本日公開の2本、「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」はシネコンで、「ドリーミン・ワイルド」はその前に試写で見た。
ペドロ・アルモドバルの新作「ザ・ルーム~」は久々、亀有のシネコンで。恒例の大きな木のイルミネーションは、今年は節電のためか、電球がいくつか吊るしてあるだけ。
「ベルサイユのばら」劇場アニメ版も本日公開。たぶん見に来るのはリアタイのファンだろうな、と思っていたら、ショッピングセンター内でベルばらの文字の入った大きな封筒を持っているシニア女性を見た。
「ザ・ルーム~」はアメリカの映画サイトの評判があまりよくないので、アルモドバルも焼きがまわったのかな、と思ったが、予想以上に首をかしげる内容だった。
末期がんで安楽死をしようとする女性マーサ(ティルダ・スウィントン)が、一人では寂しいから死ぬまで同じ家に住んでほしいとかつての親友イングリッド(ジュリアン・ムーア)に頼み、イングリッドはそれを引き受ける、という話なのだけど、なんでスイスで安楽死しないのか、と思ったらもうだめだった。
マーサは相当に裕福な女性だから、スイスで安楽死するお金は十分にある。なのに、闇サイトで安楽死用の薬を手に入れ、イングリッドに安楽死するまでそばにいてほしいと頼む。マーサは親友数人にお願いして断られ、娘とは疎遠だし、こんなことは頼めないので、長い間離れていたかつての親友イングリッドに頼む。引き受けるイングリッドは要するに人がいいのだが(人のよさ全開のジュリアン・ムーアだからなあ)、マーサがいつ薬を飲むかはわからず、ずっと不安でいないといけない。下手すると自殺ほう助で逮捕される。なのに、マーサはイングリッドに対してああしろこうしろと言ったり、ああ、高齢者の介護って大変なんだな、でも、余命わずかだと怒れないしな、と思ってしまった。
この映画のストーリーは、スイスで安楽死が前提でも可能だったと思うのに、スイスで安楽死は最初から完全に排除されていて、可能性としても出てこない。スイスで安楽死すれば合法だし、つきそいもいるはず。なのに、闇サイトから薬を買い、親友を犯罪の危険にさらし、って、せめて、スイスで死にたくない、アメリカのあそこで死にたいから、くらいの理由が欲しかった。
そんなこんなで完全にシラケムードで見てしまったのだが、結末近くになってジョン・タトゥーロ演じる2人の元恋人が環境問題について変なこと口走るし、自殺は犯罪と信じている人物が登場するし、で、やっぱりこれ、なんかおかしいよね、と思ってしまったんだけど、どうも原作があるらしい。おかしいのは原作なのか? うーむ、わからん。
さて、この映画を見たシネコンの入っているショッピングセンターのフードコートに昨年暮れ、かつやが入ったのだ。
かつやといえば、値上げもあってしばらく行ってなくて、最近、東松戸と本八幡のかつやへ行ったら値上げしたのにひどいクオリティで、もうかつやはだめだ、と思っていた。
でも、新しくフードコートに入ったからちょっと食べてみようかと思い、かつ丼梅を頼んだら、おいしい! これこそ以前食べていたかつやのかつ丼。これなら値上げしていても食べたい。やっぱり都内は違うのか? いや、松屋は都内でもピンキリだったからこの手のチェーン店は店によって違うのだろう。
試写で見た「ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた」。副題がまさに内容にぴったり。
以下、ネタバレ注意。
10代の頃、「ドリーミン・ワイルド」というアルバムを出したワシントン州の農場の兄弟。しかし、アルバムはまったくヒットせず、それから30年後、兄は両親と農場を経営、弟は妻とバンド活動をしているが、やはり売れない。そんなとき、昔のアルバムを聞いた音楽プロデューサーがアルバムの再発売を持ち掛け、それが話題となってマスコミの取材も来て、コンサートもするようになる。兄と両親は昔のアルバムが認められたと単純に喜ぶが、30年間音楽活動をしてきた弟はその後の自分は何だったのかと不満に思い、ドラムの腕が鈍った兄に八つ当たり。家族に亀裂が生じるが、その一方で、弟の才能を信じた兄と両親がいかに自分たちを犠牲にして彼のために尽くしてくれたかを弟は思い出す、という内容。
実話の映画化だそうで、最後に兄弟と弟の妻のご本人が演奏するのを、両親ご本人が聞いている映像が流れ、映画をこの家族に捧ぐ、という文字が出る。
平凡な人々である兄や両親の感覚と、音楽に人生を捧げてきた才能ある弟の感覚の違いが、見ていて少しつらくなるくらいよくわかり、ここが自分的に刺さったところだった。息子の才能を信じた父親が、売り出すのにお金がいると言われ、銀行に借金に行くと、銀行員は「芸能界はギャンブルだからやめた方がいい」と諭す。が、父親は「これはギャンブルではなく投資だ」と言う。息子の才能に対する投資、なのだが、やっぱり芸能界はギャンブルで、父親は広大な農場の大部分を失ってしまう。
そもそもお金がないからあきらめる人もいるわけだが、才能があると信じてお金をつぎ込んでも成功しないのも世の常なわけで、それは芸能界だけではない。でも、この一家には、広大な農地を失い、弟は今も成功せずに音楽を続けているけれど、弟の妻も含めた家族は仲が良く、人生を楽しんでいるように見えたのがよかった。「家族っていいな」と思わせる映画は多いが、家族に恵まれなかった私はそういう映画を見て「いいな」とは思っても、心から、「家族っていいな」とは思えなかったのだが、この映画で初めて、「家族っていいな」と心から思えたのである。