昨年11月から12月に見た映画で、おすすめながら書き損なっていた作品をご紹介。すべてネタバレあり。
まずは「Once ダブリンの街角で」の監督の新作「はじまりのうた」。夫に裏切られたイギリスの若い女性と、わけあって妻子と別居中のアメリカの中年男がニューヨークで音楽が縁でめぐりあい、音楽仲間とCDを作ることになり、そこに中年男の娘が加わって、音楽活動をするうちに若い女性も中年男も配偶者とよりを戻す、という、なんだかとってもあったかい気分になれる物語です。
最初は主人公の2人が過去を忘れて新しく生きる話なのかなと思っていたら、そうではなくて、こじれた2組の夫婦が元のさやにおさまる話だったのです。でも、これがいい。
例によって、音楽がすばらしい。そして、映画に参加している人たち、映画を作っている人たちが本当に音楽が好きなのだな、とわかるのがすてき。これ、かなりのおすすめです。
タイトルは「Once ダブリンの街角で」の方がしゃれていていい、「はじまりのうた」ではちょっとダサイ、と思うのは私だけでしょうか。タイトルにニューヨークを入れてほしかった。
続いてイギリスの「おみおくりの作法」。身寄りのない市民が亡くなったとき、葬儀をしたり家族を探して連絡をとったりするのが仕事のジョン。が、その仕事が廃止されることになり、最後の死者のために家族や友人を探して葬儀をすることになる。人とかかわらず、孤独で単調な人生を送ってきて、それに満足していた彼が、その最後の葬儀の準備の過程で知り合った女性との間にほのかな愛が芽生え、人生が変わると思った瞬間、事故死してしまう。ジョーの死を知らずに葬式をする人のかたわらで、誰にもみとられることなく埋葬されるジョー。でも、そのあとのラストシーンが泣けます(ここはネタバレなしね)。
シャーリー・マクレーンとクリストファー・プラマーが老人カップルを演じる「トレヴィの泉で二度目の恋を」。最近亡くなったアニタ・エクバーグがトレヴィの泉に入る「甘い生活」の有名なシーンを演じるのが夢のマクレーンが余命いくばくもないと知ったプラマーがひと肌脱ぐ、という話で、「甘い生活」のシーンと映画のシーンが交錯するクライマックスと、そのあとのラストが余韻を残す、よい話です。
このほか、中国のミステリー映画「薄氷の殺人」、戦争で受けた心の傷に悩むアメリカ先住民とフランス人精神分析医の交流を描く「ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して」、コナーとエリナーという一組のカップルの愛の行方をコナー側とエリナー側の両方から描く2本の映画「ラブストーリーズ コナーの涙」と「ラブストーリーズ エリナーの愛情」、難病で長く生きられない若い男女を描く「きっと、星のせいじゃない」(これも意外な結末あり)も面白かったです。
前にちょっと書いたチャン・イーモウ監督の「妻への家路」は、文化大革命で投獄されていた夫が、その後名誉回復して釈放され、妻のもとに戻るが、妻はそれまでの生活での苦労から夫の顔や姿の記憶を失っていて、夫を見ても帰ってきたと思わず、いつまでも夫の帰りを待つ、という、中国版「心の旅路」のような感じなのだけれど、(ネタバレしますが)「心の旅路」のように最後は思い出すのかと思ったら、最後まで思い出さず、夫も妻の友人になって、妻や娘と一緒に妻にとっての夫の帰りを待つというラストシーンが胸を打ちます。中国の人々にとって、失われたものがまだ回復されていない、ということを感じます。
あともう一つ、「フォックスキャッチャー」という映画。殺人事件にまで発展した富豪とオリンピックのメダリストであるレスリング選手兄弟の確執を描いた実話の映画化ですが、私はこれは買わないというか、たぶん、ほめる人も多いと思うけど、私は買わない、という映画です。監督が「カポーティ」のベネット・ミラーですが、私は「カポーティ」もあまり高く評価してません。なんというか、こういう題材をこういうふうに描けばすごそうに見える、みたいなところがどうも好きになれないのです。特にこの映画は「カポーティ」よりさらに思わせぶりな感じ。ということで、おすすめではないけれど注目作なので、追加しておきました。