3時間近い「瞳をとじて」と2時間半近い「カラーパープル」を流山おおたかの森でハシゴ。
2本の映画の間は15分しかないので、まず、「瞳をとじて」を見る前に、ローソンストア100で買った200円弁当でお昼。ごはんとウィンナ5本その下にスパゲッティが少し入っています。
「瞳をとじて」については、ネタバレありで書くので、最後に。
「瞳をとじて」が終わってから「カラーパープル」が始まるまでのわずかな時間に、前日に買って持ってきていた菓子パンをロビーで食べます。
「カラーパープル」はプレミアでの上映。このシネコンのプレミアはとても好きで、映像もいいし、音響もいい。ただ、見たい映画をここでなかなかやってくれない。久々のプレミアでした。
中に入るとソファのあるロビーがあり、シャンデリアがついていますが、ここでくつろいでいる人を見たことはありません。くつろぐほどの時間がないのだけど。スクリーンのある部屋もなかなか豪華で、椅子もゆったりで、とても好きなスクリーンです。
「カラーパープル」は舞台のミュージカルの映画化ですが、スピルバーグの映画化とわりと同じストーリー展開なので、やっぱりスピルバーグの方が演出うまかったなあ、と思ってしまいます。クレジットではアリス・ウォーカーの小説のミュージカル化となっていて、スピルバーグとウォーカーの両方がプロデューサーに加わっています。
というところで、先に見た「瞳をとじて」について。
ヴィクトル・エリセの久々の監督作で、3時間近くあり、話の方は淡々として、あまり盛り上がりがないにもかかわらず、飽きずに見てしまいました。
冒頭、1947年が舞台のシーン。病で余命いくばくもない老人がある男に、中国にいる娘を探してほしいと頼みます。が、実はこれは映画の1シーンで、男を演じた主演俳優が撮影途中で失踪。これが1990年のことで、おそらく死んだのだろうと周囲は思っている。
それから22年後の2012年、主演俳優の失踪で撮影中止となったその映画の監督がこの未解決事件を扱ったテレビ番組に出演することになり、監督と俳優の関係が明らかになり、そして、監督が俳優の娘に会ったり、自身の人生を振り返ったりする、という物語。
俳優と監督は若い頃、海軍で知り合い、以後、親友となり、同じ女性を愛したこともあった。撮影中止となった映画は監督の2作目だったが、このあと監督は映画を作ることをやめ、小説を書いたり翻訳をしたりしている。
で、その監督が俳優の娘に会ったり、未完の映画のフィルムを保管していた男と会ったり、偶然見つけた献辞入りの自著がきっかけで昔の恋人に会ったり、自宅の近所に住む若い夫婦との交流があったり、といった具合で映画は進んでいく。
このあたり、とても淡々としていて、ドラマチックなところもなく、何か筋書きが見えてくるわけでもなく、いったいこの話、どこへ行くのだろうという感じなのだけど、なぜか、飽きずに見てしまう。
そして結末近くになって(以下ネタバレ)テレビ放送がきっかけで、高齢者施設にいる記憶喪失の男が失踪した俳優だとわかる。しかし、俳優は監督と会っても何も思い出さない。娘が会いに来るが、やはりだめ。そこで監督は閉館したばかりの映画館を借りて、俳優が主演した未完の映画のラストを見せる。老人が中国から来た娘と会うシーンで、娘は父親を覚えていないが、しかし、というラスト。
映画中映画のラストはかなりメロドラマチックで、あまり洗練されたものとは思えないが、本編の方はこのあと、俳優が瞳をとじるという簡潔なシーンで終わる。
俳優の娘を演じているのは「ミツバチのささやき」のアナ・トレントで、役名もアナ。その彼女が高齢者施設で老いた父と対面するシーン、そして最後の映画館での上映が「ミツバチのささやき」を想起させる。
私が「ミツバチのささやき」という映画を知ったのは、1983年、「フランケンシュタイン」の解説を書くために下調べをしていたときだ。「フランケンシュタイン」の映画化についての英語の論文にこの映画の紹介があった。スペイン映画で、英語タイトルは「ミツバチの巣」とかいうものだったと思う。
この映画は日本未公開で、当時はまだインターネットもなかったからそれ以上調べることもできず、なので、解説には書かなかった。しかし、解説を書いた本が出て数年後に、「ミツバチのささやき」というタイトルで映画が公開された。この映画が日本でたいそう人気のある映画になったのは周知のとおり。
ヴィクトル・エリセにとって、「瞳をとじて」は「ミツバチのささやき」への回帰があったのだろう。映画監督をやめてしまった映画の中の監督が、22年前の未完の映画に回帰するように。
そして、「瞳をとじて」は2023年の作品だけれど、私が「フランケンシュタイン」の解説を書いていたのがちょうど40年前の1983年。そして、この映画が日本公開されたのが、「フランケンシュタイン」出版(1984年2月)からちょうど40年後の2024年2月であることに、深い感慨を覚えずにはいられない。
追記 エリセにとっては、「瞳をとじて」(2023)は、「ミツバチのささやき」(1973)から50年後の作品となる。
追記2 奇しくも「瞳をとじて」が公開された2月9日、創元推理文庫「フランケンシュタイン」30刷りが決まったようです。40周年で30刷り、よいね。