2025年10月7日火曜日

「ワン・バトル・アフター・アナザー」&「グランドツアー」の軽い感想

 PTAことポール・トーマス・アンダーソン監督の新作「ワン・バトル・アフター・アナザー」。


アメリカでは大ヒットしているようだけど、日本では全然期待されてないのが映画館の部屋割りでわかってしまう。実際、お客さん、すごく少なかった。

正直、前半は、大丈夫か、この映画、状態。今世紀初頭が舞台なのに1970年代の過激派そっくりな連中が革命の理想を掲げてテロやり放題。ブラックパワー、とか、これまた70年代の用語が出てきて、映像もどこか70年代チックで、これほんとに現代の話なのか、と何度も思った。

ウィキペディアにわかりやすいあらすじが出ているが、過激派のリーダーの黒人女性と仲間のディカプリオがいい仲になるが、リーダーは敵であるショーン・ペンともできちゃって、その後、ディカプリオと結婚して娘が生まれるが、これ、父親がペンの可能性あるよね、と思ったら、後半、それが鍵になる。

ディカプリオは妻とペンの関係は知らない。ペンはペンなりに彼女にぞっこんみたい。その後、リーダーは殺人を犯してしまって、刑務所に入る代わりにペンの側に寝返って裏切り者になり、その後いろいろあって、ディカプリオは娘を連れて逃亡。それから16年後、というところで現代。

前半は70年代的な要素が21世紀初頭となにか合わなくて、これ、どうなるの?と思ったけれど、16年後の現代になったらとてもすっきりした内容と映像になる。ここからはもう、がぜん面白くなる。映像もシャープで決まってるし、話もわかりやすいし、父と娘、母と娘の絆にほろっとさせられる。子どもが生まれたら普通の生活がしたくなり、その後は酒とドラッグで頭がもうろうとしている情けない男を演じるディカプリオのコミカルな演技もいい。脇役も魅力的。人種差別主義者の組織に入ったために保身のために黒人女性との過去を葬らないといけないペンの末路も。。。

映画のあとは、4時から290円のビールでまったり。映画化で話題の「ハムネット」を読み始めたのだけど、なんか世界に入り込めない。こういう小説が読めなくなってしまったのか、と愕然とした。


「ワン・アフター~」は徒歩35分のシネコンで見たのだけど、ここで10日から公開の「グランドツアー」を、一足早く試写で見せていただいた。


ポルトガルの巨匠、ミゲル・ゴメス監督作品で、カンヌ映画祭監督賞受賞、ということだけど、この監督の映画を見るのは初めて。

1918年、婚約者から逃れるためにアジアへ旅立ったイギリス人男性が、タイや日本や中国などをまわる。婚約者があとを追いかけてくるのだが、前半はこのイギリス人男性のアジア・グランドツアー。

グランドツアーといえば、19世紀にヨーロッパ人がヨーロッパ各地、特にイタリアを旅行したのをさすように記憶している。ヨーロッパでこういう大旅行が流行っていて、それが絵画の世界にも表れているというのを、数年前のロンドン展で見た。

19世紀のイタリアにかわる20世紀初頭のアジア、っていうのは、なんとなくわかるが、1918年といいながら日本のシーンでは驚安の殿堂ドンキホーテが出てくる。あと、中国はパンダ。日本が舞台だと日本語のナレーション、中国が舞台だと中国語のナレーション。でも、主人公たちはイギリス人なのに英語じゃない?

前半のイギリス人男性の旅は、正直、ありきたりなヨーロッパ人のアジア観で、なんだかあまり感心しなかったのだが、後半、追いかける婚約者の側のグランドツアーになると、前半とはまったく違った展開で、後半が前半の裏返しになっているのかな、と思ったら(以下ネタバレ)ラスト、凍死した婚約者の顔にライトが当たると、実は彼女は逃げるイギリス人男性である、という仕掛けがある。そして流れる英語版「ラ・メール」。

面白い構成ではあるのだけれど、いまいち、私には乗れなかった。