2017年10月11日水曜日

「ゲット・アウト」(ネタバレ???)

日本では無名の俳優ばかりが登場する低予算映画でありながら、アメリカでは高い評価を受け、ヒットもした「ゲット・アウト」。
映画は夜の高級住宅地を歩く黒人青年が何者かに拉致されるシーンから始まる。
そして、主人公の黒人写真家クリスが登場。彼は白人の恋人ローズの実家を訪れることになる。
ニューヨーク郊外の自然豊かな場所に住むローズの両親と弟、そして、ローズの祖父をしのぶ集まりにやってきた白人たち(と1人の日本人)。自分たちは黒人を差別していないということを強調するが、なにかがおかしい。奇妙な表情の黒人の召使2人と、集まりにやってきたやはり奇妙な黒人青年。操られたロボットのような黒人たちだが、クリスが青年にカメラを向け、フラッシュを焚くと、青年は突然人が変わったようになる。
集まった白人たちを前に、ローズの父親はクリスの大きな写真を見せながら、何か競りのようなことをしている。クリスとローズはその場にはいない。
その夜、クリスがスマホで警察関係の友人に青年の写真を送ると、驚くべきことがわかる。恐怖を感じたクリスはローズとともに逃げようとするが。。。

というのが前半で、このあと、真相が次々とわかってくる。
わかってしまえば、なんだ、昔からSFではよくある話だな、と思うのだが、この映画が評価されているのは人種問題のテーマだろう。
人種問題を扱っている、というのはプレスにも書かれているし、クリスとローズが鹿をはねてしまったときにやってきた地元の警官の態度、そして、黒人のクリスを迎える白人家族のどこかおかしな雰囲気から、人種問題が重要なテーマなのだろうということは想像できる。
だが、この映画、普通に考えられる人種差別がテーマではないのだ。
そこを詳しく書いてしまうと完全にネタバレになるので、非常に困るのだが、本当の意味でのネタバレは回避しながら、この映画の描く人種問題が何かについて少し触れておきたい(でも、ネタバレ度が高い話なので、注意してください)。





ローズの実家にやってきたクリスに、ローズの父は陸上選手だった祖父の話をする。
祖父はベルリン五輪の国内予選でジェシー・オーウェンズに敗れたのだが、父は黒人のオーウェンズが人種差別主義者のヒトラーの鼻をあかしたことをうれしく思うと語る。
ローズは両親は人種差別主義者ではなく、オバマの支持者であると言い、両親も黒人に好意的なことを言う。弟だけがちょっと違うのだが、祖父を忍ぶ集まりに参加した白人たちも黒人に好意的だ。だが、その好意的なところが変なのである。
彼らは黒人が白人より優れていると言い、これからは黒人の時代だとさえ言うが、こういうふうにある特定の人種や人々を持ち上げるのもまた差別なのだ。
下に見るのと上に見るのの違いはあるが、相手を対等と思っていないという点では同じなのである。
相手を対等と思っていたら、黒人へのお世辞のようなことを言うはずがないのだ。
この映画の人種問題は黒人を下に見て差別することではなく、上に見ることにある。
上に見ているので差別という言葉では表現しにくいのだが、それは下に見ることの裏返しである。たとえば、障碍者を天使のような人のように描くのもそうだ。
後半のSFでは昔からある設定が単なる焼き直しにならないのは、ここに黒人を見上げる白人たちの視点があるからだ。
そして、黒人を見上げながら、実際は、黒人をロボットのようにしている。
見上げることと見下すことを重ね合わせることで、差別の本質を明らかにしているのだ。
差別とは、相手を対等の存在として見ないことであり、相手を個人として見ないことである。
黒人は身体能力が高いとか、黒人は精力絶倫とかいった、日本にもある偏見で黒人一般を見て、個人を見ようとしないことである。
白人の中に1人だけ日本人がいて、彼が名誉白人みたいに白人の一部になっているのも考えさせられる(意図的?)。
あとはまあ、あのラストのあと、事件の真相はきちんと調べられるのかな、屋敷に火がついたみたいだし、というのが気になるところだけれど、その辺はすぱっと切って終わりにしている。