あまり見る気がしなかったヴィム・ヴェンダースの「PERFECT DAYS」を見に行ったが、やはり見る気がしなかったのは正しかったなと思った。
もともとヴィム・ヴェンダースは、「ベルリン天使の詩」は好きだが、それ以外では特に好きな監督ではなく、小津映画との関連も私にとってはほとんど関心がないので。
行ったのはMOVIX亀有。アリオへの歩道橋を渡りながら、こんないい天気なのに映画館に入ってしまうなんて、と思った。
「こんなふうに生きていけたなら」という惹句があるけれど、こんなふうに生きていきたくはないと私は思う(個人の感想です)。
主人公はスカイツリーの足元の古いアパートに住み、渋谷区のおしゃれなトイレを次々と掃除していく。
アパートの部屋には本棚とカセットテープの棚があるが、テレビやパソコンはないようだ。古いラジカセがある。
いつ取り壊しになってもおかしくないアパートから制服を着て出勤。すぐ外の駐車場に清掃用具一式を積んだ車がある。車も駐車場も清掃会社が費用を負担しているのだろうが、清掃会社は映画の中ではほとんど実体を現わさない。
渋谷区のおしゃれなトイレを掃除するならもっと西に住めばいいと思うのだが、なぜか、東の下町に住んでいる。
そのおしゃれなトイレが、いろいろと話題になったトイレで、そういうところばかりを回っていく。世の中にゴマンとある普通のトイレは彼とは縁がない。
私の知っている公共トイレの掃除係というと、自転車で用具を持ってまわっているおじさんだが、立派な車で最新式のおしゃれなトイレをきれいにしている彼は、何か、現実のトイレ掃除係とは違う世界の人に見える。
彼の住むアパートも現実離れしている。ロケ地になったアパートはほんとうにスカイツリーの近くにあるという話を聞いたが、そのアパート、1階の玄関ドアを開けると階段があって、そこから2階の部屋へ行く。へえ、テラスハウスなのか、と思うと、自転車で銭湯へ行く。テラスハウスなのに風呂がないのか?と思っていると、そのアパートの外観が見えて、2階へ上がる外階段があることがわかる。1階の玄関は1階の部屋の入口で、2階の部屋は2階の玄関から入るという、ごく普通のアパートなのだ。なのに、映画では中のセットは別にして、テラスハウスに見せている。でも、それだったら外観を普通のアパートのままにしたら整合性がない。そういうところ、平気なのか、と驚いた。
主人公はコインランドリーへ洗濯に行くのだが、最初に行ったランドリーではドラム式の洗濯機に洗剤を入れている。料金は300円とでかでかと手書きで書いてある。この手のドラム式洗濯機は洗剤は自動投入で、料金は800円くらいする。変だな、と思っていると、2番目に出てきたランドリーでもドラム式に見える機械に服を入れるのだが、どう見てもあれは乾燥機じゃないの? そして、3番目のランドリーでやっと、ドラム式じゃない普通の洗濯機が並んでいるところに来る。
あと、主人公の車が途中で色が変わってるんですけど。
こんなふうにして、細部のリアリティのなさが気になって気になって、いったいこれは何なんだ、ドイツ人だからわからないのか、誰も注意しないのか、山田洋次も「こんにちは、母さん」でスカイツリーの近くを描いたけど、もっとずっとリアリティがあったぞ。こういうところのリアリティをいいかげんにするのって、山田洋次は絶対にやらないだろう。そして、小津だってやらないに違いない。なのに、なんだ、この変な日本は。
渋谷区のおしゃれなトイレばかり回って掃除するという設定そのものも私には何か引っかかるのだが、それに加えてこのリアリティのなさはどうよ。
いやこれはファンタジーです、という擁護の声が聞こえてきそうだが、ファンタジーにだってファンタジーのリアルがあるんじゃありませんかね?
主人公が出会う人々も、どこか面白みに欠ける。最後に出会う三浦友和の人物も、なんだかリアリティがない。これは俳優の演技のせいではなくて、もともとの人物造型の問題では?
主人公の部下の若者が、10の9みたいなことを言うけど、この映画は10の2が令和で、8が昭和だ。おしゃれなトイレとスカイツリーが令和だけど、残りは全部昭和。70年代のカセットテープ、フィルムカメラ(しかもモノクロで撮る)。携帯もスマホではなくガラケーなんだが、なにか、こういう古いものを出しきてどうたらっていうの、もう見飽きた感じするんですけど。
主人公は本をけっこう持っていて、本は昔ながらの古本屋で買う。ブックオフではない。読むのはフォークナーとか幸田文とかパトリシア・ハイスミスとか、ちょっとハイブラウな読書家という感じで、マニアや学者ではない。この辺も何か中途半端な感じがする。
最後の木漏れ日だって、別に日本特有のものじゃないだろうに。
初日なのでかなり混んでいたけれど、エンドロールが始まったらどんどん人が帰って行ってしまった。ヴェンダースと小津に思い入れのあるシネフィルならまったく別の見方をするのだろうけど、そうじゃない人間の素直な感想です。
年末のアリオの眺め。外にはスケートリンクが。
あまり見る気がないのになんで見に行ったかというと、金町の図書館に用があったので、ついでに亀有でこの映画を見ることにしたのだった。アリオの外へ出て、中川橋を渡る。スカイツリーが見えます。
橋を渡ったあとの場所の名前が新宿(にいじゅく)で、映画の3番目に出てきたコインランドリーのところに「宿」の文字が見えたので、もしかしてこの辺にあるコインランドリーかも、と思ったが、ランドリーには出会えなかった。
金町駅へ行くような感じの人がいたので、あとをついていったら、線路の向こう側に出るところに来てしまい、結局、遠回りして金町駅へ。
金町駅の図書館のある側は新しいビルができて、イルミネーションもきれいです。携帯なのできれいに撮れなかったけれど。
反対側も再開発中で、金町周辺は「男はつらいよ」とは全然違う世界になっています。