2017年12月15日金曜日

「暗黒街の巨頭」(グレート・ギャツビー)

ローソンの機械の故障で受け取れなかったアマゾンの荷物をやっと受け取ってきた。
DVD5枚とブルーレイ3枚。このDVDの1枚が、1949年製作の「暗黒街の巨頭」。スコット・フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」の2度目の映画化(小説と舞台版の両方が原作らしい)。
ずっと見たかったのだが、アマゾンのサイバーマンデーでいろいろ検索してたときに見つけた。ジュネス企画なのでちょっと高い。アマゾンでも4000円以上。画質音質はかなり悪い。
なんで見たかったかというと、アラン・ラッドのジェイ・ギャツビーは理想だと思ったからだ。
彼はレッドフォードの美貌とディカプリオのワルっぽさの両方を備えている。
パーティでイチャモンつけに来た男をぶん殴るなんてことはレッドフォードのギャツビーにはできない。
ギャング全盛の禁酒法時代に酒の密造で稼いだギャングとしてのギャツビーがしっかりと映像化されている(原作はそこまではっきりとは書いていないんだが)。
デイジー役のベティ・フィールドがまたよい。レッドフォード版のミア・ファローはおそらく彼女の演技を参考にしたのだろう。フィールドのデイジーをはすっぱにしたのがファローのデイジーという感じ。でも、フィールドの方が存在感がある(原作のデイジーの愚かさが足りないが)。
ベティ・フィールドは6年後の「ピクニック」ではキム・ノヴァクとスーザン・ストラスバーグの母親を演じているのだけど、「ピクニック」のときはまだ30代だったとわかった。
ほかにも有名な俳優が何人も出ているが、シェリー・ウィンタースのマートルがはまり役すぎる。が、出演シーンが少ない。もったいない。3年後、彼女は「陽のあたる場所」で主役の1人を演じる。
レッドフォード版とディカプリオ版が2時間以上もあって、どちらも長すぎると感じたが、この映画は90分ほどなのに実にコンパクトによくまとめてある。ギャツビーの過去の話とか、オールドスポートのこととかもしっかり入っている。
日本ではアラン・ラッドは「シェーン」しかないみたいに言われているが、このギャツビーの演技は非常によい。ロマンチックな面とギャングとして成功した暗黒面の両方を兼ね備えていて、デイジーへの真摯な思いもよく表現されている。ロマンチックな面しか表現できていないレッドフォードと、漫画でしかないディカプリオと比べて、ラッドのギャツビーは本当に理想的だと思う。
レッドフォード版はレッドフォード以外のメイン・キャストはみなよくて、特にトムのブルース・ダーンとマートルのカレン・ブラックの演技は特筆すべきものだった。ニックのサム・ウォーターストンも好感が持てた。スコット・ウィルソンもよかったし、ロイス・チャイルズはひたすら美しかった。
ラッド版ではニックとトムがやや平板な感じで、語り手のニックがあまり機能してないのと、トムとマートルの不倫があまりしっかり描かれていないのが不満だ。
そして、一番困るのが、ギャツビーがトムにデイジーと別れてくれと言うホテルのシーンから最後までが原作とはかなり違う解釈になっていること。
原作では話し合いのうちにギャツビーが暗黒街のビジネスで儲けたと知ったデイジーが恐ろしくなり、夫のトムに心を戻してしまうのだが、ラッド版ではデイジーは最後までギャツビーを愛している。
デイジーがマートルをひき逃げしてしまうシーンはレッドフォード版では描かれず、その後にトムたちが通りかかって事故を知るようになっていて、ここはあの映画の中では非常にうまい演出になっている。マートルの死に怒りと悲しみを感じるトムもブルース・ダーンの演技で的確に伝わってくる。
しかしラッド版ではデイジーがひき逃げする場面からずっとデイジーを中心とするシーンで描かれ、デイジーは運転していたのは自分だと正直に告白する。デイジーは一時的にトムに心を戻すが、やはりギャツビーへの愛は消えない。トムも訪ねてきたマートルの夫ウィルソンにギャツビーのことは言わない。しかも、そのあと、デイジーに懇願されて、ギャツビーに危険を知らせようとする。デイジーもトムもいい人になっているのだ。
原作ではトムやデイジーのような金持ちは自分のことしか考えていない人々で、それに対し、ギャツビーは違うとニックが言うシーンがあるのだが、ラッド版だとトムもデイジーもいい人で、しかし、ギャツビーはウィルソンに撃たれて死ぬ、という結末になっている。
この大事な部分をこういうふうに変えてしまったのでは映画としての評価が低くなるのはやむを得ないか、という気はする。
レッドフォード版は公開当時、評判が悪かったのだが、ディカプリオ版があまりにも漫画チックだったので、逆にレッドフォード版が再評価されてしまった感もあるし、私もディカプリオ版ができる前に大学の授業でレッドフォード版を紹介して、昔見たときよりも印象がよくなったのだが、欠点は多いにしても原作に一番近いのはレッドフォード版だと思う(最初の映画化は見てないが)。
ラッド版はアラン・ラッドが理想のギャツビーであることを思うと、いかにもハリウッド的なみんないい人のクライマックスと結末になってしまったのは惜しい。原作ではニックとジョーダンは別れてしまうのに、ラッド版では最後に結ばれるみたいになっているのも当時のハリウッドのハッピーエンド主義のような気がする。
細かいことでは、ラッド版ではイーストエッグとウェストエッグが逆になっている。船着き場の緑のライトは出てこない。