2023年6月10日土曜日

「テノール!」&「リトル・マーメイド」(ネタバレあり)

 「リトル・マーメイド」はどこでもやっているけど、「テノール!」とハシゴしたかったので、MOVIX柏の葉へ。


フランス映画「テノール!」は、パリの貧困層の住む地域のラッパーが、アルバイトで寿司の出前をオペラ座に持っていったのがきっかけでオペラ教師に才能を見出され、オペラ歌手をめざすようになるという物語。


わりとよくある成功物語なのだが、出だしのストリート・ファイトとか、貧しい人々の猥雑な世界と、オペラ座の上流社会が対比されている。

主人公の兄は学がなく、ストリート・ファイトで稼いでいるが、弟は頭がよく、会計士になるための学校へ行っていて、優秀なので教師から一目置かれている。が、オペラの才能を見出され、オペラに魅せられていくうちに、兄や幼馴染の女性や友人よりもオペラの勉強をする仲間の世界にひきつけられていき、2つの世界のジレンマに悩む、というのもよくある展開。

オペラをやっているというと、幼馴染からは嘘つきと言われ、オペラをやっていることがばれると仲間から邪険にされ、兄は怒りのあまり楽譜を窓から捨ててしまう。一方、寿司の出前に来た主人公をバカにしたオペラ座の青年が主人公にやさしくなるとか、わりと紋切り型。最後はみんなが応援に来てくれるというのもこれまたよくある展開なのだが、ストリート・ファイトやラップの世界、貧しい、おそらく移民の世界のリアルさは感じた。

また、オペラ座の内部を撮影した映像がすばらしく、まさに宮殿。こんなところでオペラの練習とはぜいたくな。

というわけで、物語は月並みだけど、オペラ座の内部が見られるだけでも見る価値はあった。

続いて「リトル・マーメイド」。


アニメの「リトル・マーメイド」はディズニーアニメの中では最も好きで、日本では劇場公開がなかなかされなかったので、輸入ビデオを買って見たのが最初。そのビデオを買ったあともなかなか公開されず、ビデオを何度も見てから、ようやくワーナーの試写室で試写を見ることができた。当時はディズニーは日本ではワーナーが配給していたのだが、「リトル・マーメイド」の日本公開は本国より2年も遅かった。

そんなわけで、実写版はあまり期待していなかったが、アニメと同じ話なのに退屈で、途中、眠くなってしまった。

アニメは90分弱なのに実写は140分くらいあって、50分も長い。アニメはコンパクトにまとまっていて一気に見られるのに、実写はだらだら長くて困る。おまけに画面が暗い。IMAXかドルビーシネマで見ないとだめなのか。でも、映像はあまり魅力を感じない。

アリエルを黒人が演じているのでバッシングされているが、配役の人種は別に気にならない。アリエルのハリー・ベイリーはけっこうかわいい。父親役のハビエル・バルデムほか、役者には特に不満はないが、とにかくだらだら長くで演出が下手。

クライマックスの魔女との戦いは、アニメはもっぱら王子が1人で戦っていたが、ディズニーはその後、男女で協力して戦う、ヒロインが戦う、といったジェンダー平等になっていったので、ここは変わるだろうと思ったら、男女がともに戦い、とどめはアリエルが刺すという形だった。そのあと、アリエルが父に、「王子も一緒に戦ってくれた」と言い、人魚と人間は仲間なのだということを示す。一方、王子も、人魚は人間の敵だと思っていた養母の女王から、自分は間違っていた、と言われる。そしてラストは人魚と人間の両方が航海に出るアリエルと王子を見送るという構図。

あれ、これ、既視感あるな、と思ったら、これ、アヌシー最高賞をとった日本のアニメ「夜明け告げるルーのうた」じゃないか。

「ルーのうた」は人魚は人間の敵だと思う人間たちが、実はそうではなかったと気づく話で、この異種の人々が共存するというテーマが最高賞の理由でもあった。

アニメの「リトル・マーメイド」にはこういうのはなかったはずで、またしてもディズニー、日本アニメをパクりやがって。

というわけで、ディズニーアニメの実写化としてはいろいろひどすぎる。ひどすぎるんだけど、それは配役の人種のせいではない、そことは違うところなのに、人種でバッシングする声が大きいためにまともな批判ができづらくなっているような気がする。

「美女と野獣」や「アラジン」の実写化が成功したのは、もともとこの2作は最初から実写でもおかしくない、人間の世界の話だからだけど、「リトル・マーメイド」や「ライオン・キング」のような人間の世界でない話はアニメじゃないとだめなんではないかと思う。それでも「ライオン・キング」は退屈ってことはなかったけど、「リトル・マーメイド」はほんと退屈で、特にアニメであれほど魅力的だったセバスチャンがただのカニだよ。がっかり。