カンヌ映画祭での数々の受賞歴に輝くベルギーのダルデンヌ兄弟監督の新作「サンドラの週末」。
うつ病でしばらく休職していたサンドラ(マリオン・コティヤール)が病気を克服し、いよいよ復職しようとしたとき、いきなり会社からクビを言い渡される。会社の経営状態が悪く、ソーラーパネルを作る工場で働く17人の従業員のうち、休職していたサンドラをクビにしてボーナスをもらうか、ボーナスをあきらめてサンドラを復職させるかの投票を従業員の間で行い、2人以外がボーナスを選んだので、サンドラはクビになることに決まってしまった。彼女には夫と2人の子供がいるが、夫の収入だけでは暮らせない。また、再就職もむずかしく、彼女は窮地に立たされる。
しかし、サンドラの復職を望む同僚のおかげで、社長が月曜に再投票することを許可してくれる。サンドラは夫に励まされながら、ボーナスをあきらめて自分に投票してくれるよう、同僚たちの家をまわって説得する。時間は土日の2日間しかない。
病気が治ったとはいえ、まだ薬が手放せず、すぐに泣きだしてしまいそうになるサンドラは、同僚の対応に一喜一憂する。親友だと思っていた女性の同僚は居留守を使い、逆に、きみから恩を受けたのにきみに投票しなかったと後悔の涙を流す男性の同僚。サンドラの説得が原因で、彼女の目の前で親子げんかや夫婦げんかをしてしまう人。そして、ボーナスがないと暮らしていけない貧しい人々。
同僚をまわるうちに、現場主任が同僚を脅していたことがわかってくる。サンドラの解雇に賛成しないと別の人を解雇するとか、病み上がりはいらないと言ったとかいう話が聞こえてくる。非正規雇用の同僚は解雇に賛成しないと雇い止めになるのではないかと心配している。
誰もが自分の生活で手いっぱいであり、サンドラより明らかに貧しい暮らしをしている人も少なくない。サンドラ自身、彼らの同情を得て復職していいのかと悩む。その一方で、病み上がりだからと言われ、自分は必要とされていないことを感じ、精神的に追い詰められる。しかし、彼女の夫と、そして応援してくれる同僚が彼女の心を強くしていく。
最初は2人だった解雇反対が、しだいに増え、7人、8人となっていく。しかし、過半数の9人がむずかしい。
同僚たちはみんな、サンドラかボーナスかの選択をしたくないのだ。サンドラが復職できてボーナスももらえたらいいと思っている。しかし、その選択をさせるのは社長である。サンドラは何度も、選択をさせているのは私ではない、と言う、これが重要だ。
この映画では社長は一見、よい人のように見える。一方、従業員を脅してサンドラを解雇させようとする主任は悪い人のように見える(この主任は最後の方で初めて姿を見せる)。しかし、この社長と主任はいわゆるいい警官と悪い警官のようなもので、グルなのではないか。主任の画策の背後に社長がいるのではないのか。
本来なら、この問題は社長が選択するべきことなのだ。ここを忘れてはいけない。1人解雇せざるを得ないので、休職していたサンドラに退職金を与えてやめてもらうといった選択を、社長がするべきなのである。しかし、社長は自らは選択をせず、従業員にサンドラかボーナスかの選択をさせる。社長は卑怯なのだ。しかも、主任を使って画策していたのなら、一番悪いのは社長だ。
それがはっきりわかるのがラストである。投票の結果がわかったあと、社長はサンドラにある提案をする。サンドラはそれをきっぱりと拒絶し、荷物を持って会社から去っていく。もしも彼女が社長の提案を受け入れたら、それは彼女の敗北であり、仲間への裏切りである。サンドラは最後に正しい選択をしたのだ。
正直、映画を見ている間中、この会社は長持ちしないな、他の従業員もそのうちクビになるな、という気がしてならなかった。次は我が身なのである。