2011年10月30日日曜日

プロメテウスの罠

 新聞は取っていないので、図書館やら非常勤の勤め先やら、さまざまなところで時々読むだけだけれど、3・11以後、大手新聞の「ただちに影響はない」「安全、安全」の大合唱に怒りを感じ、特に、以前はリベラルだと思っていた朝日新聞までもがそうなっているのに怒り心頭、新聞は一応、時々見るけど、もう大手マスコミはどこも信用するものか、という態度で来ました。
 そんなわけで、朝日新聞に「プロメテウスの罠」という連載があったのを見て、時々読んではいたものの、なによこれ、自分たちのやったこと、やってることに対する反省は全然ないの? あんたらも片棒担いでたくせに、放射能汚染地域へ今頃のこのこ出かけていって、取材して、読者の涙をそそる話を集めてきて、政府批判ですか、と、まあ、そういうのが私の感想です。でした、ではなく、今も、です。
 しかし、この連載を一字一句、書き写して、自分のブログに載せていた人がいたのですね。それを読んだ人が、感動して、自分のブログに転載したり、紹介したり。そのうち、朝日新聞から著作権侵害で抗議が来て、10月29日にすべて削除した、とのことです。
 そのブログ主さんは、朝日のリベラルさにひかれていたので、朝日に怒りを感じて見限った人たちと同じ考えでしたが、それでも朝日を購読し続けているそうです。そして、朝日にもこの「プロメテウスの罠」をはじめとする良い記事がある、それを、朝日を読まない人にも伝えたい、という思いから、ブログに転載を始めたのだそうです。実際、ブログを読んで、朝日を購読するようになった人が、ブログ主さんが知るだけでも10人以上いるそうな。朝日に貢献してるんだわ。
 この「プロメテウスの罠」第2弾、「研究者の辞表」というのは、短く要約している人のブログでざっと読みました(まだ連載中の模様)。第1弾「防護服の男」は新聞で読んだ回も何回かありましたが、とあるところで最初から最後まで読みました。
 で、感想は、私はあまり価値を感じません。確かに、現地取材はけっこうですが、でも、こういう内容、今、放射能汚染の食材やら何やらが問題になっていて、東北・関東ではさまざまな場所で高い線量が検出され、住民が移転した方がいい場所も多くあるというのに、そういう、いまそこにある危機を報道しないで、なんで、半年も前のことやってるの? 政府は福島県民を見捨てた、その通りです。でもそれって、3・11直後にもうわかっていたよ。なんで逃げないの、なんで安全ていうの、と、ずっと思って、イライラして、「ただちにうんたらかんたら」と言ってるマスコミに腹を立てていた。
 こういうのって、東電OL事件をあとから取材して、面白い読み物にするのとどこが違うの?
 でも、私のように怒ってる人、批判する人は、あまりいないみたいです。こういう記事がないよりはいいからか?

 それと、なんですか、「プロメテウスの罠」って。
 プロメテウスの説明は、確かに最初に出てますよ。ギリシャ神話で、火を人間に与えた人ですよ(人じゃなくて神の1人か)。で、メアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」は、「現代のプロメテウス」が副題になっていて、プロメテウスの火は科学とか、電気とかになってるわけ。で、創元推理文庫の解説では、書いたのもう28年も前だけど、プロメテウスの火を原子力と結びつけて、私は解説してますよ。もちろん、私のオリジナルじゃないですよ。そんなの、昔から常識よ。
 ま、それはともかく(日本人はギリシャ神話疎いから、知らない人が多いのだろうけど)。
 プロメテウスの罠、って、何さ?
 プロメテウスが人間に火をもたらしたのが罠だっていうの?
 プロメテウスが人間に火をもたらしたあと、どうなったか知ってるのだろうか?
 罰として、岩山に縛られ、毎日、肝臓を鷲だか鷹だかに食われるのです。肝臓は食われてもまた再生するので、毎日、食われるわけです。すごい拷問ですよ。
 プロメテウスの罠、っていうタイトルに、とにかく、非常に違和感を感じます。
 そう、最初にあの連載を見たとき、真っ先に感じたのが、「プロメテウス」と「罠」という言葉の結びつきの違和感でした。それが結局、連載の内容についての違和感、批判的な気持ちにもつながっています。