新海誠監督の最初の2本、1人で作ったという短編「ほしのこえ」と、90分ほどの長編「雲のむこう、約束の場所」をDVDで見た。
2本ともSFなのだが、新海誠の描きたいすれ違いや喪失感はSFとは相性が悪い。
だから続く「秒速5センチメートル」からはSFやめたのは全く正解。
「ほしのこえ」は地球と宇宙にひき離された少年少女の物語で、時間と距離に引き裂かれる男女という、「秒速」や「言の葉の庭」に通じるテーマ。で、少女が宇宙へ行く理由が巨大戦闘ロボットに乗って宇宙人と戦うため、というのが当時のアニメの流行にそのまま乗っかっている。
まあ、ここでオリジナリティを出して「インターステラー」みたいなことをやったらとても25分じゃ終わらないので、ここは巨大戦闘ロボットアニメに乗っかってもOKとしよう。
少女が学校の制服のままロボットに乗ってるのが変といえば変だけど、もしかして、これ、少女の妄想?と思わせる。
「雲のむこう」みたいに少女は長い眠りについてしまっていて、あるいは死んでしまっていて、それが8光年という距離として描かれている、のかもしれない(?)。
少年が大人になって艦隊勤務になっても宇宙へ行けそうにないしなあ。
でも、「ほしのこえ」は短編なので、時間と距離に引き裂かれる男女というテーマがダイレクトに伝わってくる。
これで一気に有名になった監督が次に作ったのが長編「雲の向こう、約束の場所」で、これはストーリーをもっと練らないとだめだ。
日本が津軽海峡で南北に分断されていて、北海道はユニオン、青森から南はアメリカが支配しているような感じの日本が舞台。北海道にユニオンが建てた天にまで届く塔があり、その塔に飛行機で行くと約束した3人の少年少女の物語と、日米対ユニオンの対立と戦争の話がからみあっている、のだが、この対立と戦争のところがあまり面白くないというか、うーん、2004年公開の映画だそうだけど、ちょっとコンセプトの古いSFじゃないかなあ。
一方、新海監督こだわりのすれ違いと喪失感の方はSFストーリーの陰になってしまっていて、時々思い出したように出てきて、あとは最後に出てくるけど、正直、これが全体のテーマに見えないので、最後も感動しない。
背景はきれいだけど、この2作、キャラクターの絵があまり魅力がない。
「雲のむこう」には「君の名は。」のかたわれどきに似たシーンが出てくるので、これもまた「君の名は。」につながっていることはわかる。わかるけど、やっぱり失敗作だろうな。
新海監督はSFが好きなのはわかるが、結局、SFを捨てた「秒速」からが本領発揮になっているわけで、あのテーマとSFがやはり合わないのだろう。でも、「雲のむこう」の最後に出てくる飛行機の絵がとても魅力的なので、別のテーマでSFやってみてもいいかもしれない。
「君の名は。」であのテーマは到達点に達したというか、それまでの作品は時間と距離がどんどん離れていく一方だったけれど、「君の名は。」は時間と距離を入れ替わりによって克服する話なのだ。
前作「言の葉の庭」では時間は2人の年齢差(15歳と27歳)だったけれど、こちらは年をとるにつれて年齢差がしだいにそれほど大きく感じられなくなるはずだし、距離も超えられない距離ではないので、実は前作ですでに時間と距離の克服が暗示されていたと言えるのかもしれない。