ジェシー・アイゼンバーグ監督脚本主演の「リアル・ペイン 心の旅」。アカデミー賞に2部門でノミネートされたせいか、お客さんがかなり入っている。ファーストデーの日比谷シャンテシネとか予約でかなり埋まっていた。私は月曜に流山おおたかの森へ行ったが、ここも月曜にしては入りがいいと思った。
のっけからショパンの有名なノクターン2番で始まり、その後も次々とショパンのピアノ曲がBGMとして奏でられる。
物語はいとこ同士の2人、デイヴとベンが亡き祖母のポーランドの故郷を訪ねるというもので、その前にポーランドのユダヤ人の歴史をたどるツアーに参加する。
ポーランドだからショパンなのか。でも、ユダヤ人問題とは関係ないはず。ポーランドといえばショパンだからショパンを使っているのか。しかも、次から次へとジャンジャカジャンジャカ、ショパンの派手なピアノ曲が流れている。
なんだ、この違和感は。
前半はホロコースト以前のポーランドのユダヤ人の歴史名所を訪ねる。ツアーに参加している人はほとんどホロコーストを生き延びたユダヤ人の子孫で、デイヴとベンもそう。ツアーのガイドはユダヤ人ではない英国人、そして、ルワンダの虐殺を逃れてカナダに渡り、そこでユダヤ教に改宗したアフリカ人がいる。
キアラン・カルキン演じるベンは、根は善良だし明るいのだが、空気読めないというか、言動がぶっ飛んでいて、ツアーの内容について文句を言い始め、周囲は戸惑う。ジェシー・アイゼンバーグ演じるいとこのデイヴは困ってしまう。
ベンは、ツアーの客たちがホロコーストを生き延びたユダヤ人の子孫であるにもかかわらず、列車の一等車に乗り、豪華なホテルや豪華な食事を満喫していることに偽善性を感じて文句を言う。先祖のリアル・ペインを感じていない、というわけだ。
ああ、そうか、ポーランドだからショパンの曲、ということの違和感は、そのことだったのか?
ベンはツアーの客たちを困惑させるが、その一方で、明るく陽気な性格なところは好意的に見られている。
以下、ネタバレ大有りになります。
歴史ツアーのあと、一行がレストランで食事をするシーンになり、このシーンではショパンは封印される。例によってベンが傍若無人にふるまったあと、席を立ったところで、デイヴがそれまで隠していた心情を吐露する。ベンは半年前に自殺をはかったが、ホロコーストを生き延びた人たちのおかげで自分があるのに、なぜ命を断とうとしたのか、と言う。このツアーの参加はデイヴが決めたことで、それでベンは違和感を感じて文句を言っていたのだが、デイヴはホロコーストの歴史をベンに見せることで命の大切さみたいなものを教えようとしたのだろう。
デイヴはその陽気さで人気者になれるベンに嫉妬もしているようだ。このシーンの最後では、レストランのピアノでベンが「二人でお茶を」を弾き、拍手喝采を浴びる音が流れる。
後半はまた歴史ツアーで、ショパンの曲が次々と流れる。そして最後に強制収容所のガス室へ行く。そこでは音楽は流れない。
そのあと、2人はツアーの一行と別れて祖母が住んでいた家に行くのだが、このあと流れるショパンの曲は映画にぴたりと合っていて違和感がない。と思ったら、彼らはショパン空港へ行き、アメリカに帰るのだ。
2人の主人公が旅をするコメディの系譜の作品で、そこがアメリカでは受けている感じもする。確かにうまい脚本、演出、演技だとは思うが、リアル・ペイン(リアルな苦痛)とはいったい何なのか。自殺未遂したベンが感じていたものなのか、そういうベンを見守り、苦悩してきたデイヴが感じているものなのか。あるいは、ホロコーストなどの犠牲者が感じた苦痛なのか。
映画はその肝心な部分に切り込んでいない、と感じた。ショパンの曲をうるさいくらい流し続けたら、そうなってしまうだろう。