リチャード・リンクレイター監督が作詞家ロレンツ・ハートを描く「ブルームーン」は見る予定だったのだけど、上映館があまりに少なく、もう始まっていると気づいたときは3週目に入っていた。3週目ともなると、どの劇場も朝とレイトに近い時間しかやってない。一番近いキネマ旬報シアターへ行くか、と思っていたのだが、最近、パナソニックのデジカメのバッテリーの消耗が速く、300枚ほど撮ったところで切れてしまう。これから花見のシーズンだから写真はたくさん撮りに行くので、かわりのバッテリーを買わなければ、と思って調べたら、純正品は5000円以上するけれど、純正品とまったく同じ別のバッテリーが2000円台で買えることがわかった。
実は作っているところはどちらもパナソニックの中国の子会社で、安い方はシグマという会社の製品に使うようだけど、同じものだというので、これを買うことにした。
で、ヨドバシなら在庫が店舗にあるので、すぐに買える。これを上野の店舗で買って、その足で日比谷のシャンテシネで「ブルームーン」を見ればいい。ちなみに、キネマ旬報シアターのある柏のビックカメラでも買えるのだが、こちらはお取り寄せなのですぐには手に入らない。しかも、TOHOシネマズは会員制度が変更になり、ポイントが新制度に移行されたのだが、そのポイント移行の結果、まだ5回しか見てないのに次の回は無料回になることがわかった。
つまり、シャンテシネで見れば、「ブルームーン」は無料。
しかし、ヨドバシとシャンテシネしか行かないのはもったいないと思い、急遽、六義園の枝垂れ桜を見に行くことにした。で、そっちの話はあとでまた写真をアップするけれど、午後3時半から六義園を散策、そのあと上野まで歩いてバッテリーを買い、日比谷へ行ったので、映画館に着いたときはかなり疲れていた。
シャンテシネの入口の看板と、通りの向かい側のミッドタウン日比谷の階段広場に飾られた「ウィキッド」のためのオブジェ。デジカメのバッテリーはすでに切れていて、携帯で撮ったのでボケボケ。
以下、ネタバレ大有りですが、おそらく支障はないと思うので、そのまま書きます。
ロレンツ・ハートを演じるイーサン・ホークがアカデミー賞にノミネートされた「ブルームーン」。ホークの演技は確かにすごいのだけど、ホークがいろいろな人を相手にしゃべりまくる独演会のような映画なので、個人的にはちょっとしんどい。その上、バックでピアノ弾きがあの時代のスタンダードナンバーを次々と演奏していて、私にとってはなつかしい曲ばかり。ホークの独演会はちょっとしんどいけど、このピアノは心地よいなあ、と思っていたら、睡魔に襲われた。
それでもがんばって目を開けて見てましたが、確かにリンクレイターのアート系の才能がほとばしる力作だとは思いますが、ホークの演じるハートが痛いおじさんで、あまり共感できず、やっぱりしんどい映画だった(音楽は心地よいのだが)。
1943年、ハートが路上で倒れて亡くなる7か月前、長年ハートとコンビを組んだ作曲家リチャード・ロジャースが新たにコンビを組んだ作詞家オスカー・ハマースタイン二世とのミュージカル「オクラホマ!」の初演の夜、劇場を途中で退席したハートが演劇人が集まるサーディーズに行き、そこでバーテンダーやピアノ弾き、あとからやってきたロジャースやハマースタインなどと会い、という具合に映画は進行していく。
映画は最初から「カサブランカ」を意識していて(「カサブランカが封切られた直後の時代)、セリフにも「カサブランカ」という言葉が何度も出てくるのだが、なぜか日本語字幕にはこの映画の題名が出てこない。
ハートはバーテンダーと「カサブランカ」の名セリフについて話したりしているし、ピアノ弾きがいるのも「カサブランカ」に似ているし、ハートがあの映画のハンフリー・ボガート、バーテンダーがクロード・レインズなのは明らかで、これは最後に伏線回収される。
途中、作家E・B・ホワイトが出てきて、ハートが「スチュアート・リトル」のヒントを与えたかのように描かれているが、実際はホワイトはもっと前にこの話を思いついていたそうで、これはフィクション。また、若き日のジョージ・ロイ・ヒルや子ども時代のスティーヴン・ソンドハイムも出てくるけれど、これも創作のようだ。
酒とうつ症状のせいで仕事ができなくなり、落ちぶれているハートは、ハマースタインと組んで成功したロジャースに対して嫉妬を禁じ得ないが、花を届けに来た花屋の若い店員がハートのことを全然知らなかったり、この時代では新しいタイプの歌手だったフランク・シナトラの人気の話が出てきたりと、ハートが過去の人になってしまったことがわかる。年下の相方ロジャースを失い、花屋の若いイケメンの店員が気に入って声をかけても空回り(ハートはゲイでもあったようだ)。
そして極めつけが、プラトニックな思いを寄せる女子大生エリザベスにふられる最後のエピソード。
ラスト、ハートとバーテンダーは「カサブランカ」のラスト、ボガートとレインズの「これが新しい友情の始まりだな」という名セリフのシーンを再現して、映画は終わる。
(以下、今度は「カサブランカ」のネタバレになります。)
ホークのハートがあまりに痛いおじさんなので、ボガートみたいにかっこよくないのだが、「カサブランカ」ではボガート演じる主人公はイングリッド・バーグマン演じる謎の女性と恋に落ちる。が、あるとき、突然、彼女から別れの手紙が来て、彼女とは会えなくなる。
それから数年がたち、カサブランカで2人は再会する。実はバーグマンは夫がレジスタンスの闘士で、夫が刑務所か何かに入っていたときに寂しさからボガートと恋に落ちたが、夫が釈放されたので夫の元に帰ったのだった。バーグマンと夫はアメリカに亡命するためにここに来たのだということもわかる。
バーグマンに振られて傷ついているボガートは彼女を恨む。また、彼女の方もボガートと再会して心が揺らぐ。が、ボガートは、彼女は夫とアメリカへ行くべきだと考え、彼女を送り出す。それを見送るボガートとレインズのラストが、あの、「新しい友情の始まり」。
「ブルームーン」のハートも、エリザベスをあきらめ、ロジャースもあきらめ、すべてを受け入れる境地になった、というのがあのラストなのだろう。