ロマン・ポランスキーがドレフュス事件を描く「オフィサー・アンド・スパイ」。
文豪エミール・ゾラが無実のスパイ容疑で投獄されたユダヤ系軍人ドレフュスのために立ち上がったことで有名だけれど(「ゾラの生涯」というハリウッド映画がある)、その前に、ピカールという軍人が防諜活動の任務の中で真犯人は別人であることを発見し、ドレフュスの無実を訴えるが、軍は隠ぺいを図り、ピカールも左遷などのさまざまな圧力を受ける、というのはネットで読んで知っていた。
背景にユダヤ人差別があったことも有名な話。
で、映画の前半は、ネットで読んだ記事をそのまま映画化したみたいな感じで、作劇があまりうまくないと感じた。特に、ピカールがドレフュス裁判を回想するシーンがどうもメリハリがなく、ポランスキーも焼きがまわったかな、と思った。
後半になると裁判やら決闘やらメリハリのあるシーンが出てくるので、何とか持ちこたえるという感じ。全体に「ゴーストライター」に似てると思ったが、あれに比べるといろいろ出来が悪い。
ただ、ラスト、ドレフュスがピカールを訪ねてくるシーンで、事件解決後、ピカールは大臣にまで出世したのにドレフュスは少佐どまりで、その不公平を訴えるが、ピカールは、ドレフュスの地位を上げるには法律を変えねばならず、今はそれはできない、と言う。
これはつまり、当時のフランスの軍隊にはユダヤ系に対する昇進の差別があったということだろう。そして、ドレフュスのために戦ったピカールが、今は何もできないと言ってしまうことの理不尽が描かれていると思う。
この最後のシーンだけはすばらしく、終わりよければなんとやらになったのであった。
ピカールとドレフュスは事件で親しい関係になったわけではなく、2人の間には距離があることを感じさせるラストだった。このあと、2人は二度と会うことはなかったという。