
特にクライマックス、これが本来のクライマックスなんだけど、と、ヴァイオレンスたっぷりのシーンを見せたあと、別のシーンを見せるのですが、本来の方の結末が、「冒険者たち」だよね、これ、と思ったのです。
主役は若い俳優ばかりで、脇をベテランが固めているのですが、この映画、若い人に受けるのかな、それとも「冒険者たち」を知っているような年寄りに受けるのかなあ。
先週はデンマーク映画「偽りなき者」と、ヒッチコックの「サイコ」の舞台裏を描く「ヒッチコック」を見ました。
「偽りなき者」は、幼稚園教師の男性が幼い少女の嘘で性犯罪者の濡れ衣を着せられるという話。少女の嘘で2人の女性教師が同性愛者にされる「噂の二人」を思い出しますが、「噂の二人」は同性愛への偏見が1つのテーマであったのに対し、こちらはいったん濡れ衣を着せられると無実がわかっても疑いが解けないという内容です。
主人公(私のごひいきのマッツ・ミケルセン)は警察に逮捕されたあと、子供の証言と事実が違うので釈放されるのですが、それでも町の人々は彼を犯罪者だと思い、暴力を受けたり、愛犬が殺されたりします。普通なら、こんな町、出て行くところですが、主人公は出て行かず、戦う。ここがすごいというか、実際、戦って、ついに誤解を解いて、という結末になるのですが、しかし、それでも、というラストがぞっとします。
「ヒッチコック」はアンソニー・ホプキンスとヘレン・ミレンがヒッチコック夫妻を演じる「サイコ」の舞台裏の物語で、「サイコ」に主演したアンソニー・パーキンスやジャネット・リー、ヴェラ・マイルズも、若い俳優が演じて登場。正直、みんな似てないのですが、ホプキンスは似てないけど感じがすごく出ているのはさすがです。そして、妻役のヘレン・ミレンもすばらしい。ヒッチコックの映画を陰で支え続けた貢献者でありながら、夫の女優との不倫、グレース・ケリーをはじめとする女優たちへの執着に悩み、ついに「サイコ」のときには夫を離れて、男性脚本家と仕事をする。すると、今度はヒッチコックが嫉妬、という具合に、懲りない夫とその妻の関係がユーモラスに描かれています。
1つ不満を言うとすれば、「サイコ」の殺人鬼のモデルになった男がヒッチの夢や幻想に登場するのがちと余計な感じがしました。登場させるならもっと深みのあるやり方にした方がよかった気がします。
結局、妻の協力で「サイコ」を大ヒット作にできたヒッチは、妻に感謝するのですが、このあと、今度は「鳥」でティッピー・ヘドレンにセクハラ、パワハラしたとかいう問題が起こるのですね(懲りないやつ)。「鳥」の舞台裏の方はテレビドラマ化されたようですが、こちらも見たいものです。(追記 「鳥」ではなく、「鳥」のあとの「マーニー」の方かもしれません。)
なお、Rotten Tomatoesでは、この映画の評価は批評家、一般人ともに非常に高いです。確かに、誰もが楽しめる映画、映画ファンにはなお楽しい映画です。