ジュディ・デンチ主演「あなたを抱きしめる日まで」を見てきました。
1950年代のアイルランド。未婚で子供を生んだ少女が修道院に預けられ、過酷な労働を強いられ、子供は3歳で養子に出され、それから半世紀、老婦人となった彼女が生き別れた息子を探すという実話の映画化。監督はスティーヴン・フリアーズ。
すごく面白かったです。
いや、面白かったなどと言ってはいけないような悲惨な話なんですが、とにかくジュディ・デンチがすばらしい。
前にも「スカイフォール」でデンチを取り上げましたが、こんな高齢になっても次々と映画で主演できる女優はめったにいない。彼女は若い頃は舞台中心で、映画で活躍するようになったのは80年代くらいからだと思いますが、年をとってますますスターになっていくという稀有な存在です。
彼女と同世代のマギー・スミスや、もう少し若いヘレン・ミレンも活躍していますが、デンチの存在感は格別です。なんというか、演技の幅が広い。悲劇も喜劇もできる。貴族の奥方から庶民のオバチャンまでできる。そして、なんといっても、明るい。
「あなたを抱きしめる日まで」は、デンチのコメディエンヌとしての才能が全開です。少女時代にわが子を奪われたという悲惨な体験をし、老いてから息子を探すもなかなか見つからず、ようやく見つかったと思ったら、と、悲劇的な展開なのに、映画はユーモアを失わず、涙のあとに笑いが来るといった展開。フリアーズの演出もいいのですが、やはりデンチの明るさ、コメディの才能が光ります。
老婦人の息子探しを手伝うジャーナリストのスティーヴ・クーガンとのコンビがまた絶妙で、クーガンは脚本と製作も兼ねていますが、デンチとのボケとツッコミが実にみごと。デンチはクーガンのことを「QUEEN VICTORIA 至上の恋」で共演したビリー・コノリーと比較しているけれど、まさにあのコンビに近い感じです。老いたヴィクトリア女王を演じた「至上の恋」はデンチの魅力全開の最初の作品と言っていいでしょう。
映画は性を抑圧したかつてのアイルランドのカトリック教会への批判を含んでいますが、デンチの演じる老婦人は人を恨むことなく、教会に対しても寛容。彼女が行けばかたくなな人々も心を開く、というのがわかる描写になっています。
探し当てた息子が果たしてどうなっていたのか。この辺は映画を見て確かめてください。
この日は「ドライヴ」の監督・主演による「オンリー・ゴッド」も見たのですが、「ドライヴ」がすっきりよくまとまった作品だったのに対し、こっちは思わせぶりな映像ばかりで、話の方はどうもすっきりしません。「ドライヴ」も映像が斬新で面白いけど、話は別に新しくないと思いましたが、こっちは話はもしかして新しいのかもしれないし、赤や黄色やゴールドの光の使い方とか映像も面白いし、赤い迷宮みたいなところはデイヴィッド・リンチかという感じでしたが、全体としてはなんだかなあな仕上がりです。「ドライヴ」の面白さは全然ない。「ドライヴ」の太陽に照らされただだっ広いアメリカの光景とは正反対の世界、タイが舞台で、タイトルやキャスト、スタッフもタイ語表記で出るという凝った趣向ですが、うーん、新手の「キル・ビル」だろか、てな感じ。ホドロフスキーに捧ぐと最後に出るけど、リンチやホドロフスキーになるにはまだまだ修業が足りないな、この監督、でした。