2017年6月19日月曜日

上映中の「キング・アーサー」は見ないけど

一応、どんな映画か調べてみました。

アーサー王伝説の映画に関しては好きだし詳しいつもりだけど、今度の「キング・アーサー」はまったく見る気がありません。
だって、そうでしょ、人妻奪ってアーサーをはらませたウーサー・ペンドラゴンがなぜか善人で、ウーサーと妻イグレイン(最初の夫が死んだあとにウーサーと結婚)を殺したヴォーティガンにアーサーが復讐する話って、話が違うじゃん。
おまけに、アーサーと異父姉モーゴーズとの間に生まれた息子モードレッドがなぜかアーサーより先に生まれていて、なんかヴォーティガンと関係あるらしいよ。
ヴォーティガンは一応、アーサー王伝説に出てくる人ですが、これまでに見た映画化では見たことなし。
あと、「エクスカリバー」ではパーシヴァルになっていた、エクスカリバーを湖の淑女に返すベディヴィアがウーサー側の人間として出てくるらしい。
パーシヴァルも出てくるらしい。
あと、トリスタンが違う名前で出てるらしい。イゾルデは出ないようだ。
もー、わからん。
マーリンは出てこなくて、かわりにマーリンがつかわした女の魔術師が出てくるようだ。アーサーの異父姉でモーゴーズの妹モルガン・ル・フェイがモデルとか(?)。
ちなみに、「エクスカリバー」ではモーゴーズとモルガン・ル・フェイを合わせたような魔女モーガナが登場する。
あ、「エクスカリバー」というのはジョン・ブアマンの1981年の映画で、ウーサーがガブリエル・バーン、モーガナがヘレン・ミレン、マーリンがニコル・ウィリアムソン、ガウェインがリーアム・ニーソンという布陣でした。ミレンはシェイクスピアの舞台では有名だったけれど、彼女とバーンとニーソンは映画では無名でした。

まあ、とにかく、アーサーが両親の敵討ちをするというアクションもののようです。あと、女性キャラが刺身のつまレベルな、男臭い映画らしい。

正直、私はアーサー王伝説のまともな映画化は21世紀に入ってからは無理になったと思っています。
理由は、ハリウッド映画が不倫を描けなくなったから。
アーサー王伝説って、最初から不倫話ばかりなんですよ。
まず、父ウーサーが人妻イグレインに横恋慕、彼女ほしさに戦争するわ、マーリンの力借りてアーサーをはらませるわ、戦に勝ったあとはイグレインと結婚。「エクスカリバー」ではウーサーはその後殺されますが、マロリーがまとめたアーサー王伝説の本「アーサー王の死」では2人は普通に結婚して普通にその後の人生を生きていきます(中世の物語なので近代以降の物語のような複雑な人間描写とかはないのです)。
で、成長したアーサーは異父姉と知らずに、やはり人妻のモーゴーズと寝てしまい、息子モードレッドができてしまう。
そしてアーサーはグウェネヴィアと結婚しますが、そのグウェネヴィアがランスロットと不倫してしまう。
別枠の話では、おじの花嫁のイゾルデを迎えに行ったトリスタンが彼女と恋仲になり、その後イゾルデがおじと結婚したあとも不倫。
と、不倫オンパレード。
しかも、トリスタンとイゾルデに描かれるように、不倫とはいえ、これぞ永遠の愛、美しき恋、という描写。
昔の話って、不倫が美しく描かれますよね。なんでだと思います?
それは、昔は恋愛と結婚が別だったから。好きな人と結婚なんて無理だったからです。
結婚は家のためだし、親が勝手に相手を決めるし。
だから不倫こそ真実の愛だったわけ。
しかし、現代では、結婚は本人の意志で、愛のもとにするもの、なので、不倫はいかん、ということに。
グウェネヴィアとランスロットの不倫を最後に描いたのはショーン・コネリー主演の「トゥルー・ナイト」だったのでは? あれは1990年代。かろうじて「マディソン郡の橋」があった時代。
しかし、しかし、今の人にはアーサー王伝説映画といえば、せいぜいこの「トゥルー・ナイト」くらいまでで、それ以前の本格的な映画化は知らない人が多いのでは?
おっと、実はアーサー王伝説はゲームになっていて、ゲーマーの方が伝説に詳しかったりします。

というわけで、「トゥルー・ナイト」以前のアーサー王伝説映画のおすすめを紹介。

1950年代
「円卓の騎士」
アーサー王の誕生から王妃の不倫、聖杯伝説までしっかり入ってます。ただ、1950年代のハリウッド映画なんで、チョー軽いアーサー王伝説な感じは否めません。キャストは豪華。
1960年代
「王様の剣」
T・H・ホワイトが現代の感覚でよみがえらせたアーサー王伝説の小説「永遠の王」の最初の部分をディズニーがアニメで映画化。少年ウォート(アーサーの愛称)がマーリンのもとで修業を続け、ついにエクスカリバーを抜いて王になるまでの話。
「キャメロット」
ホワイトの「永遠の王」のアニメになった部分のあとをミュージカル化したものの映画化(ややこしい)。「マイ・フェア・レディ」の作詞作曲コンビの歌曲が美しい。アーサーを尊敬しながらランスロットに恋してしまうグウェネヴィアは当時流行の2人の男性と1人の女性のパターン(「冒険者たち」とか「突然、炎のごとく」とか「明日に向って撃て!」とか)を連想させる。ラストに少年時代のトマス・マロリーが登場する(原作にも登場)。
1970年代
「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」
モンティ・パイソンによる聖杯伝説のパロディ。ニーの騎士とか盆栽とか笑ってしまう。
1980年代
「エクスカリバー」
上ですでに書きましたが、マロリーの「アーサー王の死」をもとにアーサー王の誕生、王妃の不倫、聖杯伝説、漁夫王伝説がコンパクトにまとめられている(人物関係など変えている部分もある)。ジョン・ブアマンの才気が光る一級の文芸娯楽大作になっている。ワーグナーの「神々の黄昏」や「トリスタンとイゾルデ」、オルフの「カルミナ・ブラーナ」など挿入曲もぴったり。
なお、この映画ではグウェネヴィアの不倫の原因はアーサーが王としての役割ばかりを重んじ、妻を顧みなかったため、となっており、「クレイマー、クレイマー」の時代の解釈であることがわかる。この映画ではグウェネヴィアの本命はアーサーで、ランスロットではない(「キャメロット」とはここが違う)。

このあと、「エクスカリバー」という同名の映画がいくつか作られているようです。また、ディズニーのアニメで「キャメロット」というのもありましたが、あれはアーサー王伝説とはあまり関係なかったような。2000年代の「キング・アーサー」は歴史としてのアーサー王を描いた映画で、魔法も不倫もなしの、試みはわかるけどやっぱりイマイチな映画でした。

ちなみに、マロリーの描くアーサーとグウェネヴィアの結婚ですが、アーサーが「そろそろ王妃をめとろう」「じゃあ、この人は?」で2人は結婚。「キャメロット」でも「エクスカリバー」でも2人は恋愛結婚ですが、マロリーの方はあっさりしたもののようです(恋愛結婚そのものが自己矛盾だったのでしょう)。