去年の秋に原作を読んでからずっと楽しみにしていたヨルゴス・ランティモスによる映画化「哀れなるものたち」。
先週金曜の先行は、午後7時以降からの上映ばかりで、終わるのが10時くらいになってしまうからパス。そして今日の初日、どこで見るか迷ったんだけど、前作「女王陛下のお気に入り」の音響がすごくよかったので、音響のいいMOVIXで。
まあ、音はよかったんですけど、前作のような、耳をそばだててしまうような音響効果ではなかった。
内容も、原作の方がよかった。原作もそんなに絶賛するほどではないというか、著者が編集した実話本という体裁で、ゴドウィンという科学者の助手の語りの中にゴドウィンが作り上げた女性ベラと駆け落ちする男の語りがあり、また助手の語りになって、最後にベラの語りが来て、それまでの話が全部否定される、しかし、編集者の著者はベラの語りを否定、みたいな構成が面白いと言えば面白いんだけど、注をいっぱいつけて実話ふうに見せているところがうざいと言えばうざいので、この仕掛けを喜ぶ人は絶賛するだろうけど、私はちょっとね、という感じだった。
内容的には、男性登場人物が女性差別意識満載で、それを平気で語ってるのに対し、ベラはそういう男たちへの不快感をあらわにしていて、そのあたり、男たちの女性差別を逆説的に突きつける隠れたフェミニズムみたいなところは興味深かった。
ただ、これを映画にする場合、小説ならではの語りの仕掛けは映画では無理なので、その辺どうするのかな、と思っていたら、映画はまさしくその語りの仕掛けはいっさい無視で、普通に話が進む。映像は冒頭カラー、そのあとしばらくモノクロ、そしてカラーとなる。そしてベラが駆け落ちした男と旅するヨーロッパ各地が幻想的な風景で描かれる。
原作と違うのは、ベラが帰国したあと、夫だと名乗る人物が現れたあとで、ここはもう、完全にランティモスの世界で、原作の世界ではない。
そのほか、原作にはないグロとエロの描写がすごくて、それを演じるエマ・ストーンがすごい。二度目のアカデミー賞は確実かな。対抗のリリー・グラッドストーンは「女王陛下のお気に入り」のオリヴィア・コールマンが受賞したときの対抗、グレン・クローズと似たような抑えた演技で、ランティモスのヒロインのスーパーエキセントリックの前では不利だ。もっとも、エマは一度取ってるし、リリーは先住民だから受賞させたい、みたいな力が働くかもしれないけれど。
映画も作品賞取るかもしれないくらいの絶賛なのだけど、私は原作の逆説的なフェミニズムが消えていること、幻想的な映像がそんなにすごくないこと、ストーリー自体は原作とあまり変わりなくて、最後の変えた部分もそんなに面白くないこと、などから、あまり高く評価はできない。ランティモスの悪趣味なところが好きな人にはよいでしょう。