2014年8月21日木曜日

猛暑の映画めぐり

今、統計を見たら、全期間のページビューの数字に6が3つ並んでいたので、オーメンかと思った。すぐに数字は変化するはずだけど(と思ったら、666は万、千、百のところだったので、しばらくはこの数字が残ります)。


さて、先週は気温が低めでよかったのですが、今週はまた猛暑。今年の夏は気温が高く、湿度も高いので、汗が乾燥せず、困るのですが、昨日(水曜日)は生まれて初めて軽い熱中症のような症状がありました。
なにかちょっとこれはやばい、と思ったので、扇風機の風をガンガン体に当て、ジュースや水を飲んでしのぎましたが(水分だけでなく、塩分や糖分もとった方がいいような気がする)、やはりエアコンのない部屋は危険だと思います。
バスタブに水はっておいて、いつでも飛びこめるようにしておいた方がいいかもしれない。


というわけで、熱中症を避けるためにも外出して冷房のある場所に入るのが一番、ということで、今週は月曜から水曜まで試写室へ。


月曜は韓国のテノール歌手、ベー・チェチョルの実話の映画化「ザ・テノール」。ヨーロッパで活躍していたチェチョルが突然、甲状腺癌にかかり、声を失うが、日本人プロデューサーやファン、そして名医の力で歌声を取り戻す、という物語。
もともと声を失う前に日本で公演して人気を博していたそうですが、声を取り戻す過程で日本が大きくかかわっていたということで、日本のテレビで何度も取り上げられ、私は知らなかったのですが、かなり有名な話だったようです。
イギリス映画「ワンチャンス」もそうでしたが、テレビで取り上げられて有名な話の映画化だと、すでに知られているので映画自体にあまり興味が持たれない、ということがあるのか、どちらも試写が混んでないのですね。実話の映画化とはいえ、脚色されているので、実話そのものとは違うところもあるのですが、知らなければなかなか面白い映画なのに、むずかしいところだなあという気がしました。もちろん、ファンにとっては見る価値のある映画でしょう。
同じテレビで取り上げられたものでも、例の偽ベートーベンと違って、チェチョルは本物。活躍していた時代の歌声が使われていますが、なかなかすばらしい声です。


火曜はリチャード・リンクレイター監督が12年かけて撮った「6才のボクが大人になるまで。」。原題は「少年時代」ですが、邦題の方がいいです。まさにそのものずばりで、6才の少年とその家族を演じる4人の俳優が、毎年数日間ずつ撮影して12年かけて完成した劇映画。両親を演じるパトリシア・アークエットとイーサン・ホークはプロの俳優なので、12年間撮影してもそれなりに予想がつくと思いますが、子役の6才のエラー・コルトレーンと、姉役の9才のローレライ・リンクレイターは子役経験があるとはいえ、プロの俳優とは言えず、12年のうちにどう変化するか予想できないのに、よくやったというか、また、この4人の身に何か起こらないとも限らないので、ものすごい賭けだったと思うので、とにかくこの企画そのものに驚愕してしまいます。
そして映画は、12年間、細切れに撮影されたにもかかわらず、2時間45分のドラマの中で自然に子供たちが年をとり、大人たちも変化して、ドラマとしてきちんとまとまっています。シーンが変わると、子供たちの顔が少しずつ変化しているのがわかるし、特に少年が中学生になると、いきなり身長が高くなるのもリアル。
この12年間の間にリンクレイターは毎年のように別の映画を作っていたし、ホークとアークエットはさまざまな映画やテレビに出演していたわけですが、そのかたわら、こんな映画を作っていたとは。
映画の冒頭では両親はすでに離婚していて、母親が2人の子供の面倒を見て、父親はミュージシャンめざして風来坊生活をしていますが、その後、母親は2度も再婚して失敗、大学院を出て大学教師になるけれど、子供たちが巣立ってしまうと自分の人生が終わってしまうような感じ、そういう母親としての性(さが)、女としての性(さが)みたいなのをアークエットがみごとに演じています。彼女の場合、大学の先生といっても研究職ではなく、あちらは教育専門の大学の先生というのがいて、彼らは給料も高くないし、終身雇用でもないのですね(日本の非常勤講師のようなひどい待遇ではないが)。だから、大学の先生になったとはいっても、研究している先生とは立場が違うのです。一方、父親の方はやがてミュージシャンに見切りをつけ、保険会社に勤めて再婚し、まっとうな父親になっていきます。
少年役のエラー・コルトレーンが、青年になるにつれて濃い顔になっていくのが幼い頃の顔と比べてギャップがあるのですが、これがまさにリアルな男の子の成長で、普通の映画では絶対に表現できないものでしょう。彼にとっての新たな始まりを示すラストの夕暮れのシーンがすばらしい。監督もスタッフもキャストも、12年間、お疲れ様でした。


そして水曜は「柘榴坂の仇討」。浅田次郎の短編の映画だそうで、桜田門外の変で敬愛する井伊直弼を救えず、生き残ってしまった主人公が、逃げた犯人の仇討を命じられ、13年間、仇討の相手を探し続ける、というもの。その間、時代は変わり、明治維新、廃藩置県、そして最後は仇討禁止令と、江戸時代が過去のものになっていく中で、武士の魂という過去の美学を失うことなく、新しい時代に入っていくべし、ということがテーマになっているのかな。この間に仇討の相手は1人だけになってしまい、最後にこの2人が対決する。
この明治維新の前後というのは、何が正しくて何が間違っているのか、誰が正しくて誰が悪いのか、当時生きていた人にはよくわからなかったのだろう。その辺が人物たちのやりとりで描かれていて面白かった。主人公が仇討にこだわるのは井伊直弼という主君への愛だった、というのも納得できる。一方、ただ1人、死ねずに生き残ってしまった方も、自分を慕う未亡人と幼い娘がそばにいながら、未来への幸福を拒否してストイックに生きている(阿部寛が適役ですな)。
主人公(中井貴一)の妻、主人公をいさめる警部の妻と、女性陣も重要な役回りになっている。また、ミサンガや金平糖といった西洋のものが、主人公たちが新しい時代を受け入れるシンボルとして登場するあたりもいい。


火曜日は映画が終わったら6時すぎで、日中よりは涼しくなっていたので、試写室のある半蔵門から北の丸公園を通って神保町まで歩いた。そしたら、歩道がマラソン大会みたいにランニングする人でいっぱいだった。10人くらいでかたまっている人たちもいた。反対側の歩道を歩いていたのでよかったが、こんなにたくさんの人が走っているのか、と驚いてしまった。私は走るのは苦手。