アフリカ系アメリカ人のバレエダンサーを起用したCMで、バレエアカデミーが応募者を不採用にする手紙みたいなのを流してるんだけど、これを実際にこのダンサーが受け取った手紙だと言っているサイトがいくつかあった。
でも、普通に考えて、おかしいと思ったので、いろいろググってみた。
すると、このダンサーは13歳のときにバレエ教師に才能を見出され、この教師の推薦でバレエ学校に通って頭角を現したらしい。
彼女の経歴などを英語のサイトで見ても、彼女がバレエアカデミーに拒否されたという記述はなかった。
この手紙も、最初に「応募者様へ」と書いているが、普通、不採用通知に「応募者様へ」とは書かない。相手の名前を書く。
手紙の内容も、ダンサーの容姿がバレエに向いていないということ、13歳では遅すぎるということで、こういう理由でアカデミーが断るとは思えない。
アカデミーが断る理由はダンサーとしての資質や技量にもとづくはずなのだ。
ただ、13歳では遅いとか、容姿がどうとかは、一般的なクリシェイとしては存在する。
バレエは10歳くらいから始めるのが一番いいのだそうだが、有名なダンサーが3歳で始めたという話が伝わったりすると、13歳では相当遅いと感じてしまう。しかし、実際は10歳が適齢期だとすれば、13歳は少し遅いにすぎない。実際、13歳から始めて有名なローザンヌ賞を受賞したダンサーは日本にもいる。
確かに世の中にはこういう人はこういう仕事には向いていないというクリシェイがあって、それであきらめる必要はないのだと言ってもらえるとうれしい人は多いだろう。だからそのダンサーも人気があって、彼女が出演する演目はソールドアウトなのだそうだ。
なんだかなあ。
その昔、キャスリーン・バトルというアフリカ系アメリカ人のソプラノ歌手が日本のCMで大人気になって、メトロポリタン・オペラが来日したとき、彼女の出る「フィガロの結婚」は即ソールドアウトだったのだそうだ。バトルは実力のある歌手だけど、そのメトの公演で私がすべての公演を見た「ホフマン物語」にもアフリカ系アメリカ人のソプラノが主役で出ていた。でも、彼女の方は注目なし。なんだかなあ。
くだんのバレエダンサーは貧しい家に生まれ、母親は次々と男を替える生活、そんな中でバレエの才能で成功したアメリカン・ドリームということで人気が出るのはわかる。あの架空と思われるアカデミーの手紙にあるような偏見をものともせずに成功したのも事実だろう。
でも、あの手紙は、フィクションだと思うのだ。そういう風潮をもとにしたフィクションで、バレエの世界を知る人にはちょっとね、な内容じゃないだろうか。
一般人に受けるけど、その世界を知る人にはちょっとね、というのを見ると、なんだかなあと思うのである。
そのダンサーは自伝を出して映画化もされるということで、一部では、バレエより自己宣伝に力が入っているとか、バレエの技術はまだまだなところがあるとか批判されている部分もあるようだ。実力があるのは確かなのだから、あまり色物にならないでほしいと思う。