2023年2月18日土曜日

「別れる決心」(ネタバレあり)

 パク・チャヌク監督の「別れる決心」を見に行く。



「お嬢さん」は近隣のシネコンではこのTOHO市川コルトンプラザでしかやっていなかったので、そこで見たのだけど、「別れる決心」もここで見ることに。今回はあちこちでやっているけれど、字幕と吹替両方のシネコンがけっこうあって、行く予定だった徒歩35分のUC松戸は吹替優先で字幕の時間帯が悪かったのだ。

ただ、「お嬢さん」に比べるとストーリーがわかりにくい(だから吹替を?)。内容も、幸薄そうな女性に同情した男性が、という昔ふうの話で、ただ、映像や表現がすばらしい。

カンヌで賞を取り、アカデミー賞国際映画賞ノミネート間違いなしと思われたのだが、落選。でも、映画を見ると、アメリカでは受けないだろうな、という気はした。

パク・チャヌクは「お嬢さん」が韓国代表になればノミネート間違いなしと言われたのだが、せりふの大部分が日本語なので、代表を見送られてしまった。なんだか不運な作家だなあ、というのは勝手な思い込みだろうけど。

内容は「お嬢さん」とかぶる部分がある。男に虐げられる女と、虐げるけしからん男たち。「お嬢さん」ではラスト、2人の女が勝ち、悪い男たちは報いを受けるというカタルシスのある結末だったが、今回はそうではなく、(以下ネタバレ)幸薄い女は最後に死を選ぶ。

ヒロインは中国から韓国に密入国した女で、中国では母親を安楽死させているが、祖父が抗日運動の英雄だったので強制送還されず、韓国で暮らしている。金持ちの男と結婚しているが、虐待されていて、男の所有物のような扱いをされている。その夫が死に、担当した刑事が彼女に惹かれてしまう。

「パラサイト」は予備知識がなくても面白い映画だったが、それでも、あの一家がもとは中流だったのにカステラの商売で失敗したとか、息子と娘が優秀なのに大学に合格できないのはなぜか、といったことの解説をネットで読んで、初めてわかった部分があった。

「別れる決心」も、ヒロインの置かれた環境や社会背景など、事情がわかるともっとよくわかるのではないかと思う。少なくとも、幸薄い女に男が同情して、というだけの話ではないとわかる気がする。

映像はとにかくすばらしい。特にクライマックスの海岸を俯瞰でとらえたショットは目を見張るほど美しい。他のシーンでも、驚くようなショットや、手前の人物の片方をくっきりさせ、もう片方をぼかし、その向こうの鏡の中は逆にするといった、リアルではない映像、実際にはいなかった刑事が現場にいるように見せる幻想シーンなどがたびたび登場する。この映画は刑事の視点で語られていて、ヒロインはあくまで彼の眼を通して語られるので、いろいろ想像することを要求される。映像は映画的だが、視点と語り口は小説的だ。

ミステリーとしての謎解きは、最後まで見ればわかる。が、ヒロインの心情、幸薄い女の心の内は想像するしかない。ラスト、(以下ネタバレ)満潮の中、彼女を探す男は、彼女の本当の心、体験を知ることができない私たちを表しているのかもしれない。