火曜日は1日に3つのイベントをこなしたので、かなり忙しい日だった。
まずは今月で終わり?というシネマート六本木での試写(映画館は6月14日閉館とのことです)。ヴェネツイア映画祭金獅子賞受賞のスウェーデン映画「さよなら、人類」。
シネマート六本木は3つのスクリーンのある古い建物で、そのうち1つが試写室になっていたのだが、ここは冷房を入れると寒いし入れないと暑いという、夏は行きたくない場所だった。でも、それさえなければけっこう好きな試写室で、座席数が試写室にしては多いので入れないことはめったにないし、階段利用の地下なので帰りも便利(エレベーターのみの試写室は帰りが大変)。座る席もだいたい決まっていて、私好みの試写室だった。
そんなわけで、「さよなら、人類」を見に行ったのだけど、このところの暑い陽気で、冷房がうまく効かないこの試写室を最後にまた経験してしまった。暑い中、駅から歩いて試写室に入り、冷房が入っていないと、汗だらだらになってしまうのだ。でもまあ、これが最後なら。
で、いろいろと意味深な短いエピソードから成る「さよなら、人類」を見た後は、同じ六本木の国立新美術館のルーブル美術館展へ。
正直、私は美術館は上野専門で、他はめったに行かない。なので、国立新美術館も興味のある美術展はあったのだけど、なかなか行く気になれなかった。
今回はフェルメールの「天文学者」初来日、ということで、別にフェルメールのファンじゃないけど、「天文学者」と「地理学者」は興味あったので、これは見たいな、と思い、たまたまこの日は火曜日なのに開館(いつもは火曜日が定休日)。シネマート六本木のあとに行くとちょうどいいので、出かけた。
まあ、しかし、混んでますね。上野とは桁違いに混んでる。だいたい、「ルーブル」とか「印象派」とかつくだけで混みそうな雰囲気なので、ずっと敬遠してたのだけど、まあ、とにかく人が多い。上野のフェルメールの真珠の首飾りや耳飾りのときはこんなに混んでいなかった。
展示はいろいろな絵画を時代別に並べていくタイプで、こういうのは私はあまり面白くないのだが、予想どおり、フェルメール以外はまあまあな感じ。そのフェルメールの「天文学者」は上野の東京都美術館の「真珠の耳飾りの少女」と同じく、絵画の前に行くコースは立ち止まっちゃだめ、絵画の前に行かないところでは立ち止まっていい、という仕様。「真珠の耳飾りの少女」は細かいところのない絵なので、それでよかったが、「天文学者」は細かいところが多いので、前に行っても立ち止まっちゃだめだとよく見れない。立ち止まっていいところだと遠くてよく見えない。オペラグラス持ってる人がいたけど、フェルメールに限らず、国立新美術館のタイプの展覧会はオペラグラス必要だと通切に感じた。上野ではそんなことは一度も感じなかったのだが。
まあ、そんなわけで、立ち止まっちゃダメのコースを2回通り、立ち止まっていいスペースでじっくり見たけど、それでもよく見えない、見た気になれない感が圧倒。たまたま立ち止まっちゃダメコースがすいていたからいいけど、そのあとどっと混んできて、何度も通るのが大変な感じになっていった。
この「天文学者」がちょうど真ん中くらいで、なんとなく消化不良でがっかりしていたが、そのあと、「これは!」という作品が出てきた。
イギリスの画家ゲインズバラの「庭園での会話」。木々の茂る庭園のベンチに座った男女を描いた絵で、見た瞬間、思わずそこに立ちつくしてしまった。音声解説もないので、人はあまり集まらない。だから、前でじっと立って見ていても全然平気であった。
美術展に行って、1つだけでも「これだ!」と思える作品があれば、行った価値があったというもの。このゲインズバラはターナー、コンスタブルと並んで、イギリスの代表的な風景画家だが、実はキューブリックの映画「バリー・リンドン」の映像はコンスタブルやゲインズバラの絵を参考にしたと言われている。そして、このゲインズバラの「庭園での会話」は、まさにその「バリー・リンドン」の世界、いや、原作者サッカレーの世界そのものだった。
うっそうと茂る木々のみずみずしい緑を背景に、ベンチに腰かけた男性の赤い服と女性のピンクのドレスが際立つ。まじまじと見てしまったけど、ピンクのドレスのきらめきがなんとも言えず、背景の緑がまた美しい。絵ハガキは残念ながら、その色合いをまったく表現できていなかった(カタログも同様)。
というわけで、ゲインズバラの絵に出会えただけで来たかいがあったというもの。もちろん、ほかにも気に入った絵はありましたが、なんというか、こういう百花総覧みたいな、あまり求心的なテーマがない美術展はどうも面白くないのですね。やっぱり上野の西洋美術館がテーマがはっきりしていて面白いな。国立新美術館はワンフロアでの展開なのがよいけれど。ただ、この種のガラス張りの建物って、もうあまり流行らなくなっているような。
ルーブル美術館展のあとは東銀座で「ルック・オブ・サイレンス」の試写。インドネシアの50年前の大規模な虐殺事件を描いた「アクト・オブ・キリング」の姉妹編で、虐殺を正しいと思い、良心の呵責を感じない加害者たちを前回は加害者側から描いたのに対し、今回は被害者側から描くというもの。これもヴェネツイア映画祭で5部門受賞なのだけれど、前作に比べていろいろとむずかしいというか、やはり個人としての加害者だけ責めても限界があるな、という感じがした。
最初に見た「さよなら、人類」も人間の歴史の暗部を描いたようなところがあり、「ルック・オブ・サイレンス」とあわせて、そういった面について考えさせられる。