翻訳書および、それに準ずる本が、共訳書も含めて合計10冊余りしかない私。
しかも、最後にその手の本を出してからすでに6年がたっている。
なので、もうこれ以上はこの手の本は出ないと踏んで、私の翻訳書ベスト3を発表します(笑)。
1位 「テロリストのダンス」新潮文庫
これの原書を読んで、どうしても私が翻訳したい、私こそ適任だ、と思って、版元に直訴して翻訳できた小説。もちろん、それにはいろいろな人の助けがあったので、私の熱意だけでは決して、決して実現しなかった翻訳です。そのとき助けてくださった方の中にはすでに故人となられた方もいます。これ1冊で終わっても悔いがなかった翻訳。
2位 「魔法の猫」扶桑社文庫
「テロリストのダンス」の翻訳ができることになった頃に、上のすでに故人となられた方の紹介で、共訳短編集の1篇を訳すことができました。「トム・キャット」という、ほとんどセリフで構成された小説です。私はこれを原文を通して読むということをせずに翻訳してしまいましたが、これは私じゃないとできない翻訳だ、と今も思っています。これと「テロリストのダンス」があれば、もう満足じゃないか、と思う翻訳。
3位 「インソムニア」新潮文庫
昔は1冊翻訳書が出れば、翻訳家として仕事が来るものでしたが、この頃はもう、1冊出ても次の仕事を手に入れるのが非常に困難な時代になっていました。それでも、私を応援してくれる人たちのおかげで細々と本が出ていたのですから、私は恵まれていたのかもしれません。新潮文庫でも2冊目はもらえない状況でしたが、編集者の好意で映画のノベライズの翻訳ができました。私好みの内容で、「テロリストのダンス」と同じくらい、心を入れることができた翻訳です。
で、あとの本はどうなのよ?と言われると、すいません、上の3つほど出来がよくありません、と言わざるを得ません。また、翻訳をめぐる状況が、上の3つに比べてあまりよくなく、満足の行く仕事ができなかったということもありました。
その他の翻訳書では、「クリント・イーストウッド:レトロスペクティヴ」の「硫黄島からの手紙」の部分が、著者が降臨したと感じた翻訳です。
「ブルース・オールマイティ」、「スピリット」といった、英語シナリオをもとにした書き下ろしノベライズも翻訳書に入っていますが、実はもう1冊、書き下ろしノベライズがあるのです。が、仕事の過程でトラブルがあり、別の名前で出しました。そのノベライズ、どういう内容だったか、あまり覚えていないという、私の愛情が得られなかったかわいそうな作品。しかも、フィクションの仕事はこれが最後だったのです。もう9年前のことです。
このほか、ロマンス小説で、やはり仕事の過程で出版を拒みたくなることが起こり、出版しなかった翻訳がありました。別の翻訳家で出版されましたが、これは私のパソコンの中だけにある、私しか読めない翻訳です。かなり長い小説だったので、もったいなかったですが、あの状況では出版しなくてよかったと思っています。