2013年10月30日水曜日

RottenTomatoes98%Fresh

RottenTomatoesで98パーセントもの高評価を得ている「MUD マッド」という映画。試写が3回しかないので早速見に行った。
RottenTomatoesはけっこう参考になるし、評価が低くても評論家のコメントで自分好みかどうか判断できるので助かるが、逆に高評価のもの(98パーセントとか異様に高いもの)は、え、こんな程度で?とがっかりすることもある。
「MUD」はアメリカのミシシッピー川周辺に住む貧しい白人たちの物語で、主人公の14歳の少年が親友と一緒に川の中の島へ行くと、そこに殺人犯の男(マシュー・マコノヒー)が原始的な生活をしている。彼は恋人(リース・ウィザースプーン)を助けるために殺人を犯してしまったらしいのだが、被害者の家がギャングで、ボスの父親が人を雇ったりして彼を殺そうとねらっている。それでも彼は恋人に会いたがっていて、彼女も彼に会うためにこの近くに来ている。そこで、2人の少年は彼らのために一肌脱ごうとするのだが、そこで主人公は一筋縄ではいかない「大人の事情」に直面する。
よく練られた脚本で大変よい映画なのである。こういう映画にけちをつけるのはむずかしい。テーマもすばらしいし、出演者もよい。アメリカのプア・ホワイトの世界もリアルに描かれ、少年の成長というよくあるテーマが手垢のつかない新鮮な切り口で描かれている。少年が抱く恋への幻想が、大人の世界では全然違うということがわかるあたりは、ほのぼのとした雰囲気の映画なのに、きびしい現実を突きつける。
ただ、クライマックスがありきたりな銃撃戦になってしまうところだけが、欠点といえば欠点か。
そんなわけで、98パーセントもの支持を得るのはとてもよくわかるのだが、逆に言うと、賛否両論の出ない映画、無難な映画ということで、そこが物足りない。
でも、見て損はない映画なのは確か。「ウィンターズ・ボーン」、「フローズン・リバー」、「ハッシュパピー バスタブ島の少女」などを想起させるアメリカの貧しい人々の姿を描いた映画でもある。

実はこの映画の前日に、ボスニアの貧しい人々を描く「鉄くず拾いの物語」を見た。
こちらは貧しいロマの一家が主役で、幼い子供を抱える父親は仕事もなく、生活保護も子供手当ても受けられず、鉄くずを拾ってなんとか暮らしている。ところが、妊娠中の妻が突然、痛みを訴え、おなかの子供がすでに死んでいて、手術しないといけないことがわかるが、健康保険に入っていないので病院から手術を拒否される。
これは実話で、このあと、いろいろな人の協力で妻は手術を受けられるのだが、このニュースを知ったダニス・タノヴィッチ監督が激怒、映画にして訴えなければ、と思い、医者以外はすべて本人に演じさせて9日間で撮影、いわゆる再現ドラマとしての映画ができあがったのだ。
これがなかなかに見ごたえがあって、ロマの一家はまったくの素人なのにものすごく自然な演技。2人の子供の様子なんかリアルそのもの。夫はその演技でベルリン映画祭主演男優賞まで受賞してしまった。周囲の人々もみな本人が演じているというけれど、全然再現ドラマに見えない。かといって、俳優を使った劇映画とは違う雰囲気もあり、なんとも不思議で面白い映画だった。また、この映画に描かれたことが、日本ではまったくありえないとは思えないのも、考えさせられる。

さて、ツタヤで旧作100円のレンタル。今回は古いイギリス映画ばかり借りたのだけど、「わが命つきるとも」の次は「ズール戦争」。マイケル・ケインの出世作として有名な南アのイギリス軍とズールー人の戦いを描く戦争映画だけれど、戦闘が始まるまでに1時間くらいかかったのは驚いた。最初の1時間くらいは、まず、ズールー人の壮大な集団結婚の儀式を描き、そのあと、100人くらいしか兵士がいないイギリス軍の駐屯地で、ズールー人の襲来に備える兵士たちを描く。製作も兼ねるスタンリー・ベイカーの庶民出身の中尉と、マイケル・ケインの演じる金持ちの坊ちゃん中尉のやりとりが中心で、イギリスの階級がもろに現れているところ。庶民出身のケインが金持ちの坊ちゃんというのが驚きだが(ベイカーが抜擢したらしい)、なかなかの名演技。
後半は4千人ものズールー人と100人程度のイギリス軍の戦いで、このスペクタクルがすごいのだが、人が何人も死ぬけれど、なんとなくスポーツの試合みたいな描き方になっているのがサッカーが好きなイギリス人に受けるのだろうという気がする。ズールー人は民間人の宣教師とその娘にはいっさい手を出さない紳士的な人々で、誇り高い戦士として描かれている。対するイギリス人というか、ウェールズ人が中心で、その中にイングランド人やボーア人、スイス人もいるといった具合なので、イギリス軍の方は悪賢いやつとか情けないやつとかもいるが、こちらも基本的には正々堂々とやっている。そして、この少数のイギリス軍が多数のズールー人をついに追い返したあと、ズールー人がイギリス軍に、よくやった、とエールを送ったりするのである。また、戦闘の合間にお互いに歌でやりあったりする場面もあり、やっぱりこれはスポーツの試合だよね、と思ってしまった。
今は戦争をこういうふうに描くのは不謹慎だし、もはやそういう映画を新たに作って楽しめる時代でもないが、「ズール戦争」はズールー人を敬意をこめて描写し(ズールー人の全面協力でできている)、イギリス軍を賛美せず、戦争のむなしさも最後に感じさせるといったところがいい。古い映画だと欧米人以外の人々の描写がひどかったりするのだが、この映画にはそういった感じはないというか、同時代のハリウッド映画にはそういうひどい描写があるので、やはりイギリス映画は違うと思った(「アラビアのロレンス」でもアラブ人は誇り高い人々に描かれていた)。
監督のサイ・エンドフィールドはアメリカ人だが、ハリウッドではアメリカ先住民がひどい描かれ方をしていたので、そういうことはしたくなかったのだそうだ(特典映像より)。ほかにも、特典映像を見ると、アパルトヘイト時代の南アでの撮影だったので、人種差別に関する苦労があったようだ。ズールー人と白人が交流することも許されていなかったのだという(それでも交流していたようだが)。