2024年10月12日土曜日

「2度目のはなればなれ」&「グロリア」

 マイケル・ケインの引退作にしてグレンダ・ジャクソンの遺作「2度目のはなればなれ」と、今年亡くなったジーナ・ローランズの旧作「グロリア」をハシゴ。


見どころのある小品だけど、「2度目のはなればなれ」という邦題はなんとかならんのか。原題は「The Great Escaper」で、「大脱走」の原題をもじったタイトル。「大脱走者」という意味で、これそのままでは邦題にならないのはわかるが、今の邦題も意味がわかりにくいし、映画を見てもピンと来ない。

ノルマンディー作戦70周年に、作戦に参加した元イギリス兵で、今は妻と老人ホームで暮らす老人が、なんとかこの式典に参加しようとホームを抜け出し、フェリーに乗ってフランスまで出かけた、という実話をもとにしている。この老人ホームを抜け出して、というのが大脱走者ということで、実際にマスコミにこの名で報道された。

邦題の方は、この老人と妻がそれぞれ若い頃を回想し、一度は戦争ではなればなれになり、今度が2度目ってことなんだが、老人と妻の過去のエピソードが少ないので、この邦題ではピンと来ない。

映画の主眼はむしろ、主人公の老人、フェリーで知り合う元イギリス兵、帰還兵であるフェリーの黒人クルー、といった人々が戦争による心の傷を抱えていることで、主人公の式典参加も戦死した戦友を思っての旅だった。

ノルマンディー作戦は連合軍がナチスドイツに勝利する戦いの始まりだったから、連合軍側からすれば勝利を讃えるできごとだけど、この映画ではどんな正しい目的であれ、戦争は人々を不幸にする、ということを伝えている。ドイツのお菓子を嫌っていた主人公が元ドイツ兵たちに出会い、親交を深めるシーンにもそれが現れている。フェリーで知り合った元空軍の老人も、弟がドイツの民間人と一緒に爆撃で殺されてしまったことで心を痛めている。

実話に基づく、という注釈がないので、老人が一人で海を渡り、式典に参加した、ということ以外はフィクションなのだろう。ケインとジャクソンはさすがの演技と存在感。ジャクソンは昨年亡くなったが、ケインももう91歳なのだね。

字幕が久々、戸田氏だったが、「三銃士」の有名なせりふを大誤訳していて、相変わらずであった。

見たのは流山おおたかの森で、ここから柏駅までは東武線で2駅なので、柏に移動して「グロリア」を見る。




ジョン・カサヴェテスの映画は「こわれゆく女」などは日本初公開時に見ているのだけど、この映画はずっと見逃していた。シャロン・ストーンのリメイクは見たけど、面白くなかった。

カサヴェテスとしては自分が作りたいタイプの映画ではなく、エンタメに振り切った商業映画なんだと思うが、キレキレの演出のうまさと当時の治安の悪いニューヨークの空気感は抜群にいい。まだツインタワーが建っていて、地下鉄が汚かった時代。

別の女優が主演する予定だったけれど断られてしまい、かわりに妻のジーナ・ローランズが主演したということだけど、ローランズ以外の誰がこの役をできるだろうと思うくらいのはまり役。当時のスター女優を思い浮かべてもこれほどの存在感の女優は考えつかない。

脚本はけっこう粗があるし、ご都合主義もあるけれど、とにかく寸分の隙のない完璧な演出で、シーンとかショットとかいちいち感心してしまった。気になったのは、猫はどうなったか、ということくらい。

今年は見たい映画があまりなくて、映画代が浮いた分、競馬場へ行っていたが、先月あたりから映画に行く回数がまた増えてきたので(旧作がほとんどだけど)、競馬場は卒業しちゃうかもしれない。先月の当たり馬券の払い戻しがあるからあと1回は行くと思うけど。