オリヴァー・ストーン監督の「スノーデン」を見てきました。
元CIA職員のエドワード・スノーデンが、アメリカが世界中の人々のメールや通話などを極秘に情報収集していたという事実を暴露したあの大事件の映画化で、今年、すでにアカデミー賞を受賞したドキュメンタリー「シチズンフォー」が公開されていますが、このドキュメンタリーの方はまだ見ていない。公開はもう終わってしまったみたいで、DVDが出るのは来年。こっちを見ないとなんとも言えないのですが、輸入のDVD買おうかな。
ストーンはモスクワにスノーデンを3度も訪ねていって、スノーデンの協力のもとに映画化していて、ご本人も映画には満足とのこと。最後のインタビューシーンにはご本人が出演しています。
映画はスノーデンが特殊部隊の訓練を受けているところから始まり、そこで大けがをして特殊部隊を断念。その後CIAやNSAに入り、コンピューターの才能を認められて極秘任務につくのですが、最初はガチガチの体制派だったのが、リベラルな恋人の影響と、そして現場で行われている理不尽なことへの疑問から、真実の告発へと至る姿が描かれています。
もともとストーンがガチな体制派で、ベトナム戦争は正しいと信じて従軍、そこで現実に目覚めて反戦派、アメリカ批判派に変わったという人物なので、スノーデンのような最初はガチな体制派で、アメリカ政府のために働きたいという人物がアメリカの悪を告発する人間に変化する話は自分自身にも重なり、また、「7月4日に生まれて」などの映画にも重なるもの。
CIAに入るとき、好きなものを聞かれたスノーデンがアイン・ランドの名をあげますが、ランドは公共の福祉など必要ないという、弱肉強食の資本主義支持者で、映画「摩天楼」の原作「水源」や「肩をすくめるアトラス」といった小説でその思想を描いた作家。「スノーデン」には「肩をすくめるアトラス」の名が出てきます。ランドの思想はリベラル派からは当然批判されているのですが、信者も多く、アメリカ人に非常によく読まれている作家で、日本にも信者がいます。
ここでランドの名が出てくるのは、ストーンが20世紀末からのアメリカがこうしたランドの考える資本主義になってきていると考えているからでしょう。
アメリカがひそかに行っている情報収集に疑問を感じたスノーデンは、ブッシュをモロンと呼ぶリベラルな恋人の影響もあり、オバマ大統領の誕生に期待します。が、大統領がブッシュからオバマにかわっても事態は変わらず、別の目的で作ったプログラムがドローンによる殺人に使われていることもわかり、ついに告発を決意、そして、「シチズンフォー」を監督することになるローラ・ポイトラスに連絡をとり、そこから衝撃的なニュースが世界に伝わることになります。
映画はまず、香港でスノーデンがポイトラスに会うところから始まり、スノーデンが過去を語るという形で展開しますが、スノーデンがなぜ告発しようとしたかというと、それは、こういう事実について人々が考えないと、次の指導者が選ばれたあとに独裁が起こる可能性があるからだ、ということです。
そして、最後の方に、「スノーデンを死刑にしろ」と叫ぶあのトランプの姿が。
ストーンが今年の大統領選を見据えて作ったのは明らかですが、この映画に描かれるアメリカが世界の覇権を握り続けるためにしているありとあらゆることが、トランプが大統領になったあと、いったいどうなるのか。オバマの時代でもこうなのに、と考えてしまいます。
スノーデンが機密ファイルを持ち出した方法は明らかにされておらず、それも含め、映画はフィクションの部分も多いだろうと思いますが、現実がストーンの映画の斜め上を行っちまってる感もあります。いろいろと考えさせられます。