2021年2月19日金曜日

「ガラスの動物園」1966年版

先月、バイプレーヤーとして活躍した俳優のハル・ホルブルックが95歳で亡くなった。

私が初めて見たハル・ホルブルックは、1966年制作のテレビドラマ「ガラスの動物園」。

テネシー・ウィリアムズの有名な戯曲のテレビドラマ化で、日本ではNHKが字幕スーパーで放送したのだが、おそらく翌年の67年だろうと思う。

舞台の名女優で「愛しのシバよ帰れ」でアカデミー賞主演女優賞を受賞しているシャーリー・ブースの主演、ということで紹介されていたが、印象に残ったのは、ブース演じる母アマンダの息子トム役のハル・ホルブルックだった。

ほかには、トムの妹ローラをバーバラ・ローデン、紳士の訪問者をパット・ヒングルが演じていた。

当時、映画ファンになったばかりの私には、4人とも初めて見る役者だった。

その後、日曜洋画劇場で放送されたエリア・カザン監督の「草原の輝き」(1961年)に、パット・ヒングルとバーバラ・ローデンが父娘の役で出演しているのを見た。

ヒングルはカザンの「波止場」が映画デビュー、ローデンは「草原の輝き」のあとカザンと結婚していて、この2人はカザンがらみのようだけど、実はヒングルとローデンは8歳しか年が違わないと知ってびっくり。ヒングルは若い頃からわりと老け顔だったようだ。彼はバート・ランカスターがアカデミー賞主演男優賞を受賞した「エルマー・ガントリー」の主役を演じる予定だったが、自宅アパートのエレベーター・シャフトに落ちて瀕死の重傷を負い、出演がかなわなくなったのだと知った。

ローデンは1970年の映画「ワンダ」を監督主演したが、80年に乳がんで死去。4人の中では一番短命だった。「ワンダ」はフランスで非常に高い評価を得ていて、日本でも今世紀初めに特殊上映されたらしい。

「ガラスの動物園」は1度しか見ていないけれど、ハル・ホルブルックの繊細な演技はいまだに忘れられない。結末近くのローラに語りかけるシーンは今でもよく覚えているし、ガラスの動物たちを見るローデンの表情も脳裏に焼き付いている。

「ガラスの動物園」はその後、1970年代にキャサリン・ヘップバーン主演でテレビ化され、80年代にはポール・ニューマン監督、ジョアン・ウッドワード主演で映画化された。この映画化の方は見ている。ウッドワードのアマンダ、ジョン・マルコヴィッチのトム、カレン・アレンのローラ、ジェームズ・ノートンの紳士の訪問者だったが、シャーリー・ブースのアマンダの圧倒的な存在感、ハル・ホルブルックのトムの繊細さなどにはとうてい及ばないと感じた。

シャーリー・ブースはオスカーを得たあと、テレビのスターになってしまったので、映画はあまりないようだが、「愛しのシバよ帰れ」を見ると、その演技はすばらしい。

そして、ハル・ホルブルックとパット・ヒングルはさまざまな映画でわき役として活躍を続けていたが、ホルブルックは「ガラスの動物園」の繊細なトムの印象と、その後、映画で見るわき役の演技の印象が結びつかず、とまどいつつも、これが演技というものなのだろうと思っていた。

「ガラスの動物園」のトムのような演技をもっと見たかったのかもしれない。

ローデンが48歳で亡くなり、19世紀生まれのブースが80代で亡くなり、ヒングルも80代で亡くなり、そしてホルブルックが95歳で亡くなって、この4人がすべて世を去った。合掌。

「ガラスの動物園」、左から、パット・ヒングル、シャーリー・ブース、ハル・ホルブルック、バーバラ・ローデン。


結末近く、ローラに語りかけるシーンのトム(ハル・ホルブルック)。

写真はインターネット・ムービー・データベースより。