久しぶりに「バリー・リンドン」のサントラCDを聴いた。
映画公開時にLPレコードを買っていて、今も持っているが、アナログレコードプレーヤーはとっくの昔に処分して、たくさんあったLP(おもに映画のサントラ)も大部分はプレーヤーを持っている人に譲ったりして、でも、このサントラだけは保存してある。
でも、聴けないので、CDを買ったのはだいぶ前のこと。その前にレーザーディスクやDVDも買っていたが、このサントラはとても聴き応えがあるので、輸入CDがあると知って、たぶんアマゾンで買ったのだと思う。(訂正 HMVの店舗で買っていた。)
このサントラCD、今はもう廃盤らしく、アマゾンを見たら、6750円とかいうすごい値段がついていた。私が買ったときは1500円以下だったと思うのだが。(訂正 1590円だったが、2枚買うとさらに割引と書いてあったので(ビニールの袋に)、さらに安かったかもしれない。)
さて、この「バリー・リンドン」の音楽はクラシックやアイルランドの古謡が使われているのだけれど、私が特に気に入っているのはシューベルトの曲。シューベルトはご存じ、19世紀の作曲家で、映画の時代(18世紀)にはまだいなかった人だけれど、この映画はほかにも映画の時代よりあとの時代の曲を使っている。また、テーマ曲のヘンデルの「サラバンド」は原曲を大幅に変えたアレンジで、原曲を聴いたときは同じ曲とは思えなかった。
そんなわけで、18世紀から19世紀のクラシックが映像にみごとにマッチしていて、もう本当にすばらしいのだが、中でもシューベルトの「ドイツ舞曲」と「ピアノ三重奏第2番」が気に入った。特に後者は映画の後半のテーマ曲になっていて、主人公に降りかかる災難や悲劇の数々にこのもの悲しい曲が重なっていく。一方、「ドイツ舞曲」は主人公に息子が生まれ、まだ幸せがあったシーンで流れる軽やかな曲。この映画は前半がコミカル、後半がしだいに悲劇になっていく。
そして、この映画には、もう1つ、シューベルトの曲が使われている。「即興曲第1番」というピアノ曲だ。ただし、使われているのは冒頭のほんの短い部分だけ。なので、サントラには入っていない。どこで使われたかというと、第一部から第二部に移るあたり。ピアノの音がバン!と鳴って、そのあと、短いフレーズが続く。原曲はそのあとさらに長く続くのだが、映画は最初の部分だけを使っている。
「ピアノ三重奏第2番」と「即興曲集」のクラシックCDはたくさん出ているので、クラシックのCDもすぐに手に入ったが、「ドイツ舞曲」がなかなか見つからなかった。あるとき、ギドン・クレーメルという有名なバイオリニストの「シューベルト・ソワレ」というCDを見つけて買ったら、そこに入っていた。このCDはシューベルトの明るい曲ばかりが入っていて、とても楽しい。
そんなわけで、「バリー・リンドン」では、第一部と第二部の間に暗い運命を予感させる「即興曲第1番」の冒頭のメロディ、後半のまだ幸せがあった時代に明るいドイツ舞曲、そして、最後にもの悲しく暗い「ピアノ三重奏第2番」が入っているという格好。なかなかにみごとな選曲だと思う。
なんて書いていたら、「シューベルト・ソワレ」と「即興曲集」のCDを出して聴きたくなってきてしまった(段ボール箱の中なので、ひっくり返さないと出てこない)。
「ピアノ三重奏第2番」も一応、持ってますが、これはどうも気に入った演奏がないのです。「バリー・リンドン」のサントラがやはり一番気に入っています(映画では第二楽章だけですが)。
(4月12日追記 曲について記憶違いがあったので、一部訂正しました。)
というわけで、「バリー・リンドン」について語り出したらおそらく語りつくすことはないと思うくらい語りたいことはたくさんあるのですが、あまりにたくさんあるので、かえって何もしていない。別にブログ作ろうかな。
「アイズ・ワイド・シャット」の映画評を再録していただいた「ムービーマスターズ スタンリー・キューブリック」では、「バリー・リンドン」は初公開時の特集記事の対談と、映画評論家の短評が2つ載っていますが、対談もさることながら、山田和夫氏の映画評が的を射たものになっています。貴族社会の崩壊が迫っている時代の物語であり、バリーのような下からの突き上げみたいなものがやがて革命の時代になっていくというとらえ方は、原作についても、映画についても正しい見方です。映画のラスト、リンドン女伯爵がサインする書類の日付が、フランス革命の年であること、ここは原作にはないということを考えると、キューブリックが貴族社会の崩壊の予兆を描いたというのは間違いないことです。