2018年9月2日日曜日

「ボルグ/マッケンロー」&「タリーと私の秘密の時間」

テニスに疎い私でも知っているボルグとマッケンロー。この2人の伝説の試合が映画化されたと知り、公開を待ちわびていたので、早速行きつけのシネコンで予約。せっかく行くのだからついでに何か見られる映画はないかな、とスケジュールを見たら、同じスクリーンで「タリーと私の秘密の時間」がある。これは2本立てにできる、とこちらも予約。
このスクリーンは50席余りしかないところで、しかもファーストデイだからどちらも満席。他の回も満席だった。このシネコンは先週、「カメラを止めるな!」を見たところで、「カメラ」のスクリーンは今週は100席くらいのところだったけれど、こちらも全回満席のようだった。

「タリー」を先に見たのだけれど、この映画、シャーリーズ・セロンが「モンスター」以上に体重増やして、という話題を聞いたときは見る気がしなかったのだけど、その後、夜間の子守り、タリーの正体は、というあたりで興味を持った。が、正体はさほど意外性がなく、ちょっとがっかり。
家事と育児に疲れ果てた主婦をセロンが演じていて、夜間の子守りが来てくれて、授乳のときだけ起きればいいとどんなに楽かが描かれているけれど、夜泣きにつきあわなくていいだけで赤ん坊の親はどんなに助かるだろうと思う。おまけにタリーは子守り以外のこともしてくれる。
で、タリーの正体がわかったところで、この映画に描かれたことは現実ではなく、現実は別にあるとわかるのだが、最後は夫も家事育児を手伝い、ハッピーエンド。うーん、ちょっと甘いかな。

本命の「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」はスウェーデン映画なので、ボルグの方がメイン。スウェーデン語のシーンも多い。興味深いのは、冷静沈着でクールな貴公子ボルグが、実は少年時代はマッケンローのようなすぐにキレて悪態をつく悪童だったこと。テニスは紳士のスポーツなのに、とか、出身の階級のことまで言われ(このあたり、いかにもヨーロッパ)、嫌われ者だったボルグだが、そういうところが彼の勝利を阻んでいると見たコーチの助言により、怒りを抑えて冷静になることを学んだボルグは10代で頭角を現し、そしてウィンブルドン4連覇。5連覇に挑戦する彼の前に現れたのが、アメリカの悪童マッケンローだった。
マッケンローは審判の判定に怒って悪態をつくことで有名で、こちらも紳士のスポーツにふさわしくないと言われていたが、さすがアメリカ、悪童でものし上がってこれたのであるが、映画ではマッケンローの少年時代も、ボルグほどではないが、描かれていて、そこでは彼は学校の勉強ができる優等生なのだ。両親も学業に期待している。マッケンローの父は著名な弁護士だそうで、ボルグと違って裕福なインテリの家の生まれなのだろう。マッケンローが悪態をついたり反抗的だったりするのは、そうしたインテリの家への反発なのかもしれない。
表向きにはクールな男と悪童という対照的な2人だが、映画は彼らが正反対なのではなく、互いに共通点を持った複雑な、そしてとても人間的な人間なのだということを描いていく。
マッケンローたちがボルグの試合を見るシーンで、「ボルグは氷山だと思われているが、本当は火山だ」という言葉が出てくる。逆にボルグがマッケンローの試合を見るシーンで、ボルグは、イライラカッカしているマッケンローが実は試合に集中していることを見抜く。ボルグもマッケンローも表向きのイメージとは違う面を持つことを、お互いに理解しているのだ。
ボルグの方がメインの作りだが、マッケンローも非常によく描かれていて、敗れたアメリカ人の選手から「おまえはウィンブルドンでいずれは優勝するだろうが、偉大な選手にはなれない。おまえにあこがれる子供はいない」と言われ、涙を流すシーンは印象的だ。マッケンロー自身はボルグにあこがれたのであり、ボルグはクールになることを学んで成功し、あこがれの的になっているからだ。
映画では勝利を脅かされるボルグの心情が丹念に描かれているが、クライマックスの決勝戦ではシャイア・ラブーフ演じるマッケンローの魅力が炸裂する。挑戦者の魅力である。この試合のシーンが迫力満点で、見応え十分。審判の明らかなミスジャッジがあってもなぜか怒らないマッケンローは決勝戦では冷静さを保ち、ボルグも試合途中でマッケンローに励ましの言葉をかけたりする。クライマックスの試合は第4セットで、第3セットまではボルグが2対1でリードしていて余裕だからなのだが。とにかく、このクライマックスはスポーツ映画の醍醐味だ。
ラスト、空港で偶然出会った2人のシーンもいい。ボルグが引退後、2人は親友になったことが語られるが、水と油のように言われる2人の間の親和力を感じさせるシーンだ。
ボルグ役のスベリル・グドナソン、マッケンロー役のシャイア・ラブーフともにすばらしい演技をしているが、脇をかためるコーチ役のステラン・スカルスガルドが圧倒的な存在感。