愚直という日本語は、知っているけれど、使えない言葉の1つでした。
なんとなく、私とは無縁というか、性格的にも合わない言葉のような気がして、好きでもなかったです。
しかし、今日、私はこの「愚直」と訳したある翻訳に感動しました。
それはこのブログに出ています。
http://sago.livedoor.biz/archives/50251034.html
先ごろ亡くなったアップルの創始者スティーヴ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学で行ったスピーチを和訳し、字幕にまでしてくれた方のブログですが、和訳の全文も掲載されています。私は全文の方を読んだのですが(このスピーチ自体、前に読んだことがありますが)、その一番下にあった言葉、
Stay hungry, stay foolish. 貪欲であれ、愚直であれ。
を見て、いやもう、びっくりの大感動でした。
foolishを愚直と訳すとは! でも、ここはまさにその通りでしょう。
愚直というのは、文字通り、愚かでまっすぐ。バカ正直なくらいこつこつとがんばることが成功の道、というのはまさにドンピシャで、「愚直は天才に勝る」という町工場の話の本もあるようだ。
しかし、辞書を引くと、foolishには愚直の意味はないのですね。バカな、愚かな、という意味しかない。あとは分別がないというのがあって、ジョブズの本を訳している翻訳家の中にはここを「分別くさくなるな」と訳している人がいるようだが、それはこの「分別がない」という意味からの苦肉の策なのだろう。でも、「バカであれ」「愚かであれ」では意味がわからん。そしたら、なんと、日本語には「愚直」というすばらしい言葉があった。上のブログの方は天才です。
私もこれからは「愚直」という日本語を、私が使える日本語にしたいと思います――とか言って、やっぱ、私は愚直にはなれんわ。愚直っていうのは、たぶん、翻訳家には必要な資質だろうな。評論家には、ちょっとね。
ところで、そのジョブズの評伝が、その「分別くさくなるな」の翻訳家の訳で出ますが、これの著者は、あの、エキサイト機械翻訳で話題になったアインシュタイン伝の著者なのです。
追記 実は、foolishを調べたとき、1つだけ、愚直のような例がありました。それは、
The foolish old man who moved mountains.
愚公移山とか、愚公山を移すとか訳されている中国の故事のことでした。
要するに、山を移すような、荒唐無稽で実現不可能に見えることでも、こつこつ努力すれば実現する、というお話です。
英語ですが、挿絵入りのストーリーと解説があります。
http://www.targetchinese.com/targetpedia/the-foolish-old-man-who-moved-mountains/
山を動かすって、ここから来たのかな。