http://bookjapan.jp/search/review/201101/hujita_syouhei/20110105.html
以前にも紹介した書評サイト、BookJapanに最近掲載された、大学で文章表現を学ぶ学生、藤田祥平氏の「ガリヴァー旅行記」評は、私が感じていたよい書評の条件をいくつも満たしている。
この書評はツイッターでも数人が絶賛の言葉を書いているので、もうそれで十分ではあるのだけれど、この書評を読んで感じたよい書評の条件を列挙してみるのも悪くないと思う。
で、何がよいかというと、
1 文章の構成がうまい。最初と最後に個人的な話をほんの少しだけ書き、それを額縁として、その中に本をおさめている。
2 内容にふさわしい長さになっている。
3 内容は、「ガリヴァー旅行記」に詳しい人には特に新しいものではないが、そこに至る道筋に書評者独自の姿勢がある。
たとえば、彼はこの小説の特徴を、想像力ではなく説得力と書いているが、もともと、ダニエル・デフォーの「ロビンソン・クルーソー」とジョナサン・スウィフトの「ガリヴァー旅行記」はイギリス近代小説の始祖であり、それまでの散文物語(ロマンスと呼ばれたが、現在のロマンス小説とは無縁なもの)にないリアリズムが近代小説の特徴であった。現在では「クルーソー」も「ガリヴァー」も子供向けの本が多く出回り、リアリズムよりもファンタジーに近いものと考えられているが、そこを、リアリズムに通じる「説得力」という、書評者独自の言葉を用いて書いたところに、結論は新しくないが、そこに至る道筋は新しい、という結果になったと思う。(なお、書評者は「ガリヴァー」を童話と書いているが、この小説は童話ではない。)
4 書評者が自分にも読者にも高いレベルを設定している。自分よりレベルの低い読者を想定すると、書評者もそれに合わせて自分のレベルを下げてしまう場合がある。この書評にはそうしたところがなく、むしろ、上向きの傾向を感じる。
と、以上、気づいたことを書いてみたが、この書評のよさは、書き手の若さに依存する部分も多く、ここで完結してしまうと伸びなくなってしまう恐れもある。現在の高い完成度からさらに上に行くには、一度、この完成度を破壊しなければならないこともあるだろうと思う。