アメリカ人女性として初めてボリショイ・バレエとソリスト契約を結んだジョイ・ウーマックの実話をもとにした映画「JOIKA」。
「美と狂気のバレリーナ」という副題がついていて、惹句が「一線を超える、禁断の舞。」とかなってますが、全然そういう映画ではない。「ブラック・スワン」みたいな映画のようにして売ろうとしているけれど、全然違います。「狂気」とかはまったくない。
映画は前半がボリショイのアカデミーに入学したジョイ(タリア・ライダー)がボリショイ・バレエ団に入るまで。ダイアン・クルーガー演じる先生が「常人には理解できない脅迫的なレッスン」をする、と試写状に書いてあるけど、全然そんなことはなくて、普通にきびしい先生。「セッション」みたいな鬼教師ではありません。
先生はジョイの才能を認めていて、ボリショイ・バレエに入団させようとするのだけど、アメリカ人だという理由で拒否されてしまう。そこでジョイはボーイフレンドの男性ダンサーと結婚してロシア人になり、入団に成功、というのが前半。ボーイフレンドなので一応、愛情はあるんだけど、やはりボリショイに入るために彼を利用した、みたいなのが後半、影響してくる。また、ジョイの両親もそういう結婚には反対なのだけど、ジョイはとにかくボリショイで成功したい、その一心で邁進していく。
後半はボリショイに入ったものの、芽が出ないジョイは、プリマになるにはスポンサーがいなければならないと言われ、金持ちの愛人になる話が来るが、断ってしまい、そこから転落が始まる。で、そのあとはまたアカデミー時代の先生が登場していろいろあるのだけど、この先生にもボリショイへのわだかまりがあることがわかってくる。
この先生がバレエをあきらめた過去の話とか、「愛と喝采の日々」がちらりと思い浮かぶ。「ブラック・スワン」の母親もそうだったか。
ジョイがあこがれたボリショイのプリマが本人役で出演していたり、まわりの人たちもわりと善人だったり、ほんとうに悪い人はいなかったりと、ジョイ・ウーマックが監修してるだけあって、バレエ界をあまり悪く描かないようにしている感じはある。ダンサー同士の嫉妬と妨害とか、パトロンの愛人にならないといけないとか、そういう暗部は描かれるが、まあ、暗部というほどのことでもない印象。
そんなわけで深みとか凄みとかはないけれど、そこそこ楽しめる映画だった。
追記 この映画は英語圏の作品だけど、せりふはロシア語が多かった。「アノーラ」もそうだが、最近の英語圏の映画は無理に英語にしてしまわず、言葉のリアルを追求するようになったと思う。日本語のせりふの多い「SHOGUN」が受け入れられたのと同じ背景だろう。