評判がいいので見に行った「ファルコン・レイク」。
カナダの、おそらくフランス語圏のケベック出身で(推測です)、フランスでまず女優として活躍し、この映画で長編初監督となったシャルロット・ル・ボンの作品。カナダのケベック州の湖のほとりを舞台に、フランスからバカンスに来た家族の長男と、地元の少女の淡い恋が描かれる。
原作はフランスのコミックで、日本のタイトルは「年上のひと」。これ、最初の部分が読めるのだけど、映画とは主人公たちの名前が違うし、舞台はどうもフランスの海辺のよう。最初にどちらの母親も流産の経験があるという話が出てくるが、これは映画には出てこない。
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バカンスとはいっても、主人公たちが住むのは少女と母親の狭い家で、少年と幼い弟と少女は狭い部屋で同居。少年は13歳でもうすぐ14歳、少女は16歳で、2年ほど前に会ったときはまだお互い子どもだったが、今は思春期で、性への関心が高い。この年齢の少年少女を同居ってどうよ、と思う。そのほか、原作どおりのようだが、少女はタバコを吸い、お酒を飲み、少年も同じことをするようになる。
ケベック州はフランス語圏とはいえ、カナダだから英語が話せる。少女と友達の青年たちが英語で話している(青年たちは英語圏の人かもしれない)。青年たちの中には元カレがいて、少年は嫉妬するが、少女は彼が自分とやったと嘘をばらまいているので軽蔑している。彼女はまだ未経験の奥手で、彼も奥手。そんな2人がセックスまでは行かない淡い性と恋を体験していくのだが、少年が彼女とやったかと聞かれて、やったと嘘をついてしまい、そこから悲劇へと向かう。
監督のオリジナルの話ではなく、原作があるので、原作を読まないとなんとも言えない部分があるし、見ていてなんとなくもやもやしたまま終わってしまったので、ネットで他の人の意見感想をのぞいてみた。が、これまではわりと役に立っていたネタバレ解説がことごとくダメ。そして、ようやく役に立つと思えたのがこれだった。
ネットの記事は字数制限がないので、あまりきちんと考えずにだらだらと長く書いてしまっているのが多くて、これもその欠点を免れていない。でも、プロの音楽評論家らしい、音楽と関係づけて論じている部分は音楽に疎い私にはためになった。
そして、それ以外の部分で、私がもやもやと考えていたことをはっきりした言葉に変えてくれていた。
冒頭から死のイメージがある、というのは、最初のシーンで少女が湖で死体のように浮いている場面、少女も少年も幽霊のコスプレをすること、子鹿の死体などで気づいていた。「シックス・センス」は私も連想した。
上の論考で特に秀逸なのは、インターネットとの関係を述べている部分で、少女は母親からスマホを禁じられ、少年はスマホは14歳になってからと言われているので、少年と少女はネットのない世界で生きる。しかし、周囲の人々はスマホを持っているので、少年の嘘はスマホで知れ渡ってしまう、という部分。
映画の中で、青年たちが、湖の幽霊は少女の嘘だ、なぜならインターネットを検索しても出てこないから、と言うと、少女がネットがすべてではないと反論する場面がある。ネットがすべての世界とそうでない世界の分断。
以下、ネタバレになるが、ラスト、自分の家族が湖を訪問する場面を見ていた幽霊になった少年がそのあと、湖のほとりにいる少女のところへ行く。後ろ姿の少女に呼びかける。髪の毛しか見えない彼女の顔がちらりと見える。
泳げない少年が、湖を泳いで対岸へ行った少女と青年たちを追って湖を泳ぎ始め、それで溺死してしまったことを示すシーンだ。上の記事も、他の記事も、少年は幽霊で少女は人間と解釈しているようだが、私は少女も幽霊なのではないかと思った。(原作冒頭の流産の話とつながるのでは?)
少女がスマホを禁止され、スマホを持たない少年とネットとは無縁の世界で生きるようになったとき、少女も少年もネットのある現実世界から見たら幽霊のような存在になったのではないか。そして「シックス・センス」のように、少年と少女は自分たちが幽霊であることを知らずに、現実を眺めながら、自分たちの世界を生きていたのだろう。ラストは少なくとも、その暗喩ではないかと思う。
「マイ・エレメント」に続き、日本橋で見た。終わったあと、また近くの神社へ。
風鈴がたくさん。
このあたりは座れる場所が多く、周囲にはやなか珈琲店などがある。ミストがある場所もあった。
またコレド室町テラスをのぞいて帰る。ここも座れる場所が多い。郊外だとショッピングセンターには座れる場所がたくさんあるけれど、都心はまるでなかったが、このあたりはそういう場所ができている。