2016年3月31日木曜日

「ブルックリン」(ネタバレ大有り)+1

アカデミー賞の作品賞など3部門にノミネートされていたシアーシャ・ローナン主演の青春もの「ブルックリン」を見てきました。

月曜には「グレート・ビューティ 追憶のローマ」(未見)の監督の新作「グランドフィナーレ」を見たのですが、ビミョーな出来。Rottentomatoesでも批評家72%、観客70%と微妙(賛否両論?)でしたが、マイケル・ケインの老いがこれでもかこれでもかと強調されていて、ファンとしては苦しかった。ケインの娘役のレイチェル・ワイズも40代の老けたお肌がアップになるとよくわかって、美人なのに気の毒にと思ってしまった。おまけにケインら主人公の老人たちが泊まっているスイスの老舗のホテルが高級な湯治場みたいな感じで、エステというかケアのシーンが多く、そして温泉が混浴なのですよ。もちろん、水着なんか着ない混浴です。いくら高齢者ばかりだからといって、いや、高齢者ばかりではないし、この高級湯治場には子供も若者もいるのですが。
で、原題はYouth。若さとか青春とかいう意味。
なんかタイトルからしてきついわ。
若い人が見たらどうなのかな、と思ったけど、両隣のわりと若い人(男と女)は終始、がさごそと体を動かしていて、落ち着かない感じ。やっぱりビミョーな内容だと思ったのでしょうか。
映像と風景は美しいんですが、この程度の映像でフェリーニの再来とか、冗談きつい。「グレート・ビューティ」がフェリーニの再来みたいな映画のようですが、そのうち見てみます。

と、絶賛する人が多いらしいけど、実際はビミョーな映画を見たあとにRottentomatoesで好感度抜群の高い評価を得ている「ブルックリン」を見ると、ああ、やっぱりこれがいい映画なんだよ、と安心します。
1950年代はじめ、アイルランドからアメリカに移住する1人の若い女性。アイルランド系の多いブルックリンの下宿に住み、デパートの売り子をしながら夜学で簿記を勉強、イタリア系の青年と恋に落ち、というのが前半。
試写では普通、プレスシートというものが配られるのですが、この日はチラシ1枚しか渡されませんでした。始まったばかりで間に合わなかったのかもしれないけど、そういう場合でもコピーを配るものなのに、不思議。
で、チラシではどういう内容なのかわからないのですね。上に書いた、1950年代に若いアイルランド女性がアメリカへ移住する、ということくらいしかわからない。あとは、「洗練されたニューヨーカーになる」とか、「2つの故郷と2つの愛から選ぶ人生の選択とは」とか、「誰を愛するかを決めることが、どんな自分になりたいかという答えになる」とか、よくわからない。
チラシの文面だけ見ると、アイルランド女性の出世物語かな、出世のためには男を選べ?と思ってしまいますが、そうではありません。
そんなわけで、このチラシの文面じゃどういう映画かわからないじゃないか、という方のためにこれから詳しく書いていきますが、ネタバレもあるので注意してください。
主人公の若い女性エイリシュはアイルランドでは仕事もなく、意地悪婆さんの経営する店で売り子のバイトをするくらい。この町には彼女の未来はない、と感じた姉がニューヨークの神父に頼んで彼女がアメリカに移住して仕事ができるようにしてもらいます。
姉妹の絆は強く、エイリシュはブルックリンに移住してからも姉に手紙を書き続けます。恋人ができたことも姉にだけ打ち明けます。
ところがその姉が急死。エイリシュは里帰りすることになりますが、恋人は彼女が戻ってこないのではないかと心配し、2人は秘かに市役所で結婚。そのあとエイリシュはアイルランドへ帰ります。
エイリシュは姉の墓前では結婚指輪をして、結婚の報告をしますが、母親には黙っています。このエイリシュと母の関係というのが映画ではわかりにくい。エイリシュは姉を慕っているけれど、母とは距離を置いている感じがします。
エイリシュが結婚したとは知らない友人が彼女に男性を紹介し、つきあうようにさせたり、姉が簿記をしていた工場で、姉のかわりに簿記係になる話も持ち上がります。アイルランドでは仕事もなく、恋人もできず、未来がないと思っていたら、姉の死がきっかけでその逆になったわけです。
「2つの故郷と2つの愛から選ぶ、人生の答えとは」というのは、このことだったのですね。
この映画はとにかくもう、登場人物が善人ばかりで、いやなやつは最初に出てくる意地悪婆さんだけです。その意地悪婆さんも、エイリシュに嫌がらせをしたらエイリシュが真実に目覚めてしまうという結果になるので、結果からしたら役に立ったということになります。
あとはもう、ほんとにいい人ばかりで、ブルックリンではデパートの職場の上司とか、同じ下宿に住む女性たちとか、エイリシュに意地悪するのかな、と思うとそうではなく、みんないい人で、彼女たちがいろいろ助言して、そのおかげでエイリシュが成長するという感じになっています。また、恋人とその家族もとてもいい人。
アイルランドの方も、その意地悪婆さん以外はほんとにいい人ばかりです。姉は妹思いだし、友人も、友人が紹介した男性もいい人。母親がちょっとわからないけど。
というわけで、ほんとにいい人ばかりなので、大変後味がよい映画なのですが、エイリシュが船でアメリカへ渡るとき、同室になった女性が、「アメリカから里帰りしたけど、帰るんじゃなかった」みたいなことを言います。実は、アメリカのアイルランド系の人たちは故郷に帰るとアイルランドの保守的で閉鎖的なところばかりが目について、故郷がいやになり、二度と帰りたくないと思う、という話をだいぶ前に読んだことがありました。この同室の女性はまさにそういうアイルランド系だったわけです。
そして、エイリシュが意地悪婆さんの嫌がらせで知る真実とは、まさにこれなんです。
アイルランドの人たちも、多くはいい人ばかりなんですが、でも、アメリカから里帰りしたエイリシュの都合も何も考えずに男性を紹介したり、簿記係になれと言ったり、悪気はないのですが、相手にも事情があるかもしれないという考えが浮かばない。なんというか、狭い世界によくあるんですよ、こういうの。別に田舎じゃなくても、いろいろな狭い世界に。
もちろん、結婚したことを隠しているエイリシュもどうかと思います。つか、彼女の迷いが今一つ表現しきれてないのが欠点かな。結婚を母親にも秘密にする理由がわからないのもちょっとね。
チラシを見たら、この映画、アイルランド=イギリス=カナダ合作でした。アメリカは入ってません。アメリカ映画だったら、ここまでアメリカ万歳できないでしょう(ブルックリンの人はみないい人ばかりで、アイルランドのような、いい人だけどでも、みたいなのはない)。基本、アイルランドの映画で、アイルランド人の自戒がこめられているのだな、と思えば納得です。