「日本のいちばん長い日」の次は「地上より永遠に」(ここよりとわに)です。
「日本のいちばん長い日」が、終戦直前の日本で日本兵同士が殺し合う映画だとしたら、「地上より永遠に」は真珠湾攻撃前後にハワイで米兵同士が殺し合う映画です。
「地上より永遠に」は1953年のアカデミー賞作品賞受賞作ですが、やはり傑作です。
しかし、私は若い頃、この映画を見て、どこが傑作なのかわからなかった(未熟者)。
当時、映画雑誌に誰だか忘れたが、評論家が「この映画は作品賞に値しない」みたいなことを書いていて、やっぱりそうなのかなあ、と思った。
けれども、数年前、この映画についてのコラムを依頼され、DVDで再見して驚いた。
すごい傑作だ。
作品賞は当然というか、こんな米軍の暗部を描いた映画、戦争を皮肉に描いた映画を、アメリカが戦争に勝利した8年後に作っていて、しかも作品賞あげるのだからすごい。
原作もすごいのだろうけど(「シン・レッド・ライン」の原作者ジェームズ・ジョーンズ)。
最近、ミュージカルにもなっているようで、5月にスターチャンネルで舞台の録画を放送するらしい。見たいなあ。電波を受信できるテレビはないけど。
それにしても、「作品賞に値しない」と書いた評論家はどこが気に入らなかったのでしょう。
あれはたぶん1970年代前半だったと思うけど、日本の評論家の多くはこの映画をどう見ていたのかな?
監督のフレッド・ジンネマンの評価は高かったはず。ただ、若い頃の私はジンネマンの映画は全体的に苦手だった。なので、「地上より永遠に」のよさがわからなかったのかもしれない。
この映画は「ローマの休日」を抑えて作品賞とのことで、「ローマの休日」大好きな日本では受けなかった?
あるいは、男女2組のカップルの話が昔の保守的な男女観の日本では理解されなかったかもだなあ。今見ると、軍隊に身も心も捧げた男たちと、彼らについていけない女たちの対比が面白いし、そうした男たちを皮肉に見る女たちの目みたいなものも感じるのですが。
米軍内のいじめや虐待は、旧日本軍のいじめや虐待に比べたらたいしたことないと、昔の日本人は思っただろう。
というわけで、私が年をとって大傑作とわかった「地上より永遠に」なのですが、やっぱり、なんといっても、ラストが皮肉。以下ネタバレのため、文字色を変えます。
軍隊から逃げて隠れていた兵士(モンゴメリー・クリフト)が、真珠湾攻撃を知って、軍隊に戻ろうとするが、途中で味方から誤解されて射殺されてしまう。ラスト、彼の恋人(ドナ・リード)はアメリカ本土に帰る船で、クリフトの上官(バート・ランカスター)と恋仲だった女性(デボラ・カー)と出会う。カーはランカスターからクリフトの死の真相を聞いている。そうとは知らず、リードはクリフトが名誉の戦死をしたと言う。この2人のヒロインのなにげない会話で映画は終わる。
なにげないけれど、これはすごいシーンだと思います。ただ、知識がないと、あるいはこのシーンの意味をきちんと把握できないと、「地上より永遠に」が大傑作だということがわからないのではないか、と。うーん、上級者向けの映画かもしれない。
(以下おまけ)
「日本のいちばん長い日」をDVDで見たとき、一緒に高倉健出演の「燃える戦場」も借りて見たのですが、これもなんかすごい戦争映画で、主役のイギリス軍がもうめちゃくちゃ。なんてひどい軍隊なんだ、という感じで、それに比べると高倉健の日本人将校は理性的で立派な人物に描かれています。この映画ではクリフ・ロバートソンの米兵がイギリスの部隊に派遣され、そこでイギリス軍部隊のめちゃくちゃぶりを目撃するのですが、そのイギリス軍に所属する兵士マイケル・ケインは労働者階級出身なので、生き残るのが第一。めちゃくちゃなイギリス軍なんかにつきあっちゃいられねえ、という感じ。が、ロバートソンはイギリス軍はめちゃくちゃでも使命は果たさねば、という感じで、生き残るのが第一のケインと対立、というところが「戦場にかける橋」のアレック・ギネスとウィリアム・ホールデンのイギリス人とアメリカ人をちょうど逆にした感じで面白かったです。ギネスは中産階級出身だから名誉が大事だけど、労働者階級出身のケインは名誉なんかくそったれ。
この頃のケインはイギリスの富裕な階級に反抗する労働者階級の若者を演じていて、私は大ファンでした(今もファンですが)。
話がずれましたが、この「燃える戦場」もラストがすごいです。戦争の愚かさを表した映画です。でも、この映画、公開当時は日本では評判悪かったような? まあ、確かに、われらが健さんがあんなにあっさりと殺されちゃうのは、日本人としては受け入れがたいですけどね。