2014年9月19日金曜日

麻酔科医の映画

STAP細胞のアイデアを自分のラボにいた小保方晴子に吹き込んで理研に送り込み、話題になったハーバード大学付属病院のチャールズ・バカンティ。研究の方では耳マウスとか変なことばかりやっていて、科学界ではまったく信用のない人物だったのに、理研がだまされ、真相発覚後は理研の対応が悪く、おまけに小保方と同じ早大出身の文科大臣がSTAP応援、という具合に迷走に次ぐ迷走となったSTAP問題ですが、こちらはもう世間的にはあきられちゃった感じですね。バカンティがまた最近、STAP細胞は簡単にはできない、特別なこつのある科学者にしか作れない、とか変なこと言ってますが、誰も相手にしてません。
さて、このバカンティは本職は何かというと、麻酔科医なのです。はじめにこの人物の話を聞いたとき、あんなペテン師みたいな科学者がハーバードにいられるのは、麻酔科医として優秀なのだろうか?と思ったのを思い出します(単に研究費を取るのがうまいだけかもしれないけど)。


麻酔科医というのは、麻酔をする手術のときに患者の様子をしっかり観察して患者を守るのが仕事だそうです。その麻酔科医が主役の日本映画「救いたい」を見てきました。


原作は仙台の医療センターの麻酔科医の女性が書いたノンフィクションで、麻酔科医の仕事に対する世間の無知、無理解を憂慮し、麻酔科医の仕事を理解してもらおうと書いたのだそうだ。映画は著者と夫をモデルにした医師夫妻を中心に、架空の人物を加えて、心に傷を抱えた人々のドラマにしている。
主人公は原作者と同じく、仙台の医療センターの麻酔科医。あの東日本大震災から2年半、医院を経営していた夫は震災のときに避難所へ出かけたのがきっかけで、津波で大被害を受けた海辺の町の診療所の医師になっている。当然、夫婦は別居となり、毎週末に妻の麻酔科医が夫のもとへ行く生活。震災から2年半がたち、被災地の人々も活気を取り戻しているが、深い傷も残っている。
一方、仙台の医療センターでも、震災で父を失った若い女性麻酔科医が大きな地震があるとショックを受けて仕事ができなくなったり、一緒に父を探してくれ、今は彼女に思いを寄せている自衛隊員を見ると、死んだ父を思い出してパニックになってしまったりする。
震災後の東北を舞台に、心に傷を負った人々のドラマとしてよくまとまっていて、感動的な映画だった。新婚の夫を震災で失い、夫を思いながら義母と暮らす診療所の看護師のエピソードには「東京物語」を連想させるクライマックスがある。新しい人生に踏み出せない彼女と、悲しみを乗り越えて麻酔科医として再生する若い女性の物語が対照的な構図になっている。
原作の意図であった、麻酔科医への理解を深めるということは、具体的にせりふとして複数回出てくる。ここがちょっとしつこいかな、というか、映画なら言葉でなく映像で見せる方がいいのでは、と思った。
しかし、海辺の町の漁師たちの働く姿を描いたシーンをはじめ、映像的に美しいシーン、光のとらえ方がすばらしいシーンもあって、映像としてよいところもたくさんある。
仙台の医療センターはじめ、医療関係者や自衛隊の協力を得ているが、映画の趣旨に賛同する団体や個人の寄付で製作された映画であることが最後に字幕で出る。いろいろな人の思いがこめられた映画なのだろうと、素直に納得できる作品だ。