2016年4月28日木曜日

あまり言うことのない傑作

レディース・デーの昼間に「レヴェナント 蘇えりし者」を見た。
レディース・デーなのに観客はシニア男性が多い。それもそのはず、のっけから痛そうな殺し合いのシーンが続くのだ。でも、とにかく映像はすごい。
話の内容はわりと単純で、人物も深みがないが、映像と音楽で魅せてしまう。
2時間半以上もあるので飽きるかと思ったが、それはまったくなかった。ただ、シネコンの椅子の具合が悪かったので、そっちが苦痛だった。
うーん、しかし、この映画、傑作なんだけど、語りたくなるようなことがほとんどない。
言えるのは、

圧倒的な映像美!
血まみれ、土まみれ、びしょ濡れの満身創痍のディカプリオ演技。
自然の過酷さと美しさ。
坂本龍一の決して出しゃばらない荘厳な音楽。
白人と先住民、白人同士、先住民同士が殺し合う野蛮な世界。
それでも善と正義は残っている。
ディカプリオの脳裏に浮かぶ回想や幻想のシーンの魅力。ちょっとテレンス・マリックふうか? 壊れた教会のシーンがいい。
死んだ馬の体の中に入って寒さをしのぐシーンは「馬々と人間たち」の二番煎じなのでここはちょっとね。
息子の仇を取ろうと必死でサバイバルする主人公のメイン・ストーリーのほかに、白人にさらわれた娘を探す先住民のサブ・ストーリーがあるが、この2つが最後に交差するのは「アモーレス・ペロス」や「バベル」のイニャリトゥらしい。

と、これだけ書いて、あとは見に行ってください、としか言えないのだ。
こういうタイプの傑作は、昔はヨーロッパのマイナーな国が低予算で作り、ヨーロッパの映画祭でグランプリを取ったりして、日本では岩波ホールで公開、というのが定番だったと思うのだが、いまやハリウッドでお金をふんだんにかけて作れるのか、というのが率直な感想。
ハリウッドだったら、一番近いのはテレンス・マリック。
実際、何度もマリックの「シン・レッド・ライン」が頭をよぎった。
ただ、マリックの映画にしろ、マイナーなヨーロッパの芸術映画にしろ、語りたいことはたくさんあったのに、この映画は傑作なのは確かだが、語ることへの欲求が出てこないというのがどうにも引っかかる。意外に早く忘れてしまいそうなのだ。

それにしても、このところ、立て続けにドーナル・グリーソン出演の映画を見ているのだが(「SW/フォースの覚醒」、「ブルックリン」、「エクス・マキナ」、「レヴェナント」)、役によってずいぶん雰囲気の違う人だ。もっとも、それはトム・ハーディなどにも言えることだけど。