2019年3月16日土曜日

ヤクとじいちゃん、スバル座の閉館、その他のこと(追記あり)

水曜日に「ROMA」をまた見に行ったのに続いて、木曜日は近場のシネコンで「ヤクとじいちゃん」もとい、「運び屋」と、「翔んで埼玉」の3回目を見る。

うーん、「運び屋」、マジで「ヤクとじいちゃん」でした。
イーストウッドの映画はもう以前のようなすごい傑作は期待できないのだけど、そこそこ楽しめる。今回はイーストウッド演じる時代遅れのじいちゃんのキャラクターが魅力だ。
物語は2005年から始まり、デイリリーの品評会で優勝したじいちゃんが、12年後、インターネットでの花の販売をやらなかったために土地も家も差し押さえられてしまう。家族をだいじにしていなかったので、妻や娘を訪ねても冷たくあしらわれる。そんなとき、彼に近づいてきたのがコカインの密売組織の男。じいちゃんは運ぶものがコカインとも知らずに運び屋の仕事を引き受ける。
何度か運び屋をするうちにじいちゃんもコカインに気づくのだが、運び屋をやめられない。
危ない場面もあるが、持ち前の気さくな態度で切り抜ける。
このじいちゃん、時代遅れで、携帯でメールも打てず、ニグロという言葉はとうの昔に不適切語になっているのにそれを知らずに使ってしまい、注意される。でも、もともと気さくで明るい性格で、ユーモアもあるじいちゃんなので、どこへ行っても人と仲良くなれる(家族からは疎まれているのに、他人には受けがいい、という人はいるものである)。
どんな人とも仲良くなれてしまうので、麻薬組織の下っ端たちはもちろん、メキシコにいるボスにまで気に入られ、ボスの邸宅に招かれて酒池肉林?
なーんか、いい思いしてるな、イーストウッド。
後半はちょっとコワモテな人たちも出て来るけれど、全体に麻薬組織の人たちもあんまり悪いやつじゃないみたいに描かれていて、一部シーンをのぞいてほのぼの路線。なので楽しく見られるのだけど、頭の片隅に、これでいいのか?という疑問も浮かぶ。
おりしもピエール瀧がコカイン使用で逮捕されて、映画やテレビに影響が出ているというニュースが伝わってきたところ。自粛についてはテレビはしかたないにしても、過去作の配信やDVDやCDまで自粛しなくてもいいと思うが、これから公開される映画については、撮り直すものと、そのまま公開するものがあるようだ。
で、運び屋のじいちゃんはコカインを吸ってみたりはしなかったように描かれているが、普通は運び屋やってたらコカインを吸ってみたりもしてしまうだろう。また、麻薬組織が行っている悪事もかなりひどいものなので、こういう面を見せないことで楽しいお話になっている、というのがやっぱり気になる。
ラスト、刑務所に入ったじいちゃんはそこでデイリリーを育てている。世間に疎い庭師のじいちゃんにとって、閉じられた場所の庭師暮らしが本来の姿のように見える。庭師には、世間から隔絶して自分だけの楽園に閉じこもる人のイメージがあるのだ。

3回目の「翔んで埼玉」。1回目は今回と同じMOVIX亀有だったが、そのときは2番目に大きい箱。その後、亀有は2週目と3週目の平日を最大箱にしたので、今回、3回目は最大箱での鑑賞となった。(なお、2回目は毎回満席で最後に拍手が起こる聖地・MOVIXさいたままで遠征し、ちょっとほかでは体験できないすばらしい雰囲気を味わった。)
1回目の亀有はほぼ満席、2回目のさいたまは完売だったけれど、今回の亀有はかなりお客さんが少なかった。でも、流山決戦での互いに芸能人の幕を上げて競うシーンでは、幕が上がると拍手が起こったのがよかった。さいたまのような最後の拍手はなかったけれど。お客さん少ないとはいえ、あちこちからくすくす笑いが聞こえ、終わったあとは「面白かった」という声もあり、みなさん楽しんだようです。
今回初めて気づいたのは、その流山決戦のシーンで、「埼玉は後悔しない、海がないから」というのぼりがあったこと。「後悔」は「航海」のシャレ。こういうこと、よく考えつくなあ、と感心。

そして、金曜日には、有楽町スバル座が53年の歴史に幕を閉じるというニュースが。今年10月に閉館するのだという。
私が初めてスバル座に行ったのは1971年、ビリー・ワイルダーの「シャーロック・ホームズの冒険」を見に行ったときで、スバル座のロゴ入りのパンフレットを持っている。その後も何度も出向いたけれど、印象に残っているのは「ボウイ&キーチ」。なんでかというと、始まってすぐにフィルムが溶けだしてしまったから。フィルムをつなげてまた上映を続けたけれど、真ん中が白くなってそれが広がって上映中断という経験はそれが最初で最後だった。また、1984年にヒッチコックの5作品がリバイバル上映されたときも通った。一番最近は2年前の「君の名は。」のときで、スクリーンの前の幕の開閉があったり、始まる前にブザーとおばさんの「ごゆるりと」というアナウンスがあったりと、昔のままだった。最後の回が終わったときのアナウンスと蛍の光も昔ながら。閉館さよなら上映とかあるのだろうか。あのおばさんのアナウンスについての裏話なども知りたいものだ。

追記
「翔んで埼玉」がホロコースト否定などの問題発言の多い高須院長の高須クリニックとコラボしているということを知り、好きな映画だけどもう二度と見に行かないかなと思った。
調べてみると3月13日にコラボが発表され、その後、CMも流されているという。
このせいで、見たかったけどもう見ない、とツイートする人が増えている。
「翔んで埼玉」は差別と闘う話なのに、なぜ、こういう人とコラボするのかわからない。
芸能人とのつきあいの多い人で、世間的な知名度も高いので、単純に宣伝してもらえればさらにヒットすると思ったのだろうか。
あるいは、作品のテーマなんか実はどうでもよかったのか。
せっかくよくできた作品で、大ヒットしているのに、なぜ、あとになってこんなことをするのかと思う。
ただ、この映画の紹介で、埼玉をディスって楽しむ映画のような紹介の仕方をしているところが目について気になってはいた。見れば、差別反対のテーマの作品だとわかるはずなのだが、差別を娯楽にしているような紹介の仕方がけっこうある。
だから、高須クリニックとのコラボも差別の娯楽化の一環であるかのような言い方をする人もいる。
あまりにも残念な出来事で言葉もないが、所詮はフジテレビの映画だから志が高く見えても本当は低かったのだとさえ思ってしまう。