2016年2月16日火曜日

「スポットライト」(ネタバレあり、追記あり)

今月はじめに見た「スポットライト 世紀のスクープ」について書かなければいけないと思っているのですが、なかなか書けません。
この映画はとにかく脚本が優れているので、脚本賞は総なめ状態。そして、作品も、アカデミー賞作品賞最有力と見られていたのですが、ゴールデングローブ賞のドラマ部門で「レヴェナント 蘇りし者」が作品賞となってから風向きが変わってしまい、「レヴェナント」が最有力となっているようです。
作品賞候補の多くがメジャーの配給会社なのに対し、「スポットライト」がインディペンデント系なのも不利と言われています。
私は作品賞候補のほとんどをまだ見ていませんが、「スポットライト」は一押しですね。
ただ、私が一押しの映画が作品賞というのは、去年の「バードマン」が唯一の例外で、私が推すのはだめなのだわさ。
しかし、「レヴェナント」が作品賞だと、「バードマン」に続いてイニャリトゥの映画が作品賞になります。で、昨年、「バードマン」で主演男優賞を惜しくも逃したマイケル・キートンが「スポットライト」の主演。
「スポットライト」は役者もみなすばらしく、アンサンブル賞もいくつも受賞していて、個別の賞でも受賞やノミネートがあります。ただ、みんなが主役みたいな映画なので、同じ俳優が主演賞だったり助演賞だったりと、なかなかに複雑。この辺も不利なのかなあ。
映画はボストンのカトリックの神父による子供への性的虐待が問題になっていながら、それが追及されずにいたことに対し、「ボストン・グローブ」という新聞が本格的に調査を開始、それを記事にしたという実話の映画化で、これが契機となって、全米どころか世界中でカトリックの神父による性的虐待が表に出ました。この問題はペドロ・アルモドバルの映画にも取り上げられています。
「ボストン・グローブ」は、私がNHLをフォローしていた時期にネットで記事を読んでいましたが、信頼できる新聞だという印象を受けていました。
「スポットライト」を見てわかるのは、ボストンという町が非常に保守的で、教会を批判することはご法度みたいなところがある。「ボストン・グローブ」も、よそから来たユダヤ系の編集局長が問題追及を始めるまではおざなりにしていた。古い町、ボストンとはこういうところなのか、と思ったしだい。
映画はとにかく脚本がよくできていて、俳優がみんないいので、見終わって非常な満足感を得ることができます。娯楽映画を楽しんで終わり、では物足りない人にはぜひおすすめしたい。
群像劇なので、誰が主役かを決めるのはむずかしいのですが、物語はマイケル・キートン演じる先輩記者と、マーク・ラファロ演じる後輩記者の対比で進みます。ラファロはとにかく、神父の犯罪を早く世に出したい、よそに先を越されたくないと、公表を急ぐのですが、キートンは神父だけの問題ではない、それを隠ぺいした教会を追及しなければ問題は解決しない、として、慎重な態度をとります。しかも、途中で9・11同時多発テロが起き、記事を出すのは先送りになり、証言した被害者の苛立ちも募る。
記者たちがいろいろな人を訪ねて調査していく過程も面白いですが、このラファロとキートンの対立もまた興味深い。スターとしての格から言うと、今はもうラファロの時代で、キートンは過去のスターなので、クレジットはラファロが先ですが、映画を見ていると、これはやはりキートンが一番の主役だということがわかってきます。
それはもっぱら役柄にもよるのですが、キートン演じる記者はかつて、神父の犯罪の記事を出したにもかかわらず、さらに追及しなかった。それが彼にとっての罪の意識になるというあたりに映画の深みがあります。
そして、ラスト、記事を出したあとに新聞社に読者から電話が次々とかかってくる。その電話をキートンがとるところで映画は終わります。これはやはりキートンが主役の映画だと思わせるシーンです。
地味だけど、ほんとにいい映画です。

追記 肝心なことを書くのを忘れてました。この映画で一番いいと思ったのは、神父や教会を責めるだけで終わっていないことです。そのような事態を見過ごしてしまったジャーナリストにも、市民にも、責任がある、ということ、また、虐待した神父もまた少年時代に虐待を受けていたこと、といった、単純に善悪を決めないところがいいのです。