2013年2月27日水曜日

熱気球の事故

エジプトのルクソールで熱気球の事故があり、日本人を含む観光客が20人近く犠牲になったといういたましいニュースがありました。
しかし、熱気球に20人もの観光客が乗るというのには正直、驚きました。せいぜい数人しか乗れないものだと思っていたのです。また、こんなに観光に使われているとも知りませんでした。
熱気球といえば、「80日間世界一周」のような古典もあれば、「オズの魔法使い」のオズがこれに乗って魔法の国に行ったという「オズの魔法使い」の前日譚映画「オズ」もありますが、私は熱気球には乗りたくない、と、前から思っていました。
その理由は、イアン・マキューアンの小説「愛の続き」とその映画化「Jの悲劇」のせいです。
「愛の続き」は、私はマキューアンの最高傑作だと思っていて、その後の「アムステルダム」や「贖罪」(映画化「つぐない」)よりもよいと思っています。
物語は、子供が一人だけ乗った熱気球がロープがほどけて飛び上がっていってしまい、主人公をはじめ、そばにいた大人の男たちがみんなでロープをつかんで引きおろそうとする、というところから始まります。しかし、熱気球はどんどん上昇し、ロープをつかんでいた人々も一人また一人と手を離してしまいます。ついに一人だけがロープをつかんだまま空高く上がってしまい、やがてその男は力尽きて手を離し、墜落死してしまうのです。
その墜落死した男の死体を主人公が発見するところがなんとも不気味で、映画より小説の方が怖かったです。
さて、本題はそのあと。事故のあと、ふだんの生活に戻った主人公のもとに、あのとき、一緒にロープをつかんでいた者だと名乗る男が現れます。彼は主人公に異様な愛を抱いていて、そこからストーカーが始まる、という話。設定はサスペンスものですが、小説はあくまで文学なので、サスペンスよりは人間心理やストーリーのひねりが非常に面白く、読み応えがあります。翻訳は単行本で出たあと、映画に合わせて文庫化されたのですが、もう絶版なんですね(新潮文庫はとにかく絶版が早い)。

で、映画の方は、DVDはレンタル店にあると思いますがセルの方は日本版は品切れで、アマゾンにはイギリス版が出ていました。下はイギリス版DVD。

見てのとおり、どちらも原題はEnduring Love。しつこく続く愛、という感じの意味なのですが、小説は「愛の続き」(意味が違ってるが)、映画は主人公の名前ジョーの頭文字をとって「Jの悲劇」となっています(エラリー・クイーンのミステリーのタイトルにあやかったのか?)。(追記 ストーカーの方もJが頭文字の名前でした。)
で、主演が、主人公がダニエル・クレイグ、ストーカーがリス・エヴァンス。映画を見た当時は、私はクレイグの方がストーカーでも面白かったのに、エヴァンスじゃ、もろストーカーすぎる、と思いましたが、当時のクレイグは悪役や変わった役が多かったので、ヒーローよりもそっちの方がいい、というか、そっちのクレイグが好きだったのです(実は、007になったあとのクレイグはあまり好きではないです)。
映画は原作と違って、「危険な情事」系のストーカー・サスペンスになっていて、原作ファンとしてはがっかりするところもありましたが、娯楽映画としてはそれなりによくできているし、クレイグ、エヴァンス、サマンサ・モートンといった演技陣もいいです。