制作費300万円で興収10億円に迫ろうかという話題作「カメラを止めるな!」が金曜日からようやく行きつけのシネコンで始まったので、遅ればせながら見てきた。
極力内容を知らないようにしていたのだけれど、ここに来て盗作というかパクリ疑惑が浮上し、それで、ネタバレに相当する最初の30分余りとその後の二重構造があることはわかってしまった。
でも、それがわかっても十分面白い。
それよりなにより残念なのはパクリ疑惑で、監督は当初から「Ghost in the Box」という舞台劇からヒントを得たこと、一時、その劇の映画化の話を進めていたが、とん挫し、細かい部分を変えて「カメラ」を作ったことは明かしていた。そして、劇の作者も自分の劇がこんな面白い映画になったと喜び、互いにエールを送り合っていたようだ。
ところが、劇の作者がクレジットに劇のことを原作として入れてほしいと言いだしてからおかしくなったようで、一応、クレジットには原案として「Ghost」の名や劇団名などが出ているが、どうも監督よりも上の人たちが映画をオリジナルで売りたいのか、原作と認めないとか、金は払うから劇の上演は永遠にするなとか言いだした、というような話をネットで読んだ。劇の作者は怒って、訴訟も辞さないと言いだしているらしい。
しかし、この劇は実はDVD化されているほど評判がよく、見た人もかなりいるらしい。DVDがあるから映画との比較も可能なわけで、今後どうなるかわからないが、肝心の二重構造の部分が劇からとられているので、その金づるの部分を自分たちだけのものにしたいみたいな、若者たちが安いギャラで一生懸命作った映画なのに大人が欲をかいているような気がしてならないのだが、はたして?
さて、映画だけれど、最初の30分余りは安っぽいゾンビドラマ。手ブレするカメラ、画質の悪い映像と、いかにも超低予算映画。ゾンビ映画を作っていると、本物のゾンビが現れ、スタッフやキャストが次々と襲われてゾンビ化していくのだが、そこで浮かんだ疑問。
1 カメラは誰が持っているの?
2 監督はなぜ襲われないの?
監督はカメラを持っているけれど、実際に映しているのは別のカメラなのは明らかで、途中でカメラに血糊がつくと、それを拭うのが見える。その後、突然カメラは地面に置かれ、しばらく動かないが、また誰かがカメラを持って逃げる人物のあとを追い始める。ゾンビに追われる人物を後ろから撮りながら、時々、振り向いて追いかけるゾンビを撮る。カメラを持つ人が自己顕示しているような映像。これはカメラが地面に置かれる前とは違う。
そして、外に出たがる男は、たぶんトイレに行きたいのだろうと思ったら、本当にそうだった。
私は二重構造があるというおおまかなことしか知らなかったのだが、それでもこれは変だよね、というところがその時点でけっこうわかったのである。後半、これがどう説明されるのか、と思ったが、後半に入ると突然、映像の質が上がる。300万円の超低予算映画っぽくなくなる。カメラも落ち着いている。
この映画は三部構成で、最初が安っぽいゾンビドラマ、次がそのゾンビドラマを生中継ワンカットで作ろうという企画が持ち上がり、スタッフキャストが集められて、という内容、そして最後が実際の撮影風景で、次から次へと予想外のことが起き、この部分がもう大爆笑。近頃こんなに笑った映画はなかった。
確かに二重構造はこの映画の肝ではあるけれど、そして、それが原案の劇から頂いたものだとしても、この映画の面白さは二重構造をもとに作り上げられた部分にある。
たとえば、上にあげた、カメラは誰が持っているのか、みたいな部分は演劇では絶対にできないし、そうした映画らしさがふんだんにある映画で、監督のセンスや才能を感じさせる。
また、この映画は近頃あまり見なくなったスラップスティック・コメディなのだが、スラップスティックの笑いが炸裂している。このスラップスティックの演出もみごとで、もとの舞台もそういう面があったのかもしれないが、映画ならではのスラップスティックになっていると思う。
そして、後半は、実は、映画に魅せられた父と母と娘の家族の物語になっている。「万引き家族」がヒットしたように、この映画にも「家族」という受ける要素が上手に取り入れられている。ラスト、父と娘の絆を見せる写真の使い方も、演劇では絶対にできない。
そんなわけで、二重構造が演劇からの借り物だとしても、映画として十分に優れているのだから、元の舞台の作者にはきちんと仁義をつくした上で、映画の独自性を誇ればよいのではないかと思う。
また、安いギャラで参加しただろうスタッフ、キャストにも儲けを分けてあげてほしいと思うが、この映画はキャストが無名の俳優ばかりなのがとても新鮮だ。顔を知られたスターたちではこうはいかない。主役クラスの俳優たちはみな演技もうまく、無名でも実力のある役者はたくさんいるのだということを思い知る。特に監督と女優の夫婦を演じた2人は風貌といい演技といい、実にいい味を出している。この映画がきっかけでブレイクするのが監督だけであってほしくないし、舞台の「Ghost」の方も見たくなる。