2025年2月18日火曜日

「ノー・アザー・ランド」&「あの歌を憶えている」(ネタバレ注意)

 試写で見せていただいた2本。


アカデミー賞ノミネートされているドキュメンタリー「ノー・アザー・ランド」は、パレスチナ人が昔から住んでいる地域の家を、イスラエルが次々と壊してそこを軍事施設にしようとしているのを、パレスチナ人とイスラエル人の若いジャーナリストが告発する映像を撮り続けるのを数年間記録したもの。

昨日見た「愛を耕すひと」を、18世紀初頭の話なのに中世みたい、と書いたが、この映画を見たら、「愛を耕すひと」の話はそのままパレスチナ問題の寓話になってるんじゃないかと思った。

「愛を耕すひと」は領主が先住で、その近くの荒れ地を開拓する人が来るのでそれを排除しようとどんなひどいことでもするのだが、「ノー・アザー・ランド」で描かれているのは、あとから来たイスラエルが先住のパレスチナ人をどんなひどいことをしてでも追い出そうとしている。領主もイスラエルも、自分たちとは違う人々が近くにいて、脅威になるのがいやなわけで、「愛を耕すひと」は国有地を肥沃な土地にしようとしてるだけだし、パレスチナ人はもとから住んでいたところに住み続けたいだけなのだが。

どちらの映画も結末は悲観的で、正義など通らない世界だ。


ジェシカ・チャステインとピーター・サースガード主演の「あの歌を憶えている」。

どういう映画なのかイマイチよくわからず、あまり興味を持てなかったのが、見てよかった。

原題の「Memory」とは、認知症で最近の記憶が残らない男性と、いまわしい過去の記憶に悩まされる女性、その2人の対照的な記憶だったのだ。

同窓会会場からあとをつけてきた男ソールを、幼い自分を集団レイプした少年グループの1人と勘違いした女シルヴィアは彼を問い詰めるが、ソールには記憶がない。その後、ソールはシルヴィアと入れ違いで転校したので、当時、2人は出会っていなかったとわかり、独身の2人はつきあうようになり、やがて恋に、という展開に。しかし、シルヴィアの家族もソールの家族も2人のつきあいに不安を抱き、反対する。

と、ここまではわりと普通の2家族のドラマだったのだが、結末近くになって急展開。シルヴィアがかつてアルコール依存症になり、その後断酒の会に参加し続けている理由もわかってくる。

以下ネタバレになります。


シルヴィアもソールも表向きは家族がいてよかったね、という感じなのだが、実はシルヴィアの家族はトンデモで、父親は幼い彼女を何度もレイプ、それに気づいていた妹はそれを母親に言うことができず、姉の味方にならなかった。家族がいてよかったどころか、こんな家族とは縁を切っていた方がよかったのだ。クライマックスではシルヴィアがそのことで母親を責め、妹もついに事実を証言するが、それでも母親は信じない。夫がそんなことをするということを絶対に受け入れたくないのだ。

家族がいれば幸せ、とか、そういうのをぶち壊す話なんだが、それでも最後は娘に救われる。

ストーリー的に少し疑問な部分もあり、また、認知症のソールがちょっと理想化されすぎている気もするが(認知症になるともっとつらい感じになると思うのだが)、見てよかった映画だった。