GWはまったく映画に行っていなかったので、久々、映画館へ。「EO イーオー」と「トリとロキタ」をハシゴ。
キネマ旬報シアターは「御法度」イチオシです。
同じスクリーンでこの2本を交互に上映していて、「EO」を先に見たのだけど、「トリとロキタ」がかなりつらい映画だったので、「EO」をあとにすればよかったと後悔。
「EO」はイエジー・スコリモフスキ監督の新作で、アカデミー賞国際長編賞候補になった作品。
スコリモフスキといえば、私は高校時代に「早春」を映画館で見ている。当時は郊外の映画館は都心のロードショー作品を2本立てで上映していたので、お目当ての映画の併映作品だったと思う。ツルゲーネフ原作の「初恋」でドミニク・サンダにあこがれる少年を演じたジョン・モルダー・ブラウンがアイドルだったので、その彼が主演だから公開されたという感じで、スコリモフスキは全然話題になってなかったと思う。
映画も普通の青春ものではなくて、ちょっとダークで神経を逆なでするようなところがあって、私は好きではなかった。
それがだいぶたって、監督が有名になり、この映画がカルト的人気になったようで、私が初公開時に映画館で見ているというので、「どうでしたか?」などと聞いてくる人までいて、「うーん、だいぶ昔のことだからよく覚えてなくて~」とお茶を濁したのが思い出という、スコリモフスキとは全然縁がなかった。2018年のリバイバルも見てません。
しかし、「EO」は圧倒的な映像美、そして寓話的な物語に魅了された。
自然の美、そして動物たちの鮮明な姿。サーカスで芸をしていたロバのEOが人間の都合で居場所を転々とし、ポーランドからイタリアまで旅をするが、その間にいろいろな人と出会う。EOは女性と仲良くなるが、男性とはあまり仲良くならず、中には暴力をふるう男たちもいる。その行き先々で出会う人間たちの姿が社会のいろいろな面を寓話的に表しているようで興味深い。EOの心が映像化されたシーンや、EOがロボットになる幻想シーンなど、次々と趣向を凝らした映像が登場する。ラストの大きな物音は何なのだろう。
「この映画は動物と自然への愛から生まれた」という最後の言葉もいい。EOは数頭のロバが演じているが、とてもかわいい。
と、気分よく見終えたのだが、そのあとの「トリとロキタ」は見ていてつらかった。
アフリカからベルギーに難民としてやってきた偽の姉弟、ロキタとトリを、周囲の大人たちが食い物にする話で、幼いトリは迫害されていたのでビザを手に入れるが、ロキタはほんとうの姉ではないと疑われ、ビザが取れない。実際、ロキタは家族のために出稼ぎに出てきたのがほんとうのところのようだ。
偽の姉弟とはいえ、2人の間にはほんとうの姉弟のような愛情が生まれている。2人とも賢いしタフだけれど、子どもを利用する裏社会の大人たちにはかなわない。
たまたま、前日の夜にリーアム・ニーソン主演の「メモリー」をオンライン試写で見せてもらったが、これも難民というか不法移民の子どもを売春に利用する組織の話で、売春させられていた少女が殺されたのにニーソンが怒り、組織の連中を次々と血祭りにあげていくという、毎度おなじみニーソンのアクション映画なんだけど、脚本と演出がへたでねえ。ガイ・ピアースらが演じるFBI捜査官たちも組織を追っていて、久々私好みのピアースを見たなって感じだったんだけど。ニーソンはすごく老け込んでびっくりしたが、アルツハイマーが進行中という役柄なのでそうなっているのかもしれない。
話がそれたけど、この「メモリー」は組織の黒幕が町の有力者なので警察もFBIも手が出せず、ニーソンやピアースたちがどんなにがんばっても、みたいな展開になるのだけど、「トリとロキタ」も、比べるのはなんですが、いくらがんばっても正義なんかないよね、みたいな感じが結局最後までつきまとう。
「トリとロキタ」の方が断然リアルで、善と悪では割り切れない、子どもを利用する大人たちは悪だけど、出稼ぎ目的のロキタを難民扱いできないのはしかたないのかもしれないし、ロキタがそうなってしまう社会も悪いんだけど、あまりに問題が大きくてどうしていいかわからないのが実情。ひたむきに生きる子どもたちのきょうだい愛とかきれいごとも言いたくない。とにかく最後まで希望のない映画だった。
「EO」も、イタリアへ行く途中で、EOを運ぶ運転手が難民か不法移民と思われる黒人の少女に食べ物をやり、冗談まじりにセックスしようと言うと、少女は逃げ、そのあと、運転手は何者かに殺されてしまうというエピソードがある。運転手は本気で言ったのではなかったようだが、少女の親族の男が復讐したのかもしれない。
たまたま続けて見た3本の映画に共通することがあったので、ますます考えてしまった。