本日公開の「セプテンバー5」。ミュンヘン五輪のテロ事件を描いた作品。
ミュンヘン五輪のテロ事件とその後を描いたスピルバーグの「ミュンヘン」が有名だが、こちらは五輪生中継を担当するABCのスポーツ局を描く。衛星によって世界中にテレビの生中継が可能になった時代。
ABCといえば今もアメリカの五輪生中継を担当していて、ここのせいで開催が8月ばかり、暑い地域では夏の五輪が開催できないと言われているのだが、この映画でもABCのスポーツ局のリーダーたちが視聴率のことしか考えてないという、かなり批判的な描かれ方。
まだ事件が始まる前から、彼らはスポーツを政治的な話題にして受けようとしていて、これ見たら、やっぱりスポーツに政治を持ち込むのはあかん、と思ってしまう。
事件が始まると、スポーツ局では手に負えない、報道局に任せろ、というアメリカの本部からの声を無視というか、報道局に取られたくない、現地にいるこっちでやりたいという見栄と、視聴率を取りたい、特ダネをものにしたいという欲望で動いているのがミエミエ。
唯一、報道としての姿勢に疑問を持って意見する人がいるが、通らない。テロリストは五輪だと注目されるからやっているので、中継したら彼らの思う壺、という意見は正しいのだが。
テロリストもテレビを見ているかもしれない、とかまるで思いつかず、ABCを見てるのはアメリカだけと思い込むとか、この時代だとしょうがないのかもしれないけど、アメリカのことしか見えてないのがよくわかる。
日本も浅間山荘事件を連日生中継してたので、人のことは言えないのだけどね。
この映画、ミュンヘン五輪の舞台である西ドイツのやり方にも批判的なのだが、あとで調べたらドイツとアメリカの合作だった。どうりで。監督、知らない名前だな、と思ったらスイス人で、ミュンヘンの大学で映像を学んだらしい。
西ドイツにとってはミュンヘン五輪というのは戦後の民主化した西ドイツのアピールでもあったように描かれていて、そこがベルリン五輪とは違う意味で政治的だったわけだな、と気づいた。
そもそも選手村の警備が手薄だとか、事件が起こったのは未明なのにその日の競技を中止せず、あとになって中止。人質が全員死亡という大惨事になり、イスラエル選手団だけでなくアラブ諸国の選手団も帰国したのに、五輪を中止せずに続行というIOCの対応も疑問で、事件が起きている最中に競技していたり、選手がくつろいでいたりする映像が流れるのがぞっとする。
映画はミュンヘンのABCスポーツ局の報道室だけで展開し、外の様子はモニターに映るだけなのがユニークで緊迫感がある。映像は1970年代のアメリカ映画のテイスト。監督はスイス人だというけれど、内容的には「ネットワーク」に通じるいかにもアメリカ的な報道ドラマで、演出も脚本も感心した。90分余りという上映時間もむだがなくてよい。「リアル・ペイン」も90分なのでむだのない映画だったが、今はこういう短い映画が貴重。
主要人物の1人が通訳を兼ねて採用された現地スタッフのドイツ人女性で、彼女が報道室のスタッフの手足となって、外に出て報告をしてくるのだけれど、彼女がこのような報道とその結果をどのように見ているのかははっきりしなかった。ここがちょっと物足りない。スタッフにアルジェリア系の男がいて、アラブ人を悪者扱いするスタッフに苦言を呈するが、背景にあるイスラエルとパレスチナの問題にはいっさい触れていない。まあ、そこは「ミュンヘン」を見てね、ということなのだろうけど。