今年の初試写は「バードマン」、次が「ビッグ・アイズ」。どちらもゴールデン・グローブ賞をとっている。
まずティム・バートンの「ビッグ・アイズ」から行くと、これはあの佐村河内氏と新垣氏の話みたいだね。主人公は目の大きな子供の絵を描く女性画家。夫がバーの廊下に絵を飾ってもらうが全然売れない。が、夫がバーの主人とけんか、それが新聞に載り、そこに写った絵を見た人が次々と絵を買っていくようになる。で、作者は、というと、なんと、夫が作者のふりして客に絵を売り込んでいるのだ。内気な妻は本当のことが言えず、夫の売り方がうまいので、夫の嘘につきあうようになる。
絵が高くなると庶民は絵が買えず、ポスターを持っていくのを見て、夫は印刷して安く売ることを思いつき、夫婦はプール付きの豪邸に住むほど裕福になるが、やがて妻は夫と決別、真の作者は自分だとして夫との間に裁判が起こる。これ実話。
正直、ティム・バートンの映画は、ある時期からとりあえず面白く見られるだけの映画になっていて、昔のようなすごさがなくなっているが、これもそうで、時々ちょっと眠くなる。妻役のエイミー・アダムズが2年連続ゴールデン・グローブ賞受賞したが、むしろ夫役のクリストフ・ヴァルツの演技のおかげで飽きずに見られる。ヴァルツは50代でハリウッド進出、その後わずかな期間で2つもアカデミー賞を受賞してしまったが、たしかに今のハリウッドにはいないタイプの役者だ。芸域が広くて、何をやってもうまいと感心する。この映画の偽画家の夫も、佐村河内みたいなカリスマっぽさがないし、佐村河内みたいに人の同情を買うような嘘を積み重ねたわけでもないし、第一、このおっさんがああいう子供の絵の作者ってキモイ、という感じさえするのだが、この人の詐欺師っぷりの演技が面白くて飽きないのだ。
佐村河内氏がいなかったら新垣氏の曲は売れなかっただろう。一方、こちらの女性画家マーガレット・キーンの絵はきっかけがあれば売れただろうが、夫のプロデューサーとしての才がなかったら、あれほど売れたかどうか。「よい作品だから多くの人に愛された」という冒頭のウォーホルの言葉が、佐村河内&新垣の曲の場合は、佐村河内の正体がばれたら曲自体の価値も変わった、よい作品だから多くの人に愛されたのではなかった、みたいになったのと比べると、この映画は現実の佐村河内事件よりも単純で牧歌的な話だなあと思う。
そのティム・バートンの「ビートルジュース」、「バットマン」、「バットマン・リターンズ」で有名なマイケル・キートンが、キートン自身のような俳優を演じる「バードマン」。監督は「バベル」のアレハンドロ・G・イニャリトゥ。主人公リーガンは「バードマン」というヒーローものでブレイクしたが、3作で役を降り、以後20年間、文字通り鳴かず飛ばずになってしまう。そこでブロードウェイの舞台劇を脚本・演出・主演してカムバックを果たそうとするが、という話。
イニャリトゥはここではバートンの映画のようなファンタジー的要素を取り入れているが、バートンと違ってこちらはまだ丸くなっておらず、奇想天外で面白い。共演者が事故で降板、かわりに舞台の名優マイクが参加することになるが、この名優を演じるエドワード・ノートンがまたいい。昔の映画スターだが今も顔と名前を知られているリーガンと、舞台では素晴らしい名優で、批評家にも観客にも高い評価を受けているが、世間の一般人には知られていないマイク。彼らをとりまく女性たちの描写は今一つ不十分な印象があるが、太ってしまって頭も禿げている昔の映画スターがのっぴきならぬ理由でタイムズスクエアをパンツ一枚で横切らなければならなくなるシーンとか、目を離せないシーンがてんこ盛り。こういう映画だと絶対に眠くなりません。ゴールデン・グローブ賞は脚本賞と主演男優賞(キートン)を受賞。